流星物語

雪那 由多

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星屑物語 29

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 美しい大理石の廊下を靴の音を立てながら歩けばまた別の部屋へと案内される。
 重厚な扉はだいぶ見慣れた意匠の物。
 その扉を開ければ広さは勿論天井も高い何もない部屋。
 
「アリーとお揃いで剣を贈りたいと言う。
 好みの重さや長さを教えてもらえると良いのだが?」

 訂正、壁際に幾つもの見本の剣が並ぶ部屋へと案内された。

「アリーの好みは判ってるからな。
 ファウエルの情報が欲しいそれだけだ」

 言いながら剣の模造品を早く持てと急かしてきた。
 客に対して一体この人なんなんだよと思いながらも一本一本手に取り重さや俺好みの長さを探して行く。
 とはいっても結局は手に馴染んだ重さの剣を選び、そして今度は柄の握り具合まで調べられた。
 確かに剣の作り方としては基本に則ってるけどと思いながら幅やタイプをメモをして終了。

「まぁ、上品な貴族ならではの無難な剣だな」

 ふむと頷く失礼な男に軽く殴り付けたくなるも男は背を向けたまま

「近いうちにうちの店主がアリーとお前の剣を持って邪魔すると思う。
 剣を受け取ったら適当に菓子とジュースでも与えてたまには家に帰る様に言ってもらえるとありがたいのだが?」
「それのお菓子とジュースの件は、ナタリーも同じ事言ってましたが……」

 不敬にはならないのかと思うも

「まぁ、うちの国じゃわりと常識だからな」

 言うも遠い目をして笑っていた。
 そうなると何があったか逆に聞きたいぐらいだが、ブレッドと呼ばれた男は二、三回首を振って思考を吹き飛ばしていた。
 
「まぁ、店主が作るのは魔剣だから持つ際は注意する様に。
 あと、万が一魔力切れを起こすといけないから初回は一人で剣を持たない様に」
「魔剣でとなると初回の契約でしょうか?」
「ああ。
 俺達東側の人間は魔力なんてないから魔剣が最初に持ち主の魔力を吸い取るなんて知らなかったから、昔それで散々苦情言われたからなぁ」
「俺も普通の魔剣で契約を期に人がぶっ倒れるって話はあまり聞かないので……」
「クソッ……
 やっぱりあいつらのせいか……」

 苦虫を潰す顔のブレッドと呼ばれた男はブスッとした顔になるも、最初からそんな感じなので今更感は半端ない。

「それよりもブレッド様よろしいでしょうか?
 指輪をお包みしました」
「ああ、悪いな。
 じゃ支払いは今手持ちがあるのなら金貨三十枚だ」

 部屋を出てまた最初の店舗へと戻る。
 俺は財布と言うより皮袋から金貨を取り出して机の上に十枚ごとに積んで並べる。
 
「ほい、確かに受け取りました」

 領収書と共に美しい紙で丁寧に包装された箱を俺へと渡してくれる。
 金貨三十枚だなんてそんな金額を一度に支払う事がなくもないとはいえども、対応は雑な為に噂で聞く店と何か違うとなんとなく理不尽に思うも

「まぁ、その顔を見れば噂とは違うって事だけは理解してくれたみたいだな」
 
 テーブルカウンター越しにブレッドと呼ばれた男はニヤリと笑う。

「世間様の噂がどう流れているか俺達も全部は知らないが、少なくともよほど無茶な依頼がない限りごく普通の値段での販売をしている。
 ただどうしても魔石を使うと値段は高くなり、店主も別に仕事を持っている為にあまりこっちにのめり込んでほしくないから希少性と言う値段で価格を釣り上げて商売から店主を遠ざけていると思ってもらって構わない」
「売り上げとかはどうなってるのでしょうか……」

 補佐の呆れた声に店主代理は声を立てて笑い

「この魔石の発掘から店主の仕事は始まる。
 店主の労働代がこのセラート工房の価値だ。
 身に着けて相応しく、そして喜んでもらえる事だけが店主の願いだ。
 だから名前とか値段とか気にせずに普段から身に着けてもらえると店主は喜ぶ。
 それこそお菓子やジュースを貰った以上にだ」

 それはどういう事だろうと首をかしげてしまうも

「店主はファウエルを気に入っている。
 アリーとも仲良くしてくれれば店主も喜ぶ。
 そんな関係が続く事を俺達はただ願ってるだけさ」

 言いながらすぐ後ろに待機していたカヤに後は頼むと言って店の奥へと行ってしまい、買い物を終えた俺達は店を出るしかなく……
 
 気が付けば深々と頭を下げたカヤに見送られる形で店の外に立っていた。
 扉は音もなく閉まっていた。
 丁寧に袋に入れてもらったプレゼントはちゃんと手にぶら下がっている。

「なんか夢のような時間って言うか……」
「慌ただしい時間でしたねぇ……」
「って言うか俺達店のショーケースの中身さえゆっくり見てないし」
「いや、見たって買えないだろ……」
「妻に自慢したかった……」
「副たいちょー、多分それ喧嘩の理由になりますよ」

 言いながらも店舗前のグレゴール邸を見ていれば門を広げてヒューリーが立っていた。
 ちょうど騎士団の帰宅時間と重なったために誰もが不思議そうに、興味深げに眺めているのを俺達も眺めていた。
 だけどその隣にミルクティーを垂らしたような少女が立っていた。 
 何故かドレスではなく乗馬の服を着て剣を持って立って庭師のヒューリーと話をしていた。







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