公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、義父様が悪あがきをしております

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 それから瞬く間に半年以上が過ぎた。

 貴族の結婚でこんなにも準備期間が短いのは例が少ない。
 ないわけではないがそういう時は大体曰くが付いているのだが、今回早めた理由は他にある。
 遅れること一月後にアルベルトとキュラーの結婚式があるのだ。
 王族の、しかもいつの間にか王位継承争い一位にのし上がっていたアルベルトの婚姻は第一王子に相応しく周辺国にも招待状を送り、更にその場で立太子宣言と言う一大イベントを行うと国王陛下が決めたのだから、気遣わずにはいられない。
 さら一年後を目安に王位を継承する為に側室、第二王子以下は総て城から追い出される事となり今や派閥争いは生き残りのサバイバル状態で大変な事になっている。
 二人の結婚式にはフランもベルトラン公爵伴侶として参列できる。
 きっとその場で王家の瞳の事もばれ多くの人に知られるだろう。
 だけど国王はそれを望んでいる。
 王家の瞳が王にならなくても王家と親しい間柄で密接な友好関係で良いと言う例を作り上げるつもりなのだ。
 その為にフランは毎日俺と一緒に城に登城してアルベルトと一緒にセントラルと呼ばれるこの国の魔導中枢機関にある魔石に魔力を送るという一日十分程度のお仕事をこなして今では王子と仲良しと周囲にも認知されている。
 セントラルに設置されている見上げんばかりの巨大な魔石・センチュリーを用いた魔力増幅装置に王家の瞳の力が反応し、フラン一人で中枢機関に務める者が送る魔力を満たしてしまうのだ。
 もともと王家の瞳の力を持つ魔力と相性が良い素材とはいえ城の明かりから王都の街路灯の明かりまでフラン一人で賄えてしまう。
 毎朝この魔石に魔力を送り続けてへとへとな日々を送っていたのが嘘のようにフラン以外はお役御免となってしまった。
 最も五日に一度に休みを貰ってるので俺達も頑張らなくてはいけないが、バスクが公爵夫人(?)なのに働き過ぎだと主張して結婚後は三日に一度の休みになる予定になっている。
 まぁ、俺達はそれが仕事なのだから文句は言えないのだが、まさかこの事が理由で王家の瞳を持つ者を王に据えたいという思惑があるのではと疑えば誰もが一度は考えたようで誰ともなく失笑していた。

 とは言えだ。

「義父様、男同士の結婚式ってこう言うのもなんですが地味ですね」
「まぁ、さすがにウェディングドレスは着る気になれなかっただろ?」
「さすがに無理です」

 あれから何度もバスク様と共に夜を過ごし、何度も抱き合って朝を迎えた。
 バスク様の為にと目標を持った俺は体調不良があったのがウソみたいに調子を取り戻し、ひとまずベルトラン公爵家に嫁いでも問題ない位のレベルになった所でベルトラン公爵家の事を学びに結婚より一足早く先生方と一緒に住まいを公爵家に移している。
 その時に用意してくれた部屋に案内された時にトゥリエル嬢が前に言ってたウェディングドレスが待ち構えていたが……
 いくらバスク様に抱かれてもその一線だけは越えられずにいた。
 これだけはだめだと、「どうしてもというのなら結婚はしません」と言い切れば俺にはチョロアマなバスク様が涙を呑んですんなりと折れてくれたが、逆に危険を察して「結婚した日の夜にこれが部屋にあったらそのまままっすぐ家に帰ります」と主張すればベルトラン家の家令のサムソンさんがバスク様に微笑みながら「ならこれは必要ありませんね」と目の前で焼いてくれました。まともな人がいてくれてた事に俺は最大限の感謝に握手をするのだった。
 
「フランにはもっと早く家に迎えて一緒に過ごしたかったんだがな……」
「だけど義父様は俺の自立をすぐ側で見守ってくれてたじゃないですか」
「まぁ、そうだけど……」

 じっと真剣に見つめる瞳に気遅れてしまえば

「やっぱりまだ嫁に出すのは早いと思わないか?
 今ならここでバックれても何の問題も無いと思うんだが?
 アルベルト達の結婚式なら俺の息子として出席できるぞ?」
「今ごろ馬鹿なこと言わないでください。
 結婚式当日に花嫁が花嫁の父と逃げたなんてどんな醜聞ですか……」
「俺だったまだまだフランをかわいがりたいんだ!」
「何言ってるんです。
 城でお勤めした後は魔導院で魔法の勉強をしてるのですから実質バスク様と一緒にいる時間より多いですよ?」
「それでもあいつにくれてやるわけにはもったいないじゃないか!」
「今頃何言ってるのですか」

 周囲の人ははらはらとした面持ちで聞いているが花嫁の父の最後の悪あがきに苦笑も零れる。
 
「それよりも扉が開きましたよ。行きましょうか」
「ううう、娘でなくとも我が子とバージンロードを歩くのがこんなにも寂しいとは……」
「何なら義父様がバスク様と結婚します?
 俺がエスコートしますよ」
「それだけは断る。では行こう」

