流星物語

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
34 / 73

星屑物語 32

しおりを挟む
 真新しい服を身に纏い、鏡の前に立つ。
 ブレザーと言う学校の制服は初代リンヴェル王が提案して、多少の変化はあれど今は騎士服にも似たグレーのブレザーに学年ごとに首元に女の子はリボン、男の子はネクタイを絞める事になっている。
 スカートの丈が膝上だったりとかなり短めな物とズボンを選べるので義母様は両方を用意して下さっていた。

「アリーは初日はどちらにするの?」

 朝食の場でのエル様にそう聞かれたので

「今日はズボンの方で行ってみようかと思います。
 スカートよりズボンの方が着なれてると言うのもありますが、いくらなんでもあの短さは勇気がいるので学校になれたらにしてみます」
「ああ、うん。
 俺達の時よりもさらに短くなったから目のやり場に困るよな?」
「そうか?
 俺としては学校が楽しみだけど?」
「ミシェルは全く……
 大体スカートが短くてソックスが長いって見せたいのか隠したいのか良く判らないじゃないの」
「いやいや、一番重要なのはスカートの丈とニーハイとの間に生まれる柔肌がちゃんと見えると言う事だよ。
 うちの家の初代もそう言ってる文献があるくらいだし?」
「文献に残すだなんて……
 だったら男共も短パンとニーハイを穿け。
 それなら理解してあげる」
「あ、ごめん。ほんとうにごめんなさい!
 アリー、お願いだからズボンを奪わないで!
 お願いだからズボンを短くしようとしないで!」

 馬鹿な事を言うミシェルのズボンを奪い取り半ズボンにして返してやれば、他に穿く物がないミシェルは泣く泣くその短パンと化したズボンをはくも、生憎靴下は短く……

「アリー、やり過ぎだ」
「エル様はミシェルに優しすぎます!
 ミシェルには悪い事をしたらきちんと叱ってあげないとバカな事を繰り返すのですから泣くまで反省させなくてはいけないのですよ?」
「ああ、うん。
 でもミシェル王子泣いてるよ……」

 少し表情の硬いラウイ様がおろおろとしていた。
 私の初登校に合わせて校長室までの案内役をエル様はラウイ様にお願いしてくれた為に今朝は早く我が家に寄り道をしてくれたのだが、予想外な事にミシェルも案内しようと我が家にやって来た所でのバッティングだった。
 と言うかミシェル、貴方には頼んでないからねと十一カ月ほど早く生まれて一時期姉弟のように我が家で過ごしていたミシェル第二王子を私は愚兄として扱っている。
 セシルはもちろん私の兄役としては欠点だらけで今もやんちゃばかりで頭が痛いものの、この新学期を迎えるに当たり留学先から戻ってきたのだ。
 リンヴェル第二王子と言う地位にありながら幼い頃はクレヴィングに、そしてその後は留学をしている為にあまり顔は知られてなかったがそれでも学校生活を送れば兄アルバーナーによく似た顔立ちのミシェルは瞬く間に人気者になった。
 最も第二王子としての立場も人気の秘密だが、留学先でのびのびと育った彼は何処か大人びているのに人懐っこさもあり、乙女たちの心を鷲掴みしているという。
 私からしたらうざいだけだけど、まあ大切な幼馴染だ。話ぐらいはしてあげようと思っている。
 
「ミシェル王子は一度お戻りになって着替えて来ましょうか?」
「そうする。
 こうなるとうちとお隣でホント助かるよ」
 
 切れ端を持ってとぼとぼと帰る後姿を見送りながら紅茶を飲む。

「アリーは逞しいなぁ」
「ミシェルとは兄妹のように育ちましたから。
 どこまでお互い許せるかの距離感は掴んでますよ」
「ああ、でも、さすがに外でそれをやると不敬罪になるからやめようね」
「さすがに判ってますよ……」

 反射的に突っ込みたくなるのを止めれるかはわからないけどと心の中で舌を出しておく。
 アル兄様は子供の頃ほんと気弱だったから将来本当に国王になれるのかと心配していたが、留学から戻ってきた兄様とお会いした時はそんな心配は払しょくされて立派な王子となっていた時は子供ながら感涙と涙してしまったが……
 残念な事にミシェルは小さな頃のお馬鹿さは残ってしまったけど、それを上手く愛嬌に変換しているようなので問題はないだろう。

「だけど学校始まってもうだいぶ過ぎてるけど大丈夫か?」
「ええ、家の事で学校をお休みしているのは伝えて在るし、昨日復学手続きを済ませて無事問題ないと言われたので大丈夫でしょう」

 そう。
 ブレッド兄様の宿題が朝から夜寝るまでみっちり勉強して十日程の量だったので、泣く泣く学校を休む事を選ばざるを得ない環境だったのだ。
 それからもうすぐある王家主催の今年の爵位授与式を開催するのでその為の準備もしなくては行けなかった。
 義母様が張り切ってくれようとしたけど、それ以上にリンヴェルの伯父様が張り切ってくれて私と夫のエル様は着せ替え人形と化されて遊ばれる羽目になってしまった。
 それに合わせて実家からお父様とお母様も一度こちらに来ると言う。
 私の爵位授与式もあるが、エル様とのご家族との顔合わせもある。
 私の卒業後に結婚式を挙げると言う大まかな予定しかないが、それに向けて話を詰めなくてはならないからと手紙がやって来た時には本当に結婚するんだと今更な感想にエル様は苦笑をされていた。

