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公爵様、貴族の子供時代の標準的家庭ってどうなってますと聞いてもよろしいでしょうか?
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それは麗らかな春を思わせる陽気の中だった。
ジェラール・タウレル当時一五歳。
この春からモリエンテス王立学園に入学する侯爵家の二男だ。
寮住いになる為に少し憂鬱としていたが、横暴な兄が支配する家にいるよりはましだが新たな環境はこの体型の横腹の一部を摘まみ上げてさらに憂鬱になってしまう。
絶対いじめられる……
社交界にデビューする前でも親の友人、その子供達、更に兄と兄の友人達にからかわれいじめられてきた十五年は暗黒時代と呼んでも構わないだろう。
対策として食べ物を食べ続けている間は誰も構ってこない。
周囲でブタがエサ食べてるぞと言う言葉を投げられるくらいで、この見た目のせいで両親は長男を溺愛していた。
最も侯爵家と言う家柄のおかげで見栄だけは立派に張ってくれたので家庭教師も俺に自由がない位つけてくれたが、この環境の中で家庭教師達は俺を立派に独り立ちできるようにちゃんと育ててくれた。
魔法学の先生が卒業後よかったらうちの娘の婿にならないかと誘ってくれたが、さすがに親の意見もあるしと断りながらも今すぐ先生の子になりたいと本音を漏らした事もあった。
そんな優しい先生達ともさよならとなって先に荷物は送ってあると俺を冷たくあしらう執事の言葉を信じずに鞄一つに荷物を詰めるだけ詰めて俺は家を出たのだ。
執事がそんな態度をとるから家の馭者も同様の態度をとる。
何台も馬車は学園の敷地内の乗合場まで入って行くところを門の前で方向を変えたうちの馬車はそのまま扉を開けて
「ここでよろしいでしょう」
たった一つの荷物を捨てるように外に放り出され、慌てて飛び出した俺を確認してドアを閉めて颯爽と帰って行ってしまったのだ。
この広大な敷地面積を誇る学園の大きな門を見上げ詰めに詰め込んだ重たい荷物の鞄は引っ張らないと運べない。
そりゃそうだ。
この体の大半は脂肪で構成されている。
重たい物を持ち上げる筋肉なんぞどこにもない。
逃げに逃げたツキが回ってきたなと泣きそうになって何とか門に潜り込むも通り過ぎる馬車は一台も止まって声をかける事無くいってしまう。
途方にくれながらもとりあえず寮の手続きにと足を向ける中、広大な敷地は徒歩用の歩道で幾つにも分かれていた道は俺を迷子にさしてくれた。
さすがに泣いた。
十五歳で迷子なんて笑い話だと思うも泣いた。
見知らぬ森とも言える学園の敷地内でポツンと一人になってしまって寂しさに負けて泣いた。
晴れの日だというのにこんなにも惨めな気持ちにさせられ、何で生まれてきたのだろうと思いながら涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でどこに進んでいるのかわからずに足を運んでいれば運命の人は俺の前に現れた。
数か月前にもこのモリエンテス王立学園に一度出会って、体験入学の指導員として付き添ってくれた人だった。
普通の貴族の家なら家族の人がこの学校の卒業生の家庭教師と一緒に来て案内をしてもらえるのだが、誰の連れも無くぽつんと立っていた俺の手を引いて校舎の案内、施設の見学、クラブ活動の体験、そして講堂で学校で実際に学ぶ魔法の体験をさせてくれたのだ。
その時は初めて見る学校の巨大さに圧倒され、家の侍女や下男にすら居ない者とされている俺に丁寧に教えてくれた人を強烈に記憶に残してからの再会。
感動は止まる事はなかった。
溢れんばかりで思い出だけが美しく彩られる。
陽だまりのような温かな金の髪のわずかな隙間からは春に芽吹いた若葉のようなみずみずしいく輝く黄金の瞳が覗き、すらりと通った鼻梁とその下の薄く小さな、思わずついばみたくなる淡いつぼみのような唇は見ているだけでその甘さに酔いしれそうで。
あの日手を引いてくれた細く儚げだけどやはり男の手でどこか節ばった指の暖かさは今も忘れる事はない。
色褪せない記憶と寸分違わない彼の出現にあふれ出た涙はぴたりと止まった。
「森の方に荷物の跡があったから迷った子がいるのかなって思ったら追いかけてきたんだけど正解だったな?」
そう笑ってくれた長い前髪の奥の双眸は一瞬キョトンとしたかと思えば
「ひょっとして前に体験入学に来た子かな?」
ふわりと笑う笑みはこの春風のように暖かかった。
だけどどうすればこの肉体的特徴をうろ覚えにするとはと一瞬何とも言えないショックを受けるも
「それよりもこれ以上奥に行くと大変だから案内するからついておいで」