 さっきまでの泣き声が嘘のように凛とした声を合図に俺は義父様にエスコートされてこの先で待つバスク様の元へと一歩一歩を勿体ぶるように歩く。
 その中には知らない顔もあれば知った顔もある。
 ジェルもその中に居た。
 彼はあれから元家庭教師達を招いてこれからの事を相談すれば真っ先にあのふくよかな体が標準体形に変わった事に驚かれて医者を招いて健康診断をさせられたそうな……
 すぐに健康な事は判明し、それから冷静に話し合って魔導院の事務員から魔導院の魔道士に転職する事を当然のように薦められた。
 当時まだ魔導院に来て数か月で、今年魔導院に来た魔道士の中で誰よりも素質はあったのだ。
 俺と一緒にビクトール様に指導を受けて今では同期ではトップ、いくつもの課題をクリアしてビクトール様の直属の部下の一番下っ端と言う地位にもありついていた。
 まあ新人だし?と思うも新人で直属の部下と言うのは将来有望じゃないかと感心するしかない。
 そんなわけで結婚式に魔導院の方全員は呼べないのでこの屋敷にも足しげく通ってくれる直属の方をお招きしているのでジェルもいると言う事になった。
 人数制限からはみ出てしまったアイーダを招く事は出来なかった。
 数少ない俺の友人として招きたかったがちょっとこの結婚式にはいろんな事情が含まれているので呼べなかったというのが正しい。
 それに彼女は今魔導院を辞めてしまったのだ。
 正真正銘ただの庶民の彼女を侯爵家と公爵家の結婚式に招待するのは別の意味で可哀想だからと辞めておきなさいと言われてしまった。
 言わんとする事は理解できるので頷くしかない義父様の心遣いだ。
 彼女は俺が魔導院を辞めて暫くした頃家に呼び戻されたという。
 家の商会の中で派閥争いがある話は聞いていたが、その双方が自分の手下を連れて独立してしまったのだ。
 アイーダの両親はそれを許さなかったけど、勝手にやめてしまい店が回らなくなってしまってアイーダが連れ戻したという流れらしい。
 さらにその従業員達に顧客まで奪われ店は立ち行かないという近く閉店すると聞いている。
 アイーダに計算できない方が結婚を持ちかけて来たそうだが、面食いのアイーダが十歳以上年上の標準体重の二倍の男の下に行くわけがないし、もう一人の方はアイーダの性格を難有りと見てそんな話しすらなかった。
 借金の形に金を貸してくれる貴族の愛人にされる話も浮上してアイーダは家から逃げた。
 まぁ、この結末は当然だなと言ったのはバスク様。 
 一緒に働いてた時は気づかなかったがもともと問題のある商会だったらしく、こうなるのは時間の問題だったという。

 そしてもう一人の友人は……
 俺が住んでいたあの家にマウロは修繕をしながら今も住んでいる。
 あれから本格的に弟子入りが決まり腕を上げながら親方の仕事を手伝って自力であの雨漏りをして隙間風の酷い家を直しながら俺がいつ来ても良いようにと水平の机、ガタのないイスなど家具まで作ってくれていた。
 一度だけ会いに行った。
 バスク様と結婚する事になったと報告する為に。
 あの時マウロが居なかったら俺は本当にどうなってたか、心が死んでしまっていたかも知れなかったと感謝を述べれば少しだけ寂しそうな顔をするも

「フランの幸せが俺の幸せだから。
 フランが笑ってくれるその力になれて俺は幸せだよ」

 お人よし過ぎるだろうと呆れて馬鹿にしてた時もあったけど、俺は後にも先にもマウロ以上の親友は得られないだろうと思ったら涙が溢れだしてその胸に飛び込んでしまう。
 マウロは大げさだなと笑ってくれながら俺をあやしてくれた。
 
「フランは助けられたと言ってくれたけど本当に助けられたのは俺の方だ。
 あの時二度と会えない事は判ってた。だけどまた何かあった時今度こそ助けなくちゃと思ったらいつの間にか仕事も身に付いた。
 今まで流されるままだったけど初めて正面からぶつかる事が出来る様になって仕事も得て親方にもかわいがってもらっている。
 今では俺にとってフランが幸運の使者だとしか思えないよ」

 なんせ処女も貰っちゃったし?

 そっと耳元に落とされた言葉に俺は一瞬真っ赤になってしまうもすぐに二人して吹き出してしまった。

「俺の事は心配いらないから、フランは今度こそ幸せになるんだよ?」
「マウロこそ、マウロの幸せを見付けろよ」

 そう言って最後に俺を抱きしめてからあの日の朝のように送り出してくれたマウロの話しを遠くから様子を見てくれているシメオンが報告してくれる。

 俺とバスク様の結婚をして数年後、マウロが独り立ちする頃あの家に一人の女性が出入りをするようになった。
 大工の親方の娘らしい。
 子供も生まれて名前はフラン、男の子だという。
 何でも幸せを呼ぶ名前だと言っているらしい。
 思わず何かあった時はすぐに手を差し伸べてほしいとバスク様と義父様にお願いすれば恩人の為にもと了承してくれて今もシメオンが時折様子を見続けてくれている。

 ちなみにアイーダの消息は今も不明のままだ……
 











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