上 下
30 / 42

公爵様、本当に婚約者だったのですね……

しおりを挟む
 最初はすぐには理解できなくても理解しようと飲みこめる年齢でもあるのだから一言言ってくれればと言えばビクトール様は目を伏せて

「本当に申し訳ない。
 お前を見ると幼い頃のお前をつい思い出してしまい、なんというか庇護欲?
 守ってやらないとなって思うんだ……」
「幼い頃って……」
「五歳くらい?」
「ビッキー、さすがにそれは酷いですわよ」

 トゥリエル嬢からの抗議に済まないと頭を下げるも苦笑でその場を濁す。

「一応表向きにはバスクが熱望した恋愛結婚だと言えるし、他人の婚約者を王家が横から掻っ攫うと言う醜聞も悪い。
 お互いまだ成人前だからもし何かあって婚約を解消するとしても問題も無いし公表する義務もない。
 ただ正式に婚約を交わした相手がいる、幼いからまだ発表は避けている。
 都合のいい言い訳が出来たわけだ」
「ならなんでバスクはキュラーと婚約をしたんだ?」

 アルベルト様は小さな砂糖菓子を口に運んで話しを聞く姿はどこまでもないようにそぐわない優雅さを持っていた。

「単にフランの行方が分からなくなったからだ。
 書類上は一家焼死と言う事になってるからな。
 ベルトラン公爵家としても公表してないとは言え一度は婚約をしたバスクだ。
 今度こそ幸せになってもらいたいとベルトラン公爵家に迎え入れる令嬢を探していた所、学園で知り合ったキュラーを奥方が気に入り婚約となった」
「だけど肝心の性格が合わなくて俺は見合いの段階ですぐに断ったのだが」
「バスク様、見合いってちゃんと知ってるじゃないですか」
「……」

 上げ足取りになるけどバラを持ってプロポーズされた後の裏庭の一件で知らぬ存ぜぬでとぼけて見せたバスクではあったが立派な大人なのだ。
 当然知らないわけがなく、自ら墓穴を掘った形になったがそっと視線をそらせて俺のツッコミを聞いちゃいないと言わんばかりに砂糖菓子をぼりぼりと嗜み始めた。
 まぁ、今更別にいいけどねとビクトール様に視線を戻せば頭が痛そうな顔で眉間を指で押さえていた。

「けどトゥリエル家はキュラーの我が儘に婚約したと公表をしてしまった。
 マナー違反以前に名誉損害だと言うのに未だキュラーは婚約者を名乗り、既に周囲にはそれが定着している。
 抵抗するのはバスクのみと言う状況だ」
「まぁ、キュラーは顔立ちも頭も良いからな。
 公爵家の妻を十分に務めるから誰もがそう思ったのだろう」

 見た目に寄らずこの人凄いんだとドリルだけじゃない事に感心してしまう。

「実際俺達だってフランを見つけるまでキュラー以上はそうそう居ないぞと思ってたし年齢も年齢だ。
 いい加減諦めろと思った所で魔導院の就職の面接にフランが来た。
 見覚えのある顔立ちにまさかと思ってフランの面接順位を一番最後に遅らし暗くなった室内にランプを付ければずっと探していた王家の瞳を持つ子供をやっと見つけた」

 ビクトール様は俺の長い前髪をかき分けて誰の目にもよく見える様に、銀の月のように冴え冴えとした瞳を皆に披露した。
 月明かりのない室内で他のランプの明かりを弱め、フランの側に一つだけランプを持って立つシメオンを不安げに見上げればそっと長い前髪を置いた指先でかき分け、みんなによく見える様にしてくれた。




しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...