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公爵様、少し無防備です
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再び少しうとうととして目が覚めた時はすっかりと陽が傾いている時間だった。
目を覚ました時傍らで眠るバスク様の姿はもうなくなってしまっていた。
『夢じゃない、ちゃんといる』
どこか嬉しそうに、少しだけ苦しそうにほほ笑んだバスク様の顔を思い出して頭の中が真っ白になってしまった。
いきなり花束を持ってプロポーズだとか庭のベンチで押し倒して来たり、隙あらばキスしようとして、油断するとそれ以上の事をしてきて迷惑としか言いようのない人だけど、眠る俺の隣に寄り添い俺を心から心配する初めての姿を見て戸惑っている俺がいた。
話もしたくなければ出来る限り触れる距離にも居たくない。
相当ひどい態度をしてきたのにもかかわらずあんなにも心配してくれていて……
俺は本当に酷い奴だ。
寂しくって泣いていた俺にもう大丈夫だからと手を差し伸べてくれたマウロに一時の寂しさを誤魔化す為に利用して、俺の出自を大事に亡くなった親の代わりと言う様に結婚すらしていないのに息子として養子に迎え入れてくれたビクトール様から逃げ出したり、行動が暴走しているけど確かに心から心配してくれるバスク様にも感謝の言葉一つ返せなくて。
この家の人も本当に親切だ。
シメオンを始め俺が少しでもこの屋敷で過ごしやすいように気を使ってくれる侍女の方達も、食の細い俺に合わせて食事の量や、少しでも食べる量が増える様にと好きな物や食べやすいもので食の幅を広げてくれる料理長もみんな俺に大切にしてくれているのに逃げ出すなんて一番卑怯なことをしたのにもかかわらずみんな泣いて俺の無事を喜んでくれた。
俺は本当にここにいて良いのかとすら思ってしまう。
水差しからまた水を入れて、コップを両手で持ちながらぼんやりと、どうやって謝らなくてはと一つ一つ頭の中で考えていればノックの音が静かに響いた。
だけど返事をできないでいる俺に関係ないと言う様に静かに開いた扉からシメオンがやってきて、廊下に置いたワゴンから新しい水を汲んだ水差しを運んきてくれた。
「あ……」
「フラン様、お目覚めでしたか」
驚いたように目を見開くシメオンはそのまま水差しを持って傍らにやってきてくれた。
俺の手の中にあるコップを見て
「良かったら冷たい水に替えましょうか?」
「ひょっとして何度もお水を変えてくれたの?」
「はい。先程少し減ってらしたのでひょっとしたらと思いまして」
そう言いながら俺の手からコップを受けとり、新たなコップに汲み立ての、水差しの周囲に水滴を浮かべるような冷たい水を注いでくれた。
どうぞと差し出された水をゆっくりと飲めばひやりとした水が食道を伝い胃に辿り着く。
喉が渇いてベットが暖かくもあったので身体の芯から目の覚めるような冷たさを心地よく思いながらゆっくりともう一口飲んで
「だいぶ汗をかいてしまいましたね。
体が冷える前に着替えましょう。
先ほど少し熱もありましたが……」
おでこや首筋に触れるも
「もう大丈夫ですね。着替えるのなら汗を拭きましょう。
お風呂に入れて差し上げたいのですが少しとは言え熱が出たばかりなので我慢なさってください」
「はい、ありがとうございます」
言いながら直ぐに部屋を出てタオルと着替え、そして盥と温かい水をワゴンに乗せて持って来た。
俺はシメオンの仕事がしやすいようにパジャマを脱いで汗をぬぐってもらった。
それから用意された服に着替え終わる頃侍女のアリサが軽食を運んできてくれた。
小さめのプディングと一口大にカットされたフルーツ。
「朝もお昼も召し上がってないのですが夕食も近い時間帯です。
ですがおなかがからっぽなので軽くお召し上がりくださいと料理長が申しておりました」
食べる量を増やそうと奮闘してくれている料理長の気配りは何所までも優しくて、ありがとうございますとちゃんと言葉に出してから柔らかく溶けてしまうのではないかと言うプディングを口へと運んだ。
プディングの底にはオレンジが敷き詰められていて
「美味しい!」
