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星屑物語 11
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その日、騎士団は前日からのワイバーン騒動の一夜を乗り越え通常状態で朝の隊長会議を恙なく執り行う事が出来た。
「……という事から、目撃者のセルグラード侯爵より報告が上がって来た為にこの一件については収束宣言をする。
農村地帯の被害状況の速やかな試算の報告を。
以上、他に連絡は?
ないなら解散とする……」
白銀の髪を後ろへと撫でつけた騎士団の大きな旗の前に座る男、リンヴェル王国騎士団団長アレシクル・ウェイザーは四十六歳でありながらもその女性の視線を集める美形ぶりも、鍛え上げた肉体美も全てにおいて騎士団の長に相応しい男であったが、書類に目を通す姿さえ様になると言うのから大半の男が嫉妬し羨望する存在としても有名だ。
生まれは国が立ち上がった時より忠誠を誓う名門中の名門の分家の当主であり、剣に通じ、魔術も嗜み、それでいて権謀術も得意と言うのだから……なるべくして今の地位になったと言うしかないと言う男だった。
その騎士団長が腰を浮かそうとした所でファウエルは何処か視線を遠くに投げながら手を上げた。
周囲も団長アレシクルも珍しいと言うように少しだけ目を瞠っただけで席に座り直し
「ファウエル隊長、他にも何かあったかな?」
昨日のワイバーン騒動の場に家族そろって居た事は今朝の会議でも周囲の認知する所であったためにその話の何か、他に書類に記載されてない事かと思うも
「私事で申し訳ありませんが皆さんに報告があります」
客人を招いての家族団欒の場と言う情報があった為に、その前日の当分語るに困らない出来事をしでかした男にそれこそ面白いとアレシクルはひょいと片眉を器用に跳ね上げて「畏まって何だ?」と話を促せば
「昨日ですが、件の令嬢アリアーネ・クレヴィングと法的な結婚をした事をご報告します。
書類の変更などこの後関係部署に足を運びますのでよろしくお願いします」
一瞬室内がシーンとなったかと思えば
「君は……二度目の社交界デビューと言い、書類関係から始まる結婚と言い……
実に面白い話題を振りまいてくれる」
くっくっくっ……と、喉を震わせて笑いをこらえるアレシクルの姿に苦笑いを零すのが精いっぱいのファウエルだが
「じゃあせっかくの初夜が警備で台無しになったのか?」
隣に座るガウリー隊長がうわーと顔をひきつらせながら聞かれたくない事を聞いてきた。
その返答にさらに俺は逃げたい衝動を反対側に座るウェイク隊長に羽交い絞めされながら抑えられてさらに白状する。
「初夜どころか、彼女の家が何処かも知らないと言う間柄ですよ」
家令は知っているようですがと言えばついにと言うか室内は爆笑の渦に巻き込まれた。
さすがにこの反応にはファウエルとて泣きそうになった。
何が悲しくて二十をとっくに超えた男が初恋のような会話を披露しないといけないのだと机に項垂れながらからかいの渦に涙だけは流さなかったものの、その渦もノックの音と共に収まる。
取次の衛兵が謎の爆笑におののきながらも敬礼と共にアレシクルに報告をしようとするが
「騎士団長殿、盛り上がってる所すまないがファウエルをちょっと良いだろうか」
突如現れた父にさっきまでの涙を流しながら笑っていた面々はきっちりとした騎士の姿に戻った中俺はふてくされた顔を隠さずに周囲に会釈だけを済ませて扉の外へと向かおうとすればその隙間からちょこんと見えた甘いミルクティーのような髪に小首をかしげる。
「アリー、何で君が城に?」
「おはようございます。昨日の報告の証人としてお義父様に同行させていただきました」
