公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、お願いですから見ないでください

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 薄暗く埃塗れどころか砂埃もあるというのに、マウロの上着の上で必死にしがみつく様に、そして擦り傷が出来ないようにと大切にされながら、俺を慰める様に優しく体を繋げたマウロは終わっても体が冷えないようにと気を使ってくれた。
  俺が着ていたパジャマが綺麗だからと破いて足の怪我の保護をして膝の上にマウロにもたれる様に抱きかかえられたままだった。
 沢山の初めては自分の情けなさを薄めるぐらいの優しさに包まれていて、身体のあちこちにちりばめられた名残は少しばかり恥ずかしさも覚えた。
 体の中もまだマウロの名残にもぞもぞとしてしまえば

「そんな可愛くすり寄られると我慢できなくなるだろ?」
「だって、しょうがないだろ」

 気が付けば笑えるぐらいになっていて、マウロも一緒に笑っていた。

「なぁ、前の返事。
 俺と結婚してくれるよな?」

 緊張したようなマウロの声に自然と体が震えた。

「結婚式も挙げれないし、大きな家も用意してやれない。
 だけど二人でちょっといい物食べよう。
 記念に何かお揃いの物を買うのもいいな。
 その後皆に報告して、おめでとうって言ってもらおう。
 フランはせっかく仕事にありつけたけど顔を合わせ難かったら辞めても良い。
 フランの分まで俺本気で頑張るから。
 フランが好きな本をたくさん読めるように頑張るから」

 やがて薄っすらと明るくなる空に向かってマウロは矢継ぎ早に次々に未来を語る。
 目を閉じてその胸に顔を押し付けてその未来に向かって一つ一つ頷く。

「フランの料理美味いから毎日が楽しそうだな。
 兄貴の焼いたパンにフランのスープがあればもうそれだけでご馳走だ。
 足りない家具は俺が修理する。
 知ってるだろ?俺結構器用なんだ。
 今はまだ正式に雇ってもらえてないけど知り合いの大工に見てもらっている。
 使えたら雇ってくれるって言ってるからそれまで苦労するかもしれないけどフランの為なら頑張れるから。
 だから俺と……」

 言いかけた所で馬の蹄の音が近づいてきた。
 耳慣れた馬車の音にマウロのシャツにしがみついてまた溢れだした涙の顔を押し付ける。

「大丈夫だよ。
 何かあったら俺がいつでもここで待ってる。
 何時でも来てくれ、びっくりするくらい立派な家にして待ってるから。
 ごめんな。
 こんな事になってるって言うのに一緒に逃げようって言ってやれなくて」

 ぼろぼろと止まらない涙の顔のまま胸元から離れる。
 雑草を踏みしめる足音が近づき歪んだ扉の向こうには見慣れた人影が二つ。
 今はその影すら見る事も出来ないけど、泣き顔のままマウロと繋いだ指をずっと絡めていれば困ったようなマウロの顔は笑っていて。

「俺の事は大丈夫だよ。
 ずっとフランの事を思ってるから、一人じゃないから。
 向こうもあんなひどい顔をしてでも迎えに来てくれたんだ。
 フランの帰る場所はあの人達の所にちゃんとあるから」

 繋いだ指を離された。
 座っていた上着を、マウロの匂いが強く残る上着を頭の上からかぶせてもらって迎えに来てくれたバスク様とビクトール様の方へと向かって俺を抱きかかえて連れてってくれた。

 俺も酷い恰好だった。
 パジャマで作った包帯で足を包む姿といい代わりに着せられたマウロのシャツに頭からマウロの上着をかぶっている。
 二人には何があったか一目でわかったようで盛大に顔を顰めているがマウロはビクトール様とバスク様を睨み上げて

「何があったかは聞いてません。
 だけどこうなった結果は貴方達がちゃんとフランに説明しなかったからだ。
 フランだって見た目通りの柔なやつじゃない。
 あんた達が何を思ってどうやって守ろうとしたかは知りたくもないけど、ちゃんと話をして理解できないほどフランは弱くはない!」

 貴族に向かってかみつくような言葉だけどビクトール様はマウロに深く頭を下げて

「その通りだ。
 この子を守ろうとして、この子がちゃんと自分で立てる強さを持っている事を見誤ってこんな事になり申し訳ない」

 平民に頭を下げるなんてと思うもマウロはそっと俺の耳元に唇を寄せ

「息子がぐれてもちゃんと迎えに来てくれるいいお義父さんじゃないか」

 こっそりと言った言葉は二人にもちゃんと聞こえていて、少しだけバツの悪そうな顔をするビクトール様はマウロから俺を受け取るように両手を差し出し

「二度とこのような事にならないようにもっと理解しあえる親子になるよ」
「俺としては何度だって来てもらっても構いませんよ。
 何なら普通に遊びに来るのだって問題ないぜ?」

 言えばバスク様がこれ以上とないくらい嫌な顔をするのが妙に笑えてマウロは俺に手を振って

「またな」

 促されるまま馬車に乗せられた俺の姿が見えなくなるまで手を振ってる姿を馬車から見送った。
 最後に見た顔は俺と同じように涙と鼻水まみれの酷い顔だが、俺も同じ顔をしているから結構お似合いの二人だったのかもしれない。
 ひょっとしてこれが俺の初恋だったのかな?
 思いは通じあっても一緒には居られない。

 違う。

 マウロの優しさを利用して俺はただ寂しさを紛らわせた酷い奴だとこみ上げる罪悪感に謝罪をしたくも見えなくなったマウロの姿をひたすら探すように通り過ぎた景色を眺めるのだった。



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