公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、こっそりですがお仕事拝見させていただきます

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 その後の俺はと言えば昼食まで一緒にお茶とお菓子を囲んでこれからのスケジュールを立て、今の実力を知る為に簡単なテストを受けていた。
 みんなで話しをしながらのテストはあまり集中できなかったけど先生方はお互いのテストを逆に質問すると言う熱心な方で、その話を聞くのも面白かった。
 アリサにお茶を入れてもらい、判らない質問には丁寧に説明を入れてくれた。
 そしてシメオンがどこから取り寄せたのか学園時代の俺の成績表と教科書とノートを持ち出してきて、それも先生達の判断材料にされてしまった。
 字が汚くて済みませんと申し訳なさで身体を小さくさせている合間にもシメオンは俺が前に話した学校の様子を先生達に教えてくれた。
 皆様難しい顔をしているけど成績だけ見れば悪くなかったはずだと自負している。
 寮で働いたとしてもその後自室で図書館から借り放題の本を読んだり好き放題勉強が出来たのだ。
 選択制の授業なので全学年から言えばどれぐらいか判らないが、教科ごとに出る順位では常に上位五位以内に入っていた。
 他にやる事がないと言われればそれまでだが、それでもそうやって順位に現れるのは学生生活の中の数少ない楽しみの一つだった。
 シメオンと一緒に溜息を吐きながら頭を振るあたり、致命的な何かが足りないのは判った。
 正直魔導院の長の息子としては足りない事だらけなのは自覚がある。
 その為の家庭教師なのだからと姿勢を正して俺のテストの評価を待てば

「こんなにもがんばっている子が評価されないなんておかしすぎるわ。
 三年の準備期間を置いて私あの学園長を追い出して私が学園の長になりましょう!」

 眼鏡をかけた一人が言えばそうだそうだと囃し立てて何故か全員が頷いていた。 
 なんでそうなったのか判らないが俺の教育は三年以内で済ますという事らしい。
 素晴らしい気合いだなと思いながら昼食を挟んで早速授業となった。
 どうやらビクトール様は短期集中で必要最低限を教えるという方針らしい。
 なので先生方も泊り込みで一日三食と睡眠以外は勉強と言うかそんなスケジュールで本当に効率がいいのか疑ってしまうも俺が選べる方針ではないので素直に従う事にしておく。

 そんな調子で十日程が瞬く間に過ぎた。
 環境も変わり、目まぐるしい日々と緊張の日々。

 ついに朝起きれなくなってしまった……
 
 教師陣は悪くないと思う。
 真面目に勉強に励む従順な俺と悪くないとは思う物覚え。
 メインになる教師一人と俺と一緒に講義を受けるほかの先生方。
 一対一ではないという環境が逆に逃げ場をなくすことで心が疲弊してしまったのだ……

「シメオン、アリサごめんなさい……」
 
 熱は出ないが頭痛と止まらない吐き気。
 風邪の諸症状かと思うも勉強はなしと聞かされると調子は良くなり食欲も戻る。
 そして次の日も同じ事の繰り返し。

「まぁ、急ぎ過ぎた俺も悪かった。暫くは勉強しないはダメだが朝食後一時間、昼食後一時間夕食後に一時間と時間を決めよう」

 物凄い必死の真面目な顔でビクトール様が決断してくれた。

「我らも申し訳ない、あまりにフラン君が君と違って理想の生徒だった為にいきなり追い込み過ぎてしまった」

 しょぼんと項垂れる教師陣は改めて一日三時間までスローダウンした授業時間に教師陣も改めてスケジュールを組み直すと言って下がって行ってくれたが、長い時間をかけて朝食を食べ終わった後ビクトール様は少し顔を上げて俺の頭を撫でながら

「今日は少し気分転換に城に行こう。
 ひょっとしたら面白いものが見れるぞ?」
「今日、今からですか?」

 すっかり仕事から離れて本日の魔導院の予定が全く理解できなくなってしまっていたが

「ああ、今日は俺も休みだからな。 
 きっとフランは行った所がない場所だから興味深いと思うぞ?」

 言いながらシメオンに外出の準備をしてもらい馬車に乗せられて城へと向かった。




 ビクトール様は休みとは言え魔導院の長が城に登城する以上略式の魔導院の制服をお召しになるが、おれは何の肩書も無いので城を訪問するにふさわしい恰好にさせられてしまった。
 周囲にもいるサーコートを着てビクトール様の後ろを歩けば周囲から何度も声をかけられるも挨拶をしてスルーしていくビクトール様は城内なんて慣れた物だと言わんばかりに奥へ奥へと足を向けていた。
 暫くもしないうちに俺みたいな城見学のような人の姿も見えなくなった場所に潜り込んで人気も無くなり大丈夫かと思うもやがてガチャガチャと鎧の音が響くようになってきた。
 それから金属と金属のぶつかり合う音とともに籠る気合いの声。
 ビクトール様は大きな窓の付いた客室に俺を案内すれば窓際近くに置かれたソファになれたように座った。
 俺も同じように座れば待つ事も無く城勤めの侍女がやってきて

「ようこそカドレニー様。
 本日のお越しの目的を差し障りなく教えて頂ければとの事ですが……」

 それなりに身分の高い侍女なのだろう。
 姿勢正しくへその上に手を重ねての待機の姿勢は城勤めの女性の基本姿勢。
 そんな侍女が廊下の背後に何人か連れているあたり警戒されているのかと思うも

「なに、バスクの奴にはただの見学と伝えてくれ」
「承りました」
「あと何か飲み物を」
「承知いたしました」

 それだけを言って興味ないと言う様に大きな窓から外を眺める姿に俺も外を見れば予想外の人がそこにいた。

「バスク様ですか?」

 確認する様に聞けば

「ああ、今日は騎士団との稽古の日だと聞いてな。
 一度お前にあいつの真面目な姿を見せておこうと思って」
「近衛の方でも剣の訓練するのですね」
「まぁ、内勤勤めの印象があるが一応馬術剣術槍術などを学んだ選りすぐりの実力者だからな。
 とはいっても腕だけじゃ近衛になれない。頭脳品性も求められた頂点に立つ男だよ」
「その割には残念な方ですよね」

 言えばビクトール様はそうなんだよなと否定する事無く強く頷いていた。
 ビクトール様もそう思っていたのかとある意味新たな発見であったが

「とは言えだ。
 お前に一応あいつのかっこいい所を知ってもらおうかと思って連れてきたわけだ」
「かっこいいのですか?」
「まぁ、見てろ」

 そう言いながら侍女が持ってきた紅茶を傾けた。
 俺に見せる為と言う様にビクトール様は俺には全く意味不明な魔術の構築理論の本を読みだしたために俺はじっと剣の訓練の様子を眺めていた。






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