公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、ジェルのターンなので貴方はお休みです

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「せんぱ~い!
 今度一緒に遊びに行きましょう!
 馬車で一時間ほど走らせると郊外の屋敷があるんですよ!
 そこの屋敷は池もあるし母の自慢の花壇が今見頃なんです!
 そうだ!木陰で裸足になってお弁当を広げて本を読んだり芝生の上でお昼寝するのも気持ちいいですよ。
 池に水を引いてる小さな小川で魚も釣れるんですよ?一日なんてあっという間です。
 俺も久しぶりにピクニック楽しみたいですし行きましょう!」
「ああ、それは凄い大きなお屋敷だな。
 そう言う遊びはした事ないから興味がないとは言わないがそれがお前の家と言うテリトリーじゃなかったら喜んで付き合うぞ」

 魔導院の事務室の一室での会話。
 事務長は穏やかな顔で窓から空を見上げて浮かぶ雲の数を数えていた。
 ジェルは俺にプロポーズをして以来やたらと俺を誘うように声をかけてくるようになった。
 職務中でジェルは誰にも文句言わせないと言わんばかりに人の倍の仕事をする。おかげで誰も文句言えない奴辺りは俺へと向かうも魔導院院長の養子となった俺に文句を言える奴はここにはいない。
 ウンザリとする俺とは別にアイーダは

「デートのお誘い?
 だったらいきなりお家はうけないわよ?」
「本宅じゃなく郊外のあまり使ってない邸宅だから大丈夫かと思ったのですが駄目ですかね?」
「まずは日帰りが絶対のお約束。
 暗くなる前にお家に帰す紳士さを身につけなさい。
 がっつく男は嫌われるわよ?」
「それじゃあいつまでたっても先輩を落せないじゃないですか」
「それで落ちる方が逆に狙われている事を知りなさい。
 下心しかない女の子しか付き合ったことないんじゃない?」
「アイーダ先輩何言ってるんです?
 俺ずっと先輩一筋で学園にいた頃もずっと独り身を通してましたし婚約者をって親にせっつかれてもみんな丁寧にお断りしましたよ」
「わーお、本当に一途ね?」
「なんせ先輩に一目ぼれをするという衝撃の出来事は今も鮮明に記憶していますし、先輩だけを思って脇目もふらずに一年で卒業した位ですから」
「まったくもって無駄なエネルギーの使い方だな……」

 アイーダとジェルの会話に思わず突っ込んでしまうと言うか、

「俺が卒業した後にジェルが入ってきたんだろ?
 何時会ったっけ?」

 全く記憶がない。
 ジェルみたいな俺でも惚れ惚れとするカワイイ系のイケメンが一目ぼれするようなイベントって何だっけ?と思い出すも一向に思い出せない。
 そもそも会ったこと自体記憶にないのなら一体何なんだと首を傾げていれば

「大変お恥ずかしいお話なんですが、俺学園に入るまで結構ぽっちゃりとした体形だったんです」

 言って小さなペンダントを取り出せばそこには美男美女の両親だろうか、その間に小さなまんまるい顔と体の……

「ジェル?」
「はい!似てないかもしれませんが真ん中のが俺です。
 この体軽のおかげで兄にはゼリー何て呼ばれてました」
「うわー、カワイイワードで悪意を感じるわぁ」
「いや、悪意しかないだろう……」

 小さなロケットに描かれた姿を見てもぷるんぷるんとした肌艶にもう一度よく考えても悪意しか感じる事が出来なかった。

「まぁ、腹いせで僻地に飛ばしましたが……」
「やる事は全くかわいくないな」
「仕方ありません。長男だからと言って度を越えた行動を起こす兄に家を継がせる事は出来ないので」
「まぁ、俺から言わせるとやっぱり兄弟だなと思うんだが?」
「俺は兄のように人の婚約者と寝たりして破断させたりなんかしませんよ。
 今俺婚約者に夢中なので」

と顔を赤らめて俺の手を握るジェルの手にペンを突き立てる。

「誰が婚約者だ」

 一日何度も言わすなとインクの染みを手に塗り付けて行くもジェルはニコニコと笑い

「でも本当に運命的な出会いだったんですよ?」
「って言うかさジェル君、それはどんな出会いなのよ?」
 
 アイーダも俺の記憶が頼りにならないと思ったのかジェルに直接聞く事にしたらしい。
 ジェルはやっと聞いてくれたと言わんばかりに汚れた手を綺麗にハンカチで拭いてって……
 インクまみれのハンカチはもう使い物にならないのではと少し前なら俺は顔を真っ青にしてただろう事を平然とやってのけるジェルは今では侯爵家の立派な跡取りだ。

「入学前の年に体験入学って言うのがあるのを覚えてます?」
「ええあったわね」
「俺は推薦だったから知らなかったな」
「まぁ、体験入学があったんですよ。
 俺が先輩に出会った時はその時だったんです」
「あー、手伝ったのは覚えてるな」

 だけどあったかなんて首をひねっていればそっと手を握られる。

「先輩に出会ったのはその時なのです」

 インクの痕の残る手を思わず見るも、その繋がった手をジェルは穏やかな表情で、それは笑みにも見える幸せな表情だった。






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