公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、朝から締まりのない顔は見苦しいです

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 朝を迎えアリサに身支度を手伝ってもらった。
 シメオンも朝食での予定を俺の部屋までやって来てくれて説明してくれる。
 ビクトール様と一緒に朝食を食べながら退職についての説明を受ける事になる。
 それから俺の魔術の先生として本格的に学ぶ為にビクトール様も学んだという方を招いて俺の適性を見てくれると言う。
 そしてマナーの先生、更にカドレニー家、ベルトラン家、バレンスエ家の歴史を学ぶ先生も招いての朝食となるという。
 既に朝食の場が会議の場所だと言わんばかりの来客は早々の予定で出来るわけではなく、総てビクトール様が前もってこうなる事を予想立てて準備して下さったとの事。
 俺の事を本当に考えてくれながらもビクトール様の手の上で転がされている感も無いとは言えないが、それでも俺の生き方を尊重してくれていたからこの一年俺は自分で自分を養うと言う事が出来たのだ。
 これからの事を思えばとても忘れがたい事をさせてもらったのだと感謝をしなくてはいけないと心に刻み

「フラン様、御髪はこのようでよろしいでしょうか?」

 アリサが俺の髪形を良く見えるように鏡を見せてくれた。
 
「うん。ちょっとイメージ変わったな?」
「はい。
 シメオンさんの鋏の技術は五日に一度はビクトール様の毛先の手入れをしてるので素晴らしいのですよ。
 でも随分と思い切って短くしましたね?」

 二枚の鏡を使って後ろ側も見せてくれた。
 襟足まで伸びていた髪は短くさっぱりとしてもらい、でも耳を隠していた横側は少しだけ手を入れた程度。
 一番変わったのは長い前髪だった。
 人の視線を避ける様に、誰にも気づかれないように周囲を伺うようかのように伸ばしていた長い前髪をばっさりと切ってもらい誰にでも見える様に、そして俺が視線を避けないようにとシメオンに切ってくれと決意を込めて言えば、シメオンは破顔して丁寧に、そして曰く付きのこの瞳が良く見える様に切ってくれたのだ。
 その後アリサがちょっと大人っぽいヘアスタイルにしましょうと片側に流れる様に、そして少し後ろに流れる様にと手を加えてくれたのだ。
 初めて見る自分の姿におかしくないかなとシメオンに聞くも、すっかり好々爺のような顔になってしまっているシメオンは

「ビクトール様のご子息がこのように美しくご成長なされシメオンめは年甲斐もなくフラン様のエスコート役を名乗り出たいですな」
「ははは、シメオンがいると心強いよ」

 言いながらももうすぐ朝食の場だからとお茶目にもシメオンが腕を差し出すので俺も悪乗りしてその腕に腕をからませればアリサが笑みを零しながら扉を開けてくれた。

「シメオン様、フラン様、どうぞ行ってらっしゃいませ」

 アリサも悪乗りするようだ。
 さすがにシメオンも笑いが零れてしまい、そのまま部屋から食堂の前までシメオンにエスコートされればこの寸劇もそこで終わりだ。

「ではお食事をお楽しみくださいませ」

 シメオンの腕から離れれば、彼はもういつもの通りの執事の顔に戻り、扉を開けてどうぞと背中を伸ばしたまま頭を下げるのだった。
 アリサは室内から見えない位置まで下がり誰に見られるわけでもないのにシメオンと同じように頭を下げる中俺は食堂へと入れば

「ああ、フラン。
 シメオンから話は聞いていたが、その勇気父として誇りに思う」
  
 目元にうっすらと隈を作ったビクトール様はこの朝食の場の為に徹夜をし手まで頑張ってくれたようだ。
 その証拠に何故か昨晩一緒に晩餐を頂いた方達も揃っていたのだ。
 トゥリエル家の皆様もジェルも当然バスク様も居て、アルベルト様の背後に二名の護衛の方が並んでいた。

「ああフラン、お前の可愛らしい顔をそんなにも良く見られるようにしたら独り占めできないではないか」
「朝から寝ぼけてるのですか?
 寝言は寝てから仰ってくださいバスク様」

 言えばアルベルト様は大笑いしてビクトール様はシメオンを呼んで

「バスクはまだ夢の中のようだ。寝室に連れてってくれ」
「承りました」
「待てビッキー!そしてシメオンも!
 俺は起きているぞ!」
「このような素晴らしい門出となる朝に頭の中がお花畑でいつまでも要るからだ」
「いやな、まだ書類だけとは言えフランと婚約をしてしまった。
 これ以上とないくらい喜ばしい日に何で浮かれずにいられる」
「婚約をしてしまった?」
「ああ、せっかくビッキーも承知してくれたし、昨日の晩にお前も承諾してくれたしな。
 婚約者のお披露目と言う事をしなくてはいけないが、それは改めてちゃんと打ち合わせをしよう」
「まぁ、しましたけど……
 お披露目とかって貴族ってめんどうですね」
「その面倒に手間暇かけるのが貴族と言う物だ。
 これが王族になるともっと形式ばったことが増えて結婚式に辿り着くまでに嫌になって破談となるケースも多々ある」
「多々あるんですか……」

 それには驚きだが

「それよりも後で少し時間を貰えるかフラン?」
「フラン、お前はアリサと絶対離れるな。
 シメオン、アリサを呼んでおけ」
「アリサは外に」

 今はそれでいいと頷いて見知らぬ人達もテーブルについていた。
 その視線に気づいたビクトール様は

「彼らがこれからのお前を支えてくれる。
 俺も子供の頃いろいろ世話をしてくれた方で迷惑もかけた方だ。
 自分で言うのもなんだがとても忍耐強い方達ばかりなので甘えても良いし我が儘も言っても良い。
 お前が受けれるはずだった教養を遅ればせながら教えてくれる素晴らしい方達だ」

 言えばさざ波のような笑い声にバスク様もアルベルト様も失笑を零し

「勉強嫌いのビッキーを捕まえて机に縛り付けてここまで育ててくれた先生方だ。
 普段はとても優しい方達だから良い生徒になってやってくれ」

 アルベルト様は笑いを堪えれなくついに机に突っ伏して

「俺も勉強嫌いだったがそれ以上がビッキーで、そんなビッキーを魔導院の長にまで育て上げた猛者達だ!
 腕は確かだ!保障してやる!」

 当時を思い出してかそちらから品の良い、でも迫力のある笑い声に俺はどうなるんだとただ冷や汗を流すだけだった。

「まぁ、そんな事もあったが、判らない事があればなんでも答えてくれる。 
 聞きたい事があればどんどん聞いてくれ」

 少しだけむっとするビクトール様に

「ならさっそくずっと気になってたのですが、王家の瞳って一体何ですか?」

 その質問には目の前に座るアルベルト様が

「あー、そっからか……」

 途方もない問題を差し出されたかのように誰もがこれは困ったという顔を隠しきれないでいた。


 


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