そう言って俺の荷物を軽々と持ち上げてあの日と同じように俺の手を引いてこっちだよーと寮へ案内してくれるのだった。
ジェラール・タウレル当時一五歳。
この春からモリエンテス王立学園に入学する侯爵家の二男だ。
寮住いになる為に少し憂鬱としていたが、横暴な兄が支配する家にいるよりはましだが新たな環境はこの体型の横腹の一部を摘まみ上げてさらに憂鬱になってしまう。
絶対いじめられる……
社交界にデビューする前でも親の友人、その子供達、更に兄と兄の友人達にからかわれいじめられてきた十五年は暗黒時代と呼んでも構わないだろう。
対策として食べ物を食べ続けている間は誰も構ってこない。
周囲でブタがエサ食べてるぞと言う言葉を投げられるくらいで、この見た目のせいで両親は長男を溺愛していた。
最も侯爵家と言う家柄のおかげで見栄だけは立派に張ってくれたので家庭教師も俺に自由がない位つけてくれたが、この環境の中で家庭教師達は俺を立派に独り立ちできるようにちゃんと育ててくれた。
魔法学の先生が卒業後よかったらうちの娘の婿にならないかと誘ってくれたが、さすがに親の意見もあるしと断りながらも今すぐ先生の子になりたいと本音を漏らした事もあった。
そんな優しい先生達ともさよならとなって先に荷物は送ってあると俺を冷たくあしらう執事の言葉を信じずに鞄一つに荷物を詰めるだけ詰めて俺は家を出たのだ。
執事がそんな態度をとるから家の馭者も同様の態度をとる。
何台も馬車は学園の敷地内の乗合場まで入って行くところを門の前で方向を変えたうちの馬車はそのまま扉を開けて
「ここでよろしいでしょう」
たった一つの荷物を捨てるように外に放り出され、慌てて飛び出した俺を確認してドアを閉めて颯爽と帰って行ってしまったのだ。
この広大な敷地面積を誇る学園の大きな門を見上げ詰めに詰め込んだ重たい荷物の鞄は引っ張らないと運べない。
そりゃそうだ。
この体の大半は脂肪で構成されている。
重たい物を持ち上げる筋肉なんぞどこにもない。
逃げに逃げたツキが回ってきたなと泣きそうになって何とか門に潜り込むも通り過ぎる馬車は一台も止まって声をかける事無くいってしまう。
途方にくれながらもとりあえず寮の手続きにと足を向ける中、広大な敷地は徒歩用の歩道で幾つにも分かれていた道は俺を迷子にさしてくれた。
さすがに泣いた。
十五歳で迷子なんて笑い話だと思うも泣いた。
見知らぬ森とも言える学園の敷地内でポツンと一人になってしまって寂しさに負けて泣いた。
晴れの日だというのにこんなにも惨めな気持ちにさせられ、何で生まれてきたのだろうと思いながら涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でどこに進んでいるのかわからずに足を運んでいれば運命の人は俺の前に現れた。
数か月前にもこのモリエンテス王立学園に一度出会って、体験入学の指導員として付き添ってくれた人だった。
普通の貴族の家なら家族の人がこの学校の卒業生の家庭教師と一緒に来て案内をしてもらえるのだが、誰の連れも無くぽつんと立っていた俺の手を引いて校舎の案内、施設の見学、クラブ活動の体験、そして講堂で学校で実際に学ぶ魔法の体験をさせてくれたのだ。
その時は初めて見る学校の巨大さに圧倒され、家の侍女や下男にすら居ない者とされている俺に丁寧に教えてくれた人を強烈に記憶に残してからの再会。
感動は止まる事はなかった。
溢れんばかりで思い出だけが美しく彩られる。
陽だまりのような温かな金の髪のわずかな隙間からは春に芽吹いた若葉のようなみずみずしいく輝く黄金の瞳が覗き、すらりと通った鼻梁とその下の薄く小さな、思わずついばみたくなる淡いつぼみのような唇は見ているだけでその甘さに酔いしれそうで。
あの日手を引いてくれた細く儚げだけどやはり男の手でどこか節ばった指の暖かさは今も忘れる事はない。
色褪せない記憶と寸分違わない彼の出現にあふれ出た涙はぴたりと止まった。
「森の方に荷物の跡があったから迷った子がいるのかなって思ったら追いかけてきたんだけど正解だったな?」
そう笑ってくれた長い前髪の奥の双眸は一瞬キョトンとしたかと思えば
「ひょっとして前に体験入学に来た子かな?」
ふわりと笑う笑みはこの春風のように暖かかった。
だけどどうすればこの肉体的特徴をうろ覚えにするとはと一瞬何とも言えないショックを受けるも
「それよりもこれ以上奥に行くと大変だから案内するからついておいで」
そう言って俺の荷物を軽々と持ち上げてあの日と同じように俺の手を引いてこっちだよーと寮へ案内してくれるのだった。
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