その声に背後で息を呑む姿が見えた。
トントンと背後から聞こえる指先で机をたたく音に冷や汗を流しつつも入口まで迎えに行ってアリーの手を掬いとって彼女を室内に招き入れる。
「先ほどご報告いたしました妻のアリアーネです」
十六歳の少女が王族にも負けず劣らずの美しい淑女の礼を取るアリアーネの所作にどこぞの田舎娘かと心の中で笑っていたのにその佇まいの美しさに全員何故か驚きを隠さないくらい目を丸めた顔の中団長だけが立ち上がり
「初めまして。リンヴェル王国騎士団団長 アレシクル・ウェイザーといいます。
先ほど丁度ファウエル隊長よりお話を伺った所です。
ワイバーンの件があったとはいえ結婚初日を台無しにして申し訳ない。
このお詫びは後日騎士団連名で結婚のお祝いと言う形でお返ししたく存じます」
「……はあ」
気のない返事にアリアーネは俺を見上げる。
どうしたものか?と。
「お気遣いありがとうございます」
「あ、ありがとうございます?」
御礼の言葉を述べる俺に続く彼女は見た目通りの十六歳の少女だった。
そんな様子に室内は一気に気まずい空気が流れる。
『美少女だなんて聞いてないぞ!』
『あんな少女に全面頼られるなんて羨ましくないぞ!』
『幼な妻なんて羨ましいなんて言わねーからな!』
『落ち付け、六歳差なんて普通だろ?』
見ず知らずの世界に、ましてや一生懸命大人の世界の中を生き抜いて行こうとする健気さ。
そしてほっそりとした体つきはこの地域ではあまり見ないないほどの肌が透き通っており、ましてや甘いミルクティーのような髪が顔の縁を彩る甘い愛らしい顔立ちは男達の庇護欲をガッツリ掴むには十分すぎた。
さらにその白さを際立てるような濃紺の少し落ち着いた流行にとらわれないシンプルながらもそんなアリアーネ自身を引き立てるドレスは侯爵家令嬢として十二分に見る者に魅せてくれていた。
この場にいる独身の騎士団隊長はすべて血の涙を流している事にアリーが気付いてない事をファウエルは何かと不安に思うのだった。
「……という事から、目撃者のセルグラード侯爵より報告が上がって来た為にこの一件については収束宣言をする。
農村地帯の被害状況の速やかな試算の報告を。
以上、他に連絡は?
ないなら解散とする……」
白銀の髪を後ろへと撫でつけた騎士団の大きな旗の前に座る男、リンヴェル王国騎士団団長アレシクル・ウェイザーは四十六歳でありながらもその女性の視線を集める美形ぶりも、鍛え上げた肉体美も全てにおいて騎士団の長に相応しい男であったが、書類に目を通す姿さえ様になると言うのから大半の男が嫉妬し羨望する存在としても有名だ。
生まれは国が立ち上がった時より忠誠を誓う名門中の名門の分家の当主であり、剣に通じ、魔術も嗜み、それでいて権謀術も得意と言うのだから……なるべくして今の地位になったと言うしかないと言う男だった。
その騎士団長が腰を浮かそうとした所でファウエルは何処か視線を遠くに投げながら手を上げた。
周囲も団長アレシクルも珍しいと言うように少しだけ目を瞠っただけで席に座り直し
「ファウエル隊長、他にも何かあったかな?」
昨日のワイバーン騒動の場に家族そろって居た事は今朝の会議でも周囲の認知する所であったためにその話の何か、他に書類に記載されてない事かと思うも
「私事で申し訳ありませんが皆さんに報告があります」
客人を招いての家族団欒の場と言う情報があった為に、その前日の当分語るに困らない出来事をしでかした男にそれこそ面白いとアレシクルはひょいと片眉を器用に跳ね上げて「畏まって何だ?」と話を促せば
「昨日ですが、件の令嬢アリアーネ・クレヴィングと法的な結婚をした事をご報告します。
書類の変更などこの後関係部署に足を運びますのでよろしくお願いします」
