公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、義父様が行ってしまいました……

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 バスク様一人で騎士の方達を何人も何人も立て続けに相手をする。
 どうやらそう言った訓練らしい。
 体も小さく腕も細い騎士向きではない肉体と自前の剣なんて買えなかった俺は剣術の授業を最後まで取らなかったから見る機会も少なかった剣術の訓練の様子。
 初めて見ると言っても良いその様子ですらはらはらとするのに正面ではビクトール様が気にせずに本を読みながら紅茶を傾けていた。
 大丈夫と言う事なのだろうが、既に二ケタ目に達する数の相手を退けさえても「次っ!」と訓練場に響き渡るほどの声を上げて交代を促す。
 そしてその間に対戦者に指導を施していた。

 こんなバスク様なんて知らない……

 何時しか魅入る様に訓練の様子を眺めていればふいに飛び込んだ空っぽのティーカップの音に現実に引き戻された。

「あ、お茶のお替りを淹れますね」
「いや、それはいい。
 それよりも中々見ることはできないからもっと見てなさい」

 結構熱中して見ていた為に驚きに何度か悲鳴を上げた事も思い出してしまい顔を真っ赤にして「ありがとうございます」と小さな声で感謝をすればビクトール様は外で待機する侍女に熱い紅茶を再度要求していた。

 結局最後まで訓練の様子を齧りつく様に見てしまっていた。
 バスク様は最後まで一人で全員の剣の訓練をしていたのだ。
 途中何度か休憩入れるも直ぐに剣を取って訓練を再開するそれは自分への訓練のようでもあった。
 自分にないものに憧れるのはあるあるだけど、まさか、よもや剣を振るうバスク様に見ほれるとは思わなく、気付けばビクトール様はソファの手すりに頭を乗せて転寝までしていたのにも気付かないくらい夢中になって見てしまっていた。
 さすがに最後の敬礼の所で目を覚ましたみたいだけど、あくびと共に背筋を伸ばし、寝癖を手櫛で整えながら

「この国の最高峰の騎士の剣はなかなかにかっこいいだろう」

 素直にははいとは言えないけど、手を握りしめて熱中していた事もあり力なくソファの背もたれに身体を預けてしまえば頭がそうですと代わりに頷いていた。
 苦笑を零しながら侍女に改めて紅茶のお替りを要求していれば

「珍しいな、お前が合同訓練の見学に来てるとは」

 訓練場からそのまま来たのだろう。
 鎧こそ既に脱いでいるが、汗だくの体で髪も汗でぬれている。
 とても人前に現れる姿ではないが、従者なのか見習いの俺と大して変わらない年齢人がタオルや着替えなどを持ってついて来ていた。
 その人からタオルを貰ってこの見学の為の部屋に足を運びながら汗だくのシャツを脱いだ所で初めて俺の存在に気付いたらしい。
 ここにいるとは思ってないのか俺を見て固まってしまったバスク様と俺。
 だっていつもアホ面しか見てなかったから知らなかったけど鋭い視線とか背筋が伸びるくらいの凛とした声とか、ナンパな男のようにいつも絡んでくる体がこんなにも筋肉がむきむきとかお腹が割れてるとか胸筋とか太い腕と首回りとか……
 あまりにも男らしい以上の憧れる姿に顔を真っ赤にしてしまい俯いてしまう。
 そんな人が俺を愛してるとか……
 なに俺、何で女の子みたいな反応しちゃってるの?
 やめてよ、俺ってチョロインじゃなくってぼっち系なのになに期待してんだよ⁈
 頭の中はパニックで何も考えれないくらいに真っ白で、バスク様にドキドキしてるなんてなんでだよと自分で自分を叱咤している隙にふわりと濃厚なバスク様の匂いが近寄ってきた。
 汗臭いじゃなくってなんか香水みたいななんて言うの?
 これがバスク様の匂い?
 クラクラしそうな匂いに頭がどうにかなりそうで強く目を瞑ってしまう。
 だけどいつまでもそんなわけにもいかず恐る恐ると隣を見ればまだ汗をうっすらと浮かべるバスク様が何故か嬉しそうな顔で俺の顔を覗き込んでいた。

「ひょっとしてさっきの訓練の様子フランも見ていてくれたのか?」

 聞かれれば未だに真っ赤になった顔の俺は声が出ずに、でもそうだと頷く。

「結構がんばってただろう?カッコ良かったか?」

 さり気に何聞いてるんだよと思うも素直に頷いてしまった。
 さすがにこうも素直に返事をもらえるとは思ってなかったのかバスク様も固まってしまっていたが、その合間に侍女の人が紅茶を持って来たけどビクトール様が受け取り、部屋の片隅のサイドボードにいつの間にか従者から受け取った着替えとタオルも一緒に置いてそのまま従者の人と侍女を連れて部屋を出て行ってしまった。
 ビクトール様置いて行かないでください!
 心の中で壮絶な悲鳴を上げるもそれほどいやではないと思ってる汗の匂いを纏うバスク様はちゅ、ちゅ、といつものキス魔のように俺にキスを仕掛けてくる。
 だけどいつもみたいな悪口も抵抗なんて出来なくて、ゆっくりとソファに押し倒されてしまった。
 何度もキスを繰り返され、するりするりと俺の服を脱がして行く。
 こんな所でやめろと叫びたいけど、汗ばんだバスク様のしっとりとした肌が俺の肌とふれあい熱を伝えるように熱くしていく。
 風が窓のカーテンをからかい自然に外の世界から境界線となる。
 ビクトール様が言うにはこの場所は数ある身分ある人でも一握りしか入れないような特別の場所なので静かでいいと言っていた。
 今は本当にその事に感謝したい。









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