公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、一歩踏み出す勇気を信じてください

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 真剣な目をして俺の瞳をじっとのぞき込み
 
「予定通りお前はバスクと結婚してもらう」
「やっぱり……」
「良し!」

 想像が付いていただけに心のどこかは諦めていたが、目の前のバスク様の喜びようはこの悲劇の惨状しかない状態で無謀にもいい笑顔で拳を突き上げていればすぐ横から糖衣を纏った小さな一口大の菓子を投げつけられていた。

「ただし、フランを今すぐベルトラン公爵家にやる事は出来ん。
 マナーもそうだし公爵家の事をいろいろ学んでもらいたい。
 それに一応うちの子として嫁ぐのだから我が家の事も学んでほしいし、父も母もいずれはバレンスエ公爵領を健全な形にしてからフランに返してやりたいと言ってるからな。
 領地運営と暴動を起こさせないようにフランにもこれから本格的に魔術を学んでもらうつもりだ。
 バレンスエ公爵の領地運営は平常時なら問題も何もなかったが、夫妻お二方共に戦う事を選べなかった方。 
 フランにはいざとなった時戦う事はもちろん、その手足となる人材を集めてもらったり指揮する事も勉強してもらわなくてはならない。
 俺やバスクが十数年かけて学んできた事をお前にはこれから数年のうちに学んでもらわないといけないからな。
 籍とバレンスエ領の返還だけは早々に手続きはするが、ベルトラン公の屋敷で粗相はさせられない。
 つまり当分この家で修行だ。シメオンに指示を出しておくからゆっくりと学びなさい」
「おい、ビッ……」
「ビクトール様ありがとうございます!」

 思わず満面な笑顔でビクトール様にしがみついて感謝をするもビクトール様は難しい顔をしていた。
 何があるのかと思うも

「フランには仕事を辞めてもらう。出来ればすぐに明日にでも退職届を書いてもらいたい。
 これ以上人の目にさらされて危険に会う心配もだが、これから学んでもらう事は仕事の片手間では済まされない事ばかりだ。
 お前が頑張って勉強をしてやっとつかんだ職だが、無駄にして済まないと思う」

 ごめんなと頭を抱き寄せて撫でてくれる腕の中で

「ですが、それが御縁で俺はビクトール様の息子になれました。
 帰れる家が出来て、お義父様お義母様も出来ました。
 学園に行って、ちゃんと勉強して、職を得たからの事です。
 尊敬するビクトール様に息子と呼んでいただけてこれ以上の幸せはありません」
「悪いな。俺の妻に迎える事が出来れば話はもっと簡単だがそれでは父が王家の瞳を使って王位を狙ってると思われてしまう。
 保護した手前言うのもなんだが、ずっとこの屋敷に置いてやれない我々を許してくれ」
「ビクトール様……」

 胸にしがみついてビクトール様の優しさに泣いてしまうもすぐ横からお前ばかりいい思いするなと文句があると言わんばかりにビクトール様は紙に包まれた小さなチョコレートを投げられていた。
 魔道士でありながらもたくましい胸板を持つビクトール様の安心感に離れられずにいれば俺を膝に乗せて抱き寄せるビクトール様は

「このような内容で陛下とは約束を交わした事を皆に報告しておく。
 キュラーとの婚約を正式に交わした後に父がアルの王位継承手続きを早々に発表すると約束してくれた以上最低限この期間フランの瞳については沈黙を保ってほしい。
 遅くまでの時間に付き合って頂有り難く思う」

 そう言って食事会を終わらせたビクトール様はこの後少しまだ話をしたいからと俺にシメオンを付き添わせて先に休みなさいと部屋へと戻るように言われた。



 部屋に戻ればすぐに侍女の方達が暖かなタオルで身体を拭ってくれてパジャマに着替えさせてくれた。
 体中にはまだマウロとの思い出が刻まれているけどアリサ達はその事に一切触れずにいてくれた。
 申し訳なさもあるが、先に自暴自棄になっていた事もあり父と母と生家のショックはそこまで負担を感じなかったが、俺の事を思ってビクトール様が一生懸命考えてくれた事に対してと思うと申し訳なさが広がる。
 それは俺の自棄に付き合う事になってしまったマウロに対してもだが……

「ねえ、シメオンはバレンスエ公爵様の事を知ってる?」

 聞けばシメオンはいつもと同じように穏やかな顔をして

「はい、存じ上げております」

 着替え終えた俺をベットに押し込みすぐそばのテーブルに紅茶を淹れてくれた。

「どんな人なのかな?」

 今まで思った事はあっても父と母を知る相手がいなかったために思わずと言う様に聞いてしまえば

「そうですね。フラン様はどちらかと奥様によく似ておいでです。
 総じて公爵様に似ているようにも思いますが、御髪の色も大きな瞳が奥様譲りなのでぱっと見て奥様を思い出してしまいます。
 ですがさすがに声は公爵様によく似ておいでです」
「若い頃を知っているのですか?」

 思わずと言う様に聞けば俺に毛布をかぶせながら

「はい、大旦那様と学友でした。
 学院に席を置く以前から大旦那様は私を連れて良く公爵様のお屋敷に遊びに行かれましたので存じ上げております」

 やっと気が付いた。
 ビクトール様が、ビクトール様のお父様がこんなにも俺に良くしてくれる理由を初めて理解できた。

「父とおじい様は友達だったのですね?」
「ええ、俗に言う「親友」とお互い呼び合ってました。
 旦那様も幼い頃よりそれはそれは可愛がっていただきました。
 ですが、それでもあの時はお互い助けあう事が憚れてしまいこのような悲しい結果になってしまいました」

 言いながらそっとランプを消そうとするシメオンの手に俺はとっさに手を伸ばし

「お願いがあるんだけど」

 このような時間にと首をかしげるシメオンに俺は少しの恐怖と戦いながら口を開けば驚きに見開かれるシメオンは、それでも嬉しそうに微笑みながら頷いてくれるのだった。












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