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星屑物語 49
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レーシャは閉ざされた扉がまた彼の手で開かないかと期待を込めて何時までもうるうるとした視線で見つめているのをこれが恋する女の子かと見守りながらもアリーはミシェルが先ほどからぱくぱくと食べているマカロンを何とか確保して二つに割ってクリームを掬ってから口へと運び、品の良い果物の味が広がる甘さを堪能してしまっていた。
色気より食い気のお年頃のアリーにはまだまだソナーのお菓子の誘惑に勝てる気配はない。
そもそもレーシャとルードは今日が初対面だし、レーシャは私が話をしたルードの一面しか知らないのだ。
どうしてそこまで思い入れが出来るのか判らないもののたぶん兄様達に聞けばそれが恋という物だよとわけのわからない答えを返してくれるのだけは判っていた。ナタリーと言う強者でさえそれで沈黙させた言葉の意味を今も判らないものの、なんとなく今のレーシャには当てはまる気がしてそう言う物だと思うのだった。が……
「ねえアリー、ルードさんってどういった方?
公爵家の使用人なのだからひょっとして何所かのお家の身分ある方ではないの?」
アリーはクリームの無くなった方のマカロンの皮をサクサクと食べながらレーシャが途端に女の子に変化した様子を目の当たりにしながら紅茶でマカロンを流し込んで
「確かに庭師をやるような身分じゃないけど、ルードはダメよ?」
「ダメって……ひょっとしてどなたがいるとか……」
早速の失恋にレーシャはそれなりにダメージをおっていた。
きっと初恋なのだろう、辛うじて涙こそ落してはないものの、眼は赤くウルウルとしている様子に一目ぼれってあるんだとなんとなく物語だけの世界じゃないんだと感動してしまうアリーは人妻であれどまだ恋を知らない女の子だ。
だけどルードはそれ以前に
「ルードは西の大陸からの留学生なの。
今私達より一つ上の十七歳で二十歳にはあちらに帰る事になってるの」
「西の大陸からって……」
驚いているレーシャはだったら一緒について行こうかなと言う呟きにこちらに来るのに半年の距離なんだから無理だって伝えても付いて行ってしまいそうな様子に恋する女の子って無敵だわと驚きながら
「それでね、ルードの場合お家の事情で結婚が許されてないの。
かなり特殊なお家事情で子供を残してはいけなくて、その為に異性との結婚は禁止されてるの。
子供がもし生まれたとしても絶対に認められない揚句に取り上げられるとか、上手く結婚したとしても別々に過ごさなくてはいけないらしくて余計寂しい思いをするだけという話なの」
驚きとそんな事情に顔色を悪くするレーシャにアリーは隣に座り
「そう言う事だからルードはルードの身の安全を考えてこの東側の大陸まで留学に来たの。
今なら多少の恋をしても誰もが目を瞑ってくれるかもしれないけど、とても貴重な血筋でその貴い血を受け継いでしまっているルードとは良き友人までの関係でいてほしいの」
自国では幸せを知る事が出来ないと言ったのはどの兄様だったか。
こちらに逃げてきたと言ってもいい事はレーシャが知る事はない。
「そんなの、ひどすぎます!」
「そうだな。だからこちらに来て人並みの幸せと、そして自分でしたい事をする自由を全力で楽しんでいるんだ。
そんな大した物かと思ったが、俺が東に留学した貴重な経験を振りかえれば、兄上みたいに将来の夢も希望も持てない代わりに与えられた時間は一生の宝物だ。守ってやらなければならない価値ある宝だ」
「庭師のお仕事もルードの幸せの一つだから、ルードを預かる私達はルードが選ぶ未来を応援する事にしているの。
だからレーシャの思いに応援が出来なくてごめんなさい」
「!」
頭を下げて謝るアリーにレーシャは思わず吐きだしそうになる言葉事呑み込んでゆっくりと息を吐きだした。先に釘をさすなんて卑怯だよと言いたかったけど
「本当はそれは言ったらいけない事じゃないの?
ルードさんの身分とかあまり知られたらいけない地位の人じゃないの。
それにそう言った話は本人の知らない所で話すべきものではないわ……」
言いながらも涙があふれていた。
これが失恋で、身分差で想いを寄せてはいけないのは私の方だなんて……
私を抱きしめてくれるアリーの胸元に顔を埋めればミシェル様は静かに席を立ち、室内を二人の世界にさせてくれて……
「アリー、ありがとう。私あなたとお友達になれてすごく幸せ」
まだ化粧の仕方も知らない私だけど目元を真っ赤にしてしまうのもかかわらず指先でこすってしまう。
「ダメねぇ、弟の為にこれから家の事を手伝わなくちゃと思ってたのに、これじゃあ私すぐ気の合った人を好きになっちゃいそう。
簡単に騙されるタイプね」
「大丈夫よ。本に書いてあったけど失恋したら強くなれるって書いてあったわ。
それにレーシャが同じ間違いを二度も繰り返す人でもないだろうし、ルードが多分特別だっただけの話しなの。
だからその思いを彼に感じてくれただけでも私は嬉しいわ」
「特別、そうね。私には特別。
たぶんずっと忘れられない特別になるわ」
「ええ、ありがとう。私もレーシャとお友達になれてすごく嬉しい。
そして私の大切な幼馴染を好きになってくれてありがとう」
涙が溢れだして止めれなくなったレーシャにごめんねと思うもそれでもアリーにはルードの方が守るべき人なのだ。
一つ年上の彼の穏やかそうな顔を思い出しながらこうやってお断りしたのは何度目かとサロンにかかるグレゴール初代の女性の肖像を見ながらあなたもルードみたいにモテたのですか?きっとモテモテだったのでしょうねと勝ち気な笑みと視線の女性に心の中でどのような恋愛をなされたのですかと問うのだった。
色気より食い気のお年頃のアリーにはまだまだソナーのお菓子の誘惑に勝てる気配はない。
そもそもレーシャとルードは今日が初対面だし、レーシャは私が話をしたルードの一面しか知らないのだ。
どうしてそこまで思い入れが出来るのか判らないもののたぶん兄様達に聞けばそれが恋という物だよとわけのわからない答えを返してくれるのだけは判っていた。ナタリーと言う強者でさえそれで沈黙させた言葉の意味を今も判らないものの、なんとなく今のレーシャには当てはまる気がしてそう言う物だと思うのだった。が……
「ねえアリー、ルードさんってどういった方?
公爵家の使用人なのだからひょっとして何所かのお家の身分ある方ではないの?」
アリーはクリームの無くなった方のマカロンの皮をサクサクと食べながらレーシャが途端に女の子に変化した様子を目の当たりにしながら紅茶でマカロンを流し込んで
「確かに庭師をやるような身分じゃないけど、ルードはダメよ?」
「ダメって……ひょっとしてどなたがいるとか……」
早速の失恋にレーシャはそれなりにダメージをおっていた。
きっと初恋なのだろう、辛うじて涙こそ落してはないものの、眼は赤くウルウルとしている様子に一目ぼれってあるんだとなんとなく物語だけの世界じゃないんだと感動してしまうアリーは人妻であれどまだ恋を知らない女の子だ。
だけどルードはそれ以前に
「ルードは西の大陸からの留学生なの。
今私達より一つ上の十七歳で二十歳にはあちらに帰る事になってるの」
「西の大陸からって……」
驚いているレーシャはだったら一緒について行こうかなと言う呟きにこちらに来るのに半年の距離なんだから無理だって伝えても付いて行ってしまいそうな様子に恋する女の子って無敵だわと驚きながら
「それでね、ルードの場合お家の事情で結婚が許されてないの。
かなり特殊なお家事情で子供を残してはいけなくて、その為に異性との結婚は禁止されてるの。
子供がもし生まれたとしても絶対に認められない揚句に取り上げられるとか、上手く結婚したとしても別々に過ごさなくてはいけないらしくて余計寂しい思いをするだけという話なの」
驚きとそんな事情に顔色を悪くするレーシャにアリーは隣に座り
「そう言う事だからルードはルードの身の安全を考えてこの東側の大陸まで留学に来たの。
今なら多少の恋をしても誰もが目を瞑ってくれるかもしれないけど、とても貴重な血筋でその貴い血を受け継いでしまっているルードとは良き友人までの関係でいてほしいの」
自国では幸せを知る事が出来ないと言ったのはどの兄様だったか。
こちらに逃げてきたと言ってもいい事はレーシャが知る事はない。
「そんなの、ひどすぎます!」
「そうだな。だからこちらに来て人並みの幸せと、そして自分でしたい事をする自由を全力で楽しんでいるんだ。
そんな大した物かと思ったが、俺が東に留学した貴重な経験を振りかえれば、兄上みたいに将来の夢も希望も持てない代わりに与えられた時間は一生の宝物だ。守ってやらなければならない価値ある宝だ」
「庭師のお仕事もルードの幸せの一つだから、ルードを預かる私達はルードが選ぶ未来を応援する事にしているの。
だからレーシャの思いに応援が出来なくてごめんなさい」
「!」
頭を下げて謝るアリーにレーシャは思わず吐きだしそうになる言葉事呑み込んでゆっくりと息を吐きだした。先に釘をさすなんて卑怯だよと言いたかったけど
「本当はそれは言ったらいけない事じゃないの?
ルードさんの身分とかあまり知られたらいけない地位の人じゃないの。
それにそう言った話は本人の知らない所で話すべきものではないわ……」
言いながらも涙があふれていた。
これが失恋で、身分差で想いを寄せてはいけないのは私の方だなんて……
私を抱きしめてくれるアリーの胸元に顔を埋めればミシェル様は静かに席を立ち、室内を二人の世界にさせてくれて……
「アリー、ありがとう。私あなたとお友達になれてすごく幸せ」
まだ化粧の仕方も知らない私だけど目元を真っ赤にしてしまうのもかかわらず指先でこすってしまう。
「ダメねぇ、弟の為にこれから家の事を手伝わなくちゃと思ってたのに、これじゃあ私すぐ気の合った人を好きになっちゃいそう。
簡単に騙されるタイプね」
「大丈夫よ。本に書いてあったけど失恋したら強くなれるって書いてあったわ。
それにレーシャが同じ間違いを二度も繰り返す人でもないだろうし、ルードが多分特別だっただけの話しなの。
だからその思いを彼に感じてくれただけでも私は嬉しいわ」
「特別、そうね。私には特別。
たぶんずっと忘れられない特別になるわ」
「ええ、ありがとう。私もレーシャとお友達になれてすごく嬉しい。
そして私の大切な幼馴染を好きになってくれてありがとう」
涙が溢れだして止めれなくなったレーシャにごめんねと思うもそれでもアリーにはルードの方が守るべき人なのだ。
一つ年上の彼の穏やかそうな顔を思い出しながらこうやってお断りしたのは何度目かとサロンにかかるグレゴール初代の女性の肖像を見ながらあなたもルードみたいにモテたのですか?きっとモテモテだったのでしょうねと勝ち気な笑みと視線の女性に心の中でどのような恋愛をなされたのですかと問うのだった。
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