流星物語

雪那 由多

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星屑物語 20

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 王太子自らって一体何なんだと思うも、彼はこの屋敷に来た時と同じように屋敷の裏門から道を挟んで王城へと続く門へと俺達を招き入れて登城する事になった。
 長く城勤めしていた門兵達は訳知り顔で苦笑していたが、初体験となる俺達はぎょっとするしかない。
 なんせ、中に入れば隠し通路から王族居住区の一角にすぐに入り込み、そのまま近衛兵にすら会う事なく王と対面する事になったのだ。
 招き入れられた部屋には俺達以外にも招待客が居たようですでにゆっくりとソファでくつろいでいた面々を見る。

ブライトナー侯爵家、ヒークス侯爵家、ザックス侯爵、ヒークス侯爵家、ブランク公爵家、ミハイロフ伯爵家。

 開国時以来の名家当主がそこに並んでいたのには驚きが隠せないでいた。
 彼らも俺達を見て

「これはこれは宰相殿。
 この度はご子息の婚姻おめでとうございます。
 お披露目の際は是非ともこの目で見たい物ですな」
「これはブランク公爵、このような場でお会いできるとは……」

 いきなりの大物に声を掛けられてさすがに宰相と言えども一瞬言葉が詰まったものの

「なに。ちょうど帰宅しようと思った所で陛下から一緒に夕食を食べようとお声が掛けられたんだ。
 今から話題のアリーの婿殿とそのご両親と会食するから一緒にどうだと」
「それでブランクのおじ様はこちらで待ってらっしゃって下すったのですか?」
「もちろん。あんな小さなアリーがもう可愛い花嫁だ。
 是非ともアリーを射止めた男を見なくてはと思ってな」
「たとえ毎日見慣れた顔でも見ておきたい物なんだよ」

 くつくつと笑うヒークス侯爵は俺に向かって

「我らは親の代よりずっと前からよくクレヴィング領に狩に行ったり別荘で余暇を過ごしたりして遊びに行ったのだ。
 馬の脚なら一晩で着くからな。
 よく陛下と一緒に王都を抜け出したもんだ。
 クレヴィング当主とは生まれる前からの付き合いだし、アリーも私の娘同然」

 笑う口元とは別に、アリーに悲しませるような事は許さんと言う笑わない視線に息をのむしかない。

「ヒークス、その辺にしてやってくれ。
 さっき散々怯えさせてきてやった所なんだ。
 おっさん達がいびって婿が逃げたんじゃアリーがかわいそすぎる」
「おう、それは一大事」
「二度とクレヴィングに足を入れさせてもらえないぞ」

 大変だと笑いながら言うも視線はだれ一人笑ってない。
 片隅で居心地悪くしている両親に助けを求めたい物の多分無理な話だろう。

 ほどなくして王家の執事の一人が扉を開けてお食事の用意が出来たと案内してくれれば、ミシェル王子が既に待ってくれていて、久しぶりと再会を喜ぶ今宵の主役のアリーを席へと案内してくれた。

 ほどなくして全員席へと着いて美しいカトラリーに目を奪われている間に陛下と王妃が普段とは違うリラックスした様子で現れた。

「さて、今宵は急なお招きにもかかわらず足を運んでくれてありがとう。
 そしてアリアーネ、ファウエルだったね。
 結婚おめでとう。
 出来れば婚約を発表してお披露目をしてから報告に来てくれると十分なお祝いが用意出来て伯父として面子が立つと言う物なのだが、あれだけの事をしでかした後だ。
 下手に変な輩に目をつけられるよりもすぐに婚姻関係になったのは良しとしよう。
 セルグラードの思惑がどうあれ、ファウエルと言うクレヴィング向けの良き騎士がアリーの婿になってくれてこれはこれで素晴らしいカップルだと思っている。
 ファウエル、アリーはこう見えても昔はじゃじゃ馬で小さい頃はよくアルもシェルも泣かされた物なんだ。
 さすがに今は二人とも泣かされる事はないと思うが、まぁ、二人が泣かされる理由については二人が圧倒的に悪いから仕方がないと言う物なんだ。
 この二人の性格が少しでも友として過ごしやすい物だとしたら、それはアリーの矯正によるたまものだ。
 このように母となるにも素晴らしい女性となる事はすでに実証済みだから仲睦まじく末永く暮らしていく事を私は伯父として願っているよ」

 乾杯とグラスを持ち上げての合図の後はその昔話に周囲は誰もが真摯に頷き、当人たちは恥ずかしそうに顔を赤らめながら談笑をしている。
 一体何があったんだと興味は尽きないが、それはまた別の機会に聞く事にしよう。
 そんな中国王がワインを片手に俺の隣に座ったかと思えば

「アルバーナーが言うにはすでにクレヴィング家から我がリンヴェル家との事情も兼ねて聞いていると聞く。
 そしてこの面々の顔ぶれも覚えてほしい。
 開国当時よりこの血筋を見守り続けてくれる王家の真なる騎士の面々を。
 もちろん騎士団の存在を蔑にしているわけではない。
 王国としての体面と、精霊リンヴェルと契約する王家を守る為の騎士。
 そしてもしリンヴェル王家に何かあった折りには第二の王家として立ち上がってもらわなくてはいけないクレヴィング家を守る為の騎士でもある。
 その血を守り繋ぐ事になったファウエルにはアリーをどうか守ってくれと我らは頭を下げるしかないのだ。
 それならアリーの弟のセシルがいると思うだろう。
 だが、アリーはリンヴェル家、クレヴィング家共に久しく生まれてこなかった女児。
 女児が生まれた折には必ずグレゴール邸を与えて主人として迎え入れる約束になっている。
 アリーにはグレゴール公爵家の爵位の封印を解いて当主として立ってもらわなくてはいけない。
 どうかまだ16になったばかりの少女だ。
 総ての面でこの子を助けてほしい」

 深々と頭を下げる国王に父上も母上もぎょっとするも

「あ、あの一つ聞きたいのですが……」

 もう今日は驚きすぎて麻痺してるのだろう。
 王に直接奏上するなんてと騎士にあるまじきふるまいだが

「して、何を?」
「アリーを、妻を守る事はお約束します。
 グレゴールの意味は一体……?」
「聞いたとは思うが初代リンヴェル王の姉君、ルーティア・グレゴールの家名だ。
 アリーの役目は王家が羽目を外したら容赦なく怒る役目だ。
 昔からそうだけど、それを良しとしない者達もいる。
 そう言った者達からアリーを守るのがお前の役目だ」
「たかが一騎士に何を……」
「それについては我らが手を打ってある。
 とりあえず侯爵の爵位を与える様に仕組んであるから、お前は流れに身を任せておればいい」
「ブライトナー卿、物凄い不穏な言葉を聞いたような気がしたのですが……」
「かわいいアリーを守る為の手筈だ。
 素直に我々の意図を組んでくれ。
 でないともっと恐ろしい方が予想外の何かをしでかそうとするから、その前に素直に我々のたくらみに乗ってくれ」

 真面目な顔で誰ともなくぶるりと身を振るわせながら顔を青ざめ、ワインを口へと運ぶ。
 曇り一つ無いカトラリーを使って晩餐とは違う昔ながらのリンゴをふんだんに使った親しみのある料理に舌包みを打ちながら、でも味は緊張の真っただ中でよくわからない。
 母も王妃と一対一と言う周囲に女性陣はアリーだけなので誰もうらやむ事はない物の普段なら直接言葉を交わす事も出来ないと言うのに一人占めしている状況に興奮しっぱなしで、だけど王妃も何やら俺達にはわからない女の花園の会話に花を咲かせている。
 女達がああいう顔をしている時はあまり混ざらない方がいいだろうとアルバーナーとミシェルからアリーとの昔話を聞きつつ懇親を深めながら、父は王と王が信頼する者達との会話を深めて行く。
 
 俺が妻を娶り、それから駆け足のような日々を暮すようになって三日目の出来事となった。
 


 



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