流星物語

雪那 由多

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星屑物語 33

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 リンヴェル王立学園は城の西側にある騎士団訓練場や新人の為の宿舎などが立ち並ぶ一角に建設されている。
 他にも広大な敷地面積を誇る図書館や馬術弓術を始めとした訓練場を纏めた総合運動場なども設置されている。
 どれもこれも立派な建物で連なる巨大建築物をあまり見た事のないアリーはぽかんと口を開けて見上げていた。

「一応国が運営する施設の一つだからな。
 総て作り上げるのに百年近くかかったが、総て初代リンヴェル王の構想の下に出来ている。
 学園に通う生徒達は全員騎士見習いと言う身分になり、施設を使用できる権利はもちろん使用料を支払えばちゃんと国民なら誰でも使う事も出来る」  
「魔道士を目指したり私のように顔を売るのを目的としても?」

 ミシェルの説明にそうだと頷き

「学園と言う施設でこの国最高峰の勉強する場を与えられるという恩恵を与えられるんだ。
 勉強するなり顔を売るなり鍛えるなりするなら別に学園に通わなくても出来る。
 だけど、それの上を目指すとならばこういった肩書が必要となるし、学園に入ればそれだけで身分が保証できるんだ。
 元騎士見習いの侍女何てそれだけで高位貴族の側で働けるし、生まれが確かなら王族の侍女も可能だ。
 騎士になるにも入隊する時は既に騎士として取り扱ってもらえるし、魔道士の使う貴重な薬なども安心して任せれる保証にもなる。
 それに学園に通うと言う事は学術武術と最高の教育を施されたとして結婚するには一番の判断材料になる。
 まぁ、どれもこれもアリーにとっては意味がないかもしれないが、アリーには将来そんな人物との人脈を築ける恰好の場となる事は確かだ」
「だから義母様は私に学園に入る様に仰って下さったのですね」

 そうだと言う様に力強く頷くミシェルにラウイは少し顔を顰めていた。
 その第一歩となるデビューの場を放棄したのだ。
 ミシェルの社交界デビューは結局カナール叔父様の紹介でウィスタリア王国で執り行う事になった。
 ウィスタリアに住む知り合いの令嬢のエスコート役を兼ねてのデビューとなる。
 この国とは違い、パートナーは兄や親戚だったり婚約者だったり深く縁のある者だったりと、横の繋がりを強く求める形になる。

『相手のお嬢さんは婚約者がまだ居ない子だから良かったらそのまま文でも交わして結婚の約束をしても良いし断っても良い。
 女の子ばかりの姉妹の長だから入り婿は歓迎される』

 と、紹介したカナル叔父様の弁だが……
 既に私に恥をかかしたのだ。
 私は恥とも思ってはないが、遠回しにこのお話を薦めるとしたらデビューを直前で断る事は許されないぞとの脅しが入っている。
 私としてはいい大人がいつまでも子供のような事をするなと言ういみでとらえるけど、ラウイ様は神妙な顔をして頷くのだからちょっとかわいそうになった。
 まぁ、自分の失敗は自分で償えと言う事なのだろうが、とりあえず晴れて社交界デビューなのだ。
 お義父様お義母様もほっとした所だろう。
 ぼんやりと王都の建築物を眺めている合間にも色々な事を考えてしまえば

「アリー見て、あれが学園だよ」
「わあ!学校なのにお城みたいね!
 所でラウイ様のお家もそうだけど皆さんお城みたいなお屋敷や施設がお好きなのですか?」
「ここ百年ぐらいの建物はみんなあんな感じだよ。
 その時その時の流行だね」
「流行ですか?
 そうなると我が家はもう骨董品ですね」
「だとすればうちもだな」

 思わずミシェルと一緒になって笑ってしまうも

「それよりも二人ともうすぐ着くよ。準備して……」

 完全に観光気分になってしまった私は思わず赤面してしまう。
 これだから田舎育ちは……と、反省した。

「見るものすべて目新しくて完全におのぼりさんですね」
「アリーはずーっとクレヴィングだったからな」
「って言うか、普通の令嬢はデビュー前までは他のお屋敷に行ったり、お屋敷からも出歩いたりしません。
 ましてや羊の毛刈りもしませんから」

 お互い誤解を生んだ一件に釘を刺しておく。

「羊の毛刈りか……
 俺も随分と手伝わされたな」
「ふふふ、毎年春の羊の毛刈り祭りは楽しかったわ」
「なにそれ……」

 ラウイ様のどこか半眼の視線に

「クレヴィング名物で春に植える苗を植え終える頃に一つの区切りとして祭りをやるんだ。
 暑がりの羊の為に皮膚病にならないようにって毛を刈るんだ」
「羊も毛を刈ってもらうと涼しいって事を知ってるからその頃になると誰かに刈ってもらいたくって襲ってくるからその前に刈らないと被害が出ちゃって大変なの」
「クレヴィングには絶対春行かないから」

 ラウイ様は何故か広いとは言えない馬車の片隅に逃げてしまうも

「クレヴィングに行くなら冬の初めがいいぞ。
 葡萄のワインや林檎のワインの新酒を開封する祭りがある。
 どの家でも自慢の料理を持ち寄って夜潰れるまで食べ放題飲み放題であれは楽しかったな。
 あ、もちろん子供はジュースだ。しぼりたてのジュースは美味いぞ」
「ええ、大人も子供もクレヴィングの各村で盛大に冬を乗り越える為のお祭りなの。
 今年もたくさんの収穫に恵まれた事を皆で分かち合う日なの。
 クレヴィングに足を運ぶならこの日がいいわ。それ以降だと雪が降り始めるからね」

 馬車の片隅に逃げながらもラウイ様は居住まいを正せれて

「だったら今度のその祭りに招待してくれ。
 王都の屋台を出しての祭りには毎年足を運ぶけど収穫をみんなで分かち合うと言うのはいいな。
 セルグラードの領地はあまり広くはないからそう言った祭りもないから。
 大きな領地を持つ領主がいる地では祭りがある事は知ってるがその領地の民への祭りと聞くから、呼ばれない限り顔を出せないから一度見て見たいとは思ったんだ……」

 言うも、何か子供っぽくまるでせがんで居るようで、最後は尻すぼみになってしまうも

「でしたらエル様やセルグラードの皆様と一緒に一度遊びに来てください。
 アル兄様も毎年参加してますからミシェルとラウイ様もご一緒にいかがです?」
「あ、ありがとう!ぜひ行くよ!」
「兄上毎年参加って……」
「安心してください。伯父様もこっそりご一緒してますから」
「父上何してるんですか……」

 確かにと思うけどやがて馬車はいくつも連なる馬車渋滞にゆっくりと進みだせばやがて門をくぐり、並木道を歩く速さで進んでいく。
 美しい緑の木漏れ日にクレヴィングの日々を思い出しながらうっとりと見上げてしまう。
 わずかひと月程度も過ぎてないのに随分見慣れた緑から遠ざかっていたと気づいて胸いっぱいに木々の香りのする空気を吸い込む。
 どこか乾燥した埃っぽい王都にもこんな素晴らしい場所があるんだと慌ただしい毎日にささくれ立った心が癒されていく。
 気持ちよさそうに窓から滑り込む風に目を閉じて堪能している私に

「今度の休みどこか遠乗りにでも行くか?」

 クレヴィングでの私を知るミシェルの嬉しい提案だが

「折角ですがその日はエル様とラウイ様と街の散策に行く予定なので」
「先約済みか」
「ブレッド兄様の妨害もあってやっとお休みが一緒になりましたから、また別の日に誘ってください」
「そう言われたらファウエルに譲ってやらないとな」

 ミシェルがそう言って笑っている合間に馬車が止まった。

「ミシェル様つきました」
「アリーの家族なら様を付けるのは止めろ」
「ですが……」
「校内なら誰も文句は言わせないさ。
 その代り俺もラウイと呼ばせてもらう」
「よ、喜んで」

 王族からの親しい呼び名の許可に随分と嬉しそうな顔をするラウイに可愛らしい所もあるんだと、あのつんけんした顔が印象的だっただけにほっこりと見守ってしまう。
 二人が愛称についていい合っている合間に扉が開いて一番扉に近いラウイ様から降りれば

「ラウイール今日は早いな!」

 お友達でしょうか長身の男性が馬車を見上げていた。
 と言うか、同じ制服を身に纏っているので同級生でしょうか?

「ジュリアンか、今日は父上に頼まれて義姉を迎えに行ってたんだ」
「義姉?
 お前の所三人兄弟で、誰か結婚したのか?」
「ああ、二番目の兄上がな……」
「噂では聞いていたが本当にか?」 
「式もお披露目もまだだからな。でも書類上立派に婚姻は認められている」
 
 どうやら私とエル様のお話をしているようだったが

「ラウイ、それより馬車の出口で足を止めるな」

 詰まってると文句を言いながらミシェルは馬車をぴょんというように飛び降りた。

「ミ、ミシェル殿下……」
「ああ、ジュリアン・フェルーだったな。
 ラウイは親しいのか?」
「中等学舎から一緒でしたので」
「ふーん。まぁいいか。
 ほら、アリー降りてきていいよ」
「ミシェルありがとう」

 ミシェルが差し出してくれた手を借りて馬車を下りる。
 馬車の座席は少し高めなので今日の制服はズボンにして正解だったと、あの丈の短いスカートならこの時点で下着を見られてるのではないかと勘ぐってしまう。
 いや、その為のあの丈か?
 学園長に文句を言わなくちゃと思いながら地面に足を付いた。

「大丈夫かい?」
「馬車は乗りなれないので少しふわふわしてます……」
「馬ならそんな事にはならないんだろうがな」
「思わぬ強敵です」

 ミシェルと二人で笑いあっていれば

「女、見かけない顔だな……」

 ものすごく険しい顔をしたジュリアン・フェルーがものすごい視線で私を見下ろしてきた。
 思わずと言う様にその顔を見るように視線を上げればその間にミシェルが入る。

「ジュリアン・フェルー、君は何時初対面の女性に向かってそのような言葉遣いをするように学んだのだ?
 そのような者が同じ学び舎で過ごす者だとは、フェルー家は信用に置けんな。
 相手がどのような身分であれ誰であれ丁寧に対応する事を君は家族から学ばなかったのかい?」
 
 つんとした表情でラウイよりも背の高いジュリアン・フェルーを見上げて

「アリー、ラウイ行こうか」

 何故かミシェルにエスコートされる形で校舎に向かって歩き出したが

「ねえ、これって逆に目立ってない?」
「そりゃ初めて見る生徒が王子にエスコートされてるんだ。
 みんな気になるし学校でも人気のミシェルを気にする女の子にしたら気が気でないよな?」
「あ、わたしなんか友達が出来ない気がしてきた」

 ラウイの指摘にミシェルが王族だった事を思い出す。
 クレヴィングの時のように手下でもなければ子分でもない事を思い出して随分ひどい扱いしていたなと反省。

「まぁ、何かあったら俺がフォローするさ。
 幼馴染で親戚で同じクラスの仲間だ。
 困った事があったらすぐ頼ってくれ」
「困ったわぁ。
 何時の間にミシェルがこんなにも頼もしく思える日が来るなんて思いもしなかったわ」
「ふふふ、これが留学の意味だよ」
「それよりも二人とも早く職員室に行きますよ。
 アリーを送ったら俺達も授業の準備があるんだから」

 ラウイの指摘に私達は慌てて校舎へと足を運ぶのだった。





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