甘いプディングと爽やかなオレンジの酸味に顔がほころんでしまえばシメオンもアリサも一緒になって笑ってくれた。
目を覚ました時傍らで眠るバスク様の姿はもうなくなってしまっていた。
『夢じゃない、ちゃんといる』
どこか嬉しそうに、少しだけ苦しそうにほほ笑んだバスク様の顔を思い出して頭の中が真っ白になってしまった。
いきなり花束を持ってプロポーズだとか庭のベンチで押し倒して来たり、隙あらばキスしようとして、油断するとそれ以上の事をしてきて迷惑としか言いようのない人だけど、眠る俺の隣に寄り添い俺を心から心配する初めての姿を見て戸惑っている俺がいた。
話もしたくなければ出来る限り触れる距離にも居たくない。
相当ひどい態度をしてきたのにもかかわらずあんなにも心配してくれていて……
俺は本当に酷い奴だ。
寂しくって泣いていた俺にもう大丈夫だからと手を差し伸べてくれたマウロに一時の寂しさを誤魔化す為に利用して、俺の出自を大事に亡くなった親の代わりと言う様に結婚すらしていないのに息子として養子に迎え入れてくれたビクトール様から逃げ出したり、行動が暴走しているけど確かに心から心配してくれるバスク様にも感謝の言葉一つ返せなくて。
この家の人も本当に親切だ。
シメオンを始め俺が少しでもこの屋敷で過ごしやすいように気を使ってくれる侍女の方達も、食の細い俺に合わせて食事の量や、少しでも食べる量が増える様にと好きな物や食べやすいもので食の幅を広げてくれる料理長もみんな俺に大切にしてくれているのに逃げ出すなんて一番卑怯なことをしたのにもかかわらずみんな泣いて俺の無事を喜んでくれた。
俺は本当にここにいて良いのかとすら思ってしまう。
水差しからまた水を入れて、コップを両手で持ちながらぼんやりと、どうやって謝らなくてはと一つ一つ頭の中で考えていればノックの音が静かに響いた。
だけど返事をできないでいる俺に関係ないと言う様に静かに開いた扉からシメオンがやってきて、廊下に置いたワゴンから新しい水を汲んだ水差しを運んきてくれた。
「あ……」
「フラン様、お目覚めでしたか」
驚いたように目を見開くシメオンはそのまま水差しを持って傍らにやってきてくれた。
俺の手の中にあるコップを見て
「良かったら冷たい水に替えましょうか?」
「ひょっとして何度もお水を変えてくれたの?」
「はい。先程少し減ってらしたのでひょっとしたらと思いまして」
そう言いながら俺の手からコップを受けとり、新たなコップに汲み立ての、水差しの周囲に水滴を浮かべるような冷たい水を注いでくれた。
どうぞと差し出された水をゆっくりと飲めばひやりとした水が食道を伝い胃に辿り着く。
喉が渇いてベットが暖かくもあったので身体の芯から目の覚めるような冷たさを心地よく思いながらゆっくりともう一口飲んで
「だいぶ汗をかいてしまいましたね。
体が冷える前に着替えましょう。
先ほど少し熱もありましたが……」
おでこや首筋に触れるも
「もう大丈夫ですね。着替えるのなら汗を拭きましょう。
お風呂に入れて差し上げたいのですが少しとは言え熱が出たばかりなので我慢なさってください」
「はい、ありがとうございます」
言いながら直ぐに部屋を出てタオルと着替え、そして盥と温かい水をワゴンに乗せて持って来た。
俺はシメオンの仕事がしやすいようにパジャマを脱いで汗をぬぐってもらった。
それから用意された服に着替え終わる頃侍女のアリサが軽食を運んできてくれた。
小さめのプディングと一口大にカットされたフルーツ。
「朝もお昼も召し上がってないのですが夕食も近い時間帯です。
ですがおなかがからっぽなので軽くお召し上がりくださいと料理長が申しておりました」
食べる量を増やそうと奮闘してくれている料理長の気配りは何所までも優しくて、ありがとうございますとちゃんと言葉に出してから柔らかく溶けてしまうのではないかと言うプディングを口へと運んだ。
プディングの底にはオレンジが敷き詰められていて
「美味しい!」
甘いプディングと爽やかなオレンジの酸味に顔がほころんでしまえばシメオンもアリサも一緒になって笑ってくれた。
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