流星物語

雪那 由多

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星屑物語 35

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 なんとなく重くなってしまった空気の中、ミシェルは職員室へと向かう道すがら

「俺達のクラスの先生はスティード・フォーレ先生って言って、フォーレ男爵の二男の方だ」

 俺達のしゃべりは朝の忙しい職員室ではただのかき消されるだけの雑音で、慌ただしい教師たちの準備の時間の中で俺達は細い通路をかき分けてフォーレ先生の机まで何とか辿り着いた。

「先生おはようございます」

 どこか殺気立っているような雰囲気もある中でミシェルのあかるい声が響けばフォーレ先生の顔がぱっと華やいだ。
 うん、立派な貴族の習性だねと微笑ましく眺めてしまえば私の顔を見て華やいだまま顔を傾ければ

「リンヴェル君おはよう。セルグラード君も一緒とは珍しい」

 どうも学校では家名に君を付けて呼ぶようだ。

「そして君は?」

 濃い茶色の髪ながら華やかな顔立ちはまるで舞台の俳優のようだが、笑みを張りつけた顔とは別にしたての良い服でも隠しきれない鍛え上げられた肉体のフォーレ先生はどう考えてもただの教師と言うには気配が敏感なようで、私を見て、すぅ……と細められた視線からの微かな殺気に思わずコテンと首をかしげてしまう。
 初対面なのに……
 何かしたっけかと過去を振り返って見るも、大概は知っている人へしでかしている為にこの人とは純粋に初対面だよなと感慨あぐねてしまう。

「ずっと休学していたアリアーネ・フェリウ・グレゴールだよ」
「ああ、編入と言うだけでも珍しいというのに顔も見せずに休学していた者だったな」

 どうやら睨まれていたらしい……

「で、アリー。
 内緒の話だけどフォーレ先生は家の父の直属の部下の一人だよ」
「殿下……」
「どおりで、ただの教師とは思えないと思ったら」
「え、先生って宮廷……ぐっ!」
「ラウイ、口に出していい事と口に出しちゃいけない事ぐらいそろそろ判別しような?」

   何故か足のつま先を抱えているラウイ様からそっと視線を外して見ないふりをしておく。
 周囲に人は多いのに誰も私達の会話何て耳にしてない。
 誰もが自分の事でいっぱいというように慌ただしく準備や連絡を取っている中で

「で、先生、彼女がグレゴールだ。
 家を出てうちに来たのならこの意味は分かるよね?」
「……」

 思わず黙ってしまった先生にミシェルは難しい顔をして

「もしわからなかったら帰ったらすぐ調べる」
「やっぱりここ数代誰も名乗ってないから覚えてる方が難しいんじゃないかな?」

 百年近く聞かない名前なら忘れ去られても仕方がないだろうと思うも

「どのみち家で仕事をするなら知っておかないといけない名前だ。
 帰ったら抜き打ち検査しないとなぁ」

 面倒だとぼやくミシェルに大変ねぇと人事じゃないけど同情しておく。

「さて、先に教室行ってるからアリーは先生と交流を図りながら一緒においで」
「交流は必要ですか?」
「必要だよ。
 まずは先生の名前を覚えよう」
「リンヴェル君、グレゴールだったな。
 君達は私を一体なんだと思ってるのだ?」
 
 冷ややかな先生の視線に早速失敗したとミシェルを睨んでしまうも

「先生、アリアーネはほんとに物凄い田舎って言う特殊な所で育って来たんだ。 
 家の人間より人が増えたらお祭りってぐらいの極地で育ったんだ。
 俺もそこで5年ばかし暮してたから知ってるけど物凄く人恋しくって半年ぐらいは毎晩泣くぐらいの辺境の地なんだ」
「ミシェルって何気に失礼ねぇ……」
「兄上と父上と同じ意見だったぞ?」
「……」
「……」

 私は勿論先生まで沈黙してしまえばラウイは何処か納得する様に頷く様にもうこの話題は終わらせてと盛大に心の中で訴えてしまう。

「とりあえずよくは判らんが先生の方はグレゴールをちゃんと教室まで連れて行く。これで安心するなら早く教室へ行け。
 もうすぐ予鈴がなる」
「では失礼します」
「失礼します」

 二人を見送れば先生は机の下から箱を取出し

「これが学校で預かっている教材だ。
 既に渡したのは持ってるな?」
「はい。ミシェルから今日の持ち物など教えてもらってるので大丈夫かと思います」

 大丈夫だと頷けば先生は小首を傾げて

「先ほどリンヴェルも言っていたが仲が良いのか?」

 年頃の男女がと言いたいのだろうが

「遠い親戚になります。
 お互い遠くに住んでいますが、しょっちゅう遊びに来ていただけるぐらいの仲良い関係だと思っております」
「親戚……
 そういう事はあまり口に出すなって言うか、そこまで近しい家なのか?」

 血族的にと言う意味なら

「互いの祖が同じですので」

 先生の顔から血の気が引いていた……

「安心してください。
 何かあればミシェルは私が守ります。
 これだけ気づかれにくい意識疎外の魔法を扱う先生なら何かあっても大概は大丈夫だと思いますが、それでも心配してしまうのは幼馴染だからと思ってください」

 難しい顔をする先生だったが、不躾な眼差しのまま私を見て

「デビューの時も思ったんだが、お前は目立つのが好きなのか?」

 何故かお前呼ばわりだったが意味が分からず首をかしげてしまえば

「制服にズボンを選ぶ女子は少ないな?」
「あのスカートで馬車から降りるとなるとさすがに私でも恥ずかしく思います」

 膝上どれだけになるのだろうか。
 もはや下着すら見えてなければ問題ないという丈の長さはさすがに勇気がなく……
 職員室の片隅を歩く女性とのスカート丈を見て愕然。
 普通に膝が見える見えないの長さで……

「ミシェルに嵌められた?!」

 何がと言う先生にスカートの丈の説明をすれば机に突っ伏して涙を流して笑っていた。
 さすがにそれだけ大声で笑っていれば意識疎外の魔法も効果はなく注目を集めてしまうも

「それは、不幸だったな。
 まぁ、令嬢の騎士スタイルも少数だが居るからそこまで気にする必要はない」

 くつくつと笑いながらも納得する先生にそう言う物ですか?と思うも、先生は書類の束を持ち

「教室に案内する」

 ついて来いと言う仕種に私は残りの教科書の箱を空間にしまえば先生は少しだけ目を見開いて

「アルバーナー殿下も使い手だったな?」
「はい、アル兄様には私の幼い頃のお世話をしていただきましたので」

 立派なあの辺境の地で育っただけの事はあると言っておく。

「私が言うのもなんだが、お前達が学校で学ぶ理由はあるのか?」

 廊下に出た所で人気のない中予鈴がなるのを聞いていれば

「ああ云う所なので人とのかかわり合いが何よりの勉強になります」
「なんか納得できた」

 真顔で、何処か死んだ瞳で言い返されて納得できないものの、そのまま私の祖だったクレヴィングの話しを先生は求め、短いながらもあのすばらしく美しい田舎を紹介出来たのは満足だった。


 


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