公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、お迎えの馬車が来ているのですから馭者さんの為にもどうかご自分の馬車に乗ってまっすぐ帰ってください

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 カドレニーのお家から迎えの馬車が来ていた。
 カドレニーの紋章の付いたいつもの馭者さんとビクトール様がいない時は必ず執事さんのシメオンさんが迎えに来てくれる。
 スラリとした初老のシメオンさんはいつも笑顔で俺なんかが話しかけてもにこにこと丁寧に会話をしてくれる忍耐の人だ。
 いつものように馬車の外で待機してくれていたシメオンさんを見つけた俺は走ると危ないって言われるけど早足で駆けよれば視線で転ばないでくださいねと、でも笑顔で荷物を受け取って俺を馬車へと乗せてくれるのだった。
 そして当然と言った顔で

「バスク様、あちらにバスク様の馬車がお待ちですよ」
「ああ、カドレニーの家に寄るから後からついて来いて言ってあるから大丈夫だ」

 当然とした顔でバスク様は馬車に乗り込んで……

「シメオンごめんね、馬車今日も狭くなっちゃって」
「いえいえ坊ちゃま、私などにお気遣いは無用ですよ」
「ですがどうしても言いたくなりましてね!」

 そう言ってつい睨んでしまうのは仕方がない。

「そんなにも見つめられると私も照れてしまうよ」

 そう言って肩に腕を回して引き寄せるバスク様から逃げようとするもまたすぐに引き寄せられる。
 およその家の馬車に比べて立派で大きいにもかかわらず