一瞬室内がシーンとなったかと思えば
「君は……二度目の社交界デビューと言い、書類関係から始まる結婚と言い……
実に面白い話題を振りまいてくれる」
くっくっくっ……と、喉を震わせて笑いをこらえるアレシクルの姿に苦笑いを零すのが精いっぱいのファウエルだが
「じゃあせっかくの初夜が警備で台無しになったのか?」
隣に座るガウリー隊長がうわーと顔をひきつらせながら聞かれたくない事を聞いてきた。
その返答にさらに俺は逃げたい衝動を反対側に座るウェイク隊長に羽交い絞めされながら抑えられてさらに白状する。
「初夜どころか、彼女の家が何処かも知らないと言う間柄ですよ」
家令は知っているようですがと言えばついにと言うか室内は爆笑の渦に巻き込まれた。
さすがにこの反応にはファウエルとて泣きそうになった。
何が悲しくて二十をとっくに超えた男が初恋のような会話を披露しないといけないのだと机に項垂れながらからかいの渦に涙だけは流さなかったものの、その渦もノックの音と共に収まる。
取次の衛兵が謎の爆笑におののきながらも敬礼と共にアレシクルに報告をしようとするが
「騎士団長殿、盛り上がってる所すまないがファウエルをちょっと良いだろうか」
突如現れた父にさっきまでの涙を流しながら笑っていた面々はきっちりとした騎士の姿に戻った中俺はふてくされた顔を隠さずに周囲に会釈だけを済ませて扉の外へと向かおうとすればその隙間からちょこんと見えた甘いミルクティーのような髪に小首をかしげる。
「アリー、何で君が城に?」
「おはようございます。昨日の報告の証人としてお義父様に同行させていただきました」
その声に背後で息を呑む姿が見えた。
トントンと背後から聞こえる指先で机をたたく音に冷や汗を流しつつも入口まで迎えに行ってアリーの手を掬いとって彼女を室内に招き入れる。
「先ほどご報告いたしました妻のアリアーネです」
十六歳の少女が王族にも負けず劣らずの美しい淑女の礼を取るアリアーネの所作にどこぞの田舎娘かと心の中で笑っていたのにその佇まいの美しさに全員何故か驚きを隠さないくらい目を丸めた顔の中団長だけが立ち上がり
「初めまして。リンヴェル王国騎士団団長 アレシクル・ウェイザーといいます。
先ほど丁度ファウエル隊長よりお話を伺った所です。
ワイバーンの件があったとはいえ結婚初日を台無しにして申し訳ない。
このお詫びは後日騎士団連名で結婚のお祝いと言う形でお返ししたく存じます」
「……はあ」
気のない返事にアリアーネは俺を見上げる。
どうしたものか?と。
「お気遣いありがとうございます」
「あ、ありがとうございます?」
御礼の言葉を述べる俺に続く彼女は見た目通りの十六歳の少女だった。
そんな様子に室内は一気に気まずい空気が流れる。
『美少女だなんて聞いてないぞ!』
『あんな少女に全面頼られるなんて羨ましくないぞ!』
『幼な妻なんて羨ましいなんて言わねーからな!』
『落ち付け、六歳差なんて普通だろ?』
見ず知らずの世界に、ましてや一生懸命大人の世界の中を生き抜いて行こうとする健気さ。
そしてほっそりとした体つきはこの地域ではあまり見ないないほどの肌が透き通っており、ましてや甘いミルクティーのような髪が顔の縁を彩る甘い愛らしい顔立ちは男達の庇護欲をガッツリ掴むには十分すぎた。
さらにその白さを際立てるような濃紺の少し落ち着いた流行にとらわれないシンプルながらもそんなアリアーネ自身を引き立てるドレスは侯爵家令嬢として十二分に見る者に魅せてくれていた。
この場にいる独身の騎士団隊長はすべて血の涙を流している事にアリーが気付いてない事をファウエルは何かと不安に思うのだった。
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