「学校の準備はラウイにお願いしっぱなしだけど大丈夫かい?」
「はい。
 ラウイ様に必要な物は街に出て選んでもらいましたし、学校から持って来るように言われた物はナタリーが用意してくれたので大丈夫だと思います」
「少し緊張してるね?」

 心配げに私を見るエル様は本当に上に立つ人として私をよく見てくれていた。
 宿題の合間にも何度も休むように言ってくれたり、甘いお菓子を用意してくれたりと何度も気遣ってくれて本当にお優しい方でよかったと思う。

「学校は始めてですし、同じ年頃の方と一緒に過ごすと言うのも初めてです。
 勉強も今まで自分本位の仕方でしかした事がないし、学校の平均って言うのが判らないのでちゃんとついて行けるのか不安はあります」
「ああ、うん。
 俺は勉強については心配ないよと言っておくよ」
「エル様がそう言ってくれるのなら心強いですね」
「俺はむしろラウイの方が不安だ……」
「今はハウリーに時間を作ってもらってちゃんと勉強をしてるから」

 家庭教師を雇っていたけど入学テストの時平均より少し上ぐらいだと言う成績に満足できなくて今も執事の方に教えてもらっているという勤勉な所はさすが宰相のご子息と言った所でしょうか。

「なら安心だが、クラスが同じだったか?
 アリーを頼むよ」
「ああ、うん。
 ミシェル様もご一緒なので大丈夫だとは思いますが男子と女子では授業も選択によっては顔を合わせる事が無くなる為に心配です」
「まぁ、本当ならデビューの時に友人を作ればよかったけどいろいろあったからな。
 だからお前は責任とは言わんがちゃんと友人作りに協力してあげなさい」
「ああ、何人かアリー向けの子もいるし、貴族じゃない子もいるから幅広く友達が出来ると思うよ」
「それを聞くとなんか安心です。
 クレヴィングなんて本当に田舎で人とも滅多に合わないので上手く友達が出来るかそっちの方が心配です」
「ああ、そうだね……」

 遠い目をしてしまうエル様兄弟は失笑を零しつつも時計をちらりと見る。

「そろそろいい時間だな?」
「はい。
 エル様も今日は私の為にお仕事の時間を遅らせてしまい申し訳ありません」
「気にしないで。
 俺の仕事の時間はある程度自由がきくから。
 それに初日位送り出してあげたいと言う物なんだよ」

 本当にお優しい言葉と共にマリエルが私の鞄を持ってロビーまで移動する。

「それじゃあラウイ、アリーを頼むよ」
「兄上判ってますよ。
 じゃあ行こうか?」
「はい、では行ってきます」
「ああ、ラウイ頼むぞ」

 何故かちゃっかりと着替え直したミシェルが横に立っていた。

「早かったですね?」
「まぁ、隣同士別々に行くのも寂しいだろ?」
「ラウイ様が一緒にいて下さるからそんな事ないですわ」

 思わず笑顔で言えばミシェルはラウイ様に泣きついていた。
 うん。
 この泣き方はほっておいても大丈夫な奴だからとラウイ様に行きましょうと言えば迷惑な事に俺も一緒に行くとラウイ様に抱き着いていた。

「まったくミシェルは小さい頃から本当に泣き虫ねぇ」

 呆れながら馬車に乗り込めばミシェルはナタリーによってネコつまみで馬車に放り込んでくれた。

「お嬢様、このような我が儘王子をどこか途中の城の前に捨てて来てくださいませ」
「ナタリーはもう少し王子に優しく……」
「泣けば解決するなんて思っている王子なんてこの国には必要ありませんので」
「相変わらずナタリーは毒舌だなぁ。
 こっちに戻ってから侍女達にあれこれされて頭ぼけて来てたけどだいぶしゃっきりしてきた」
「それはなによりです。
 もし問題があれば私がテコ入れしましょう」
「ああ、父上は怯えてるけど酷くなる前に兄上に相談する」
「よろしい」

 そんな光景をエル様とラウイ様は無言で見守りながら私に言葉無く何か訴えて来たけど

「ナタリーは向こうからの監視役なので問題はありませんよ?」

 メイドの姿は仮の姿だと言えばエル様はナタリーの事を理解しているのか納得し、知らないラウイ様は小首をかしげていた。

「それでは改めて行ってまいります」
「ああ、気を付けて楽しんでおいで」

 それが合図となって滑り出すように馬車が走り出した。
 門の所ではヒューリーが見送り、先日切ったばかりの枝が馬車を傷つける事無く門を通り越した。
 さすが侯爵家の馬車は乗り心地が良く、室内の装飾もキランキランと美しく、久しぶりの視覚攻撃を反らす為に窓から見える街中の景色を堪能する事にした。
 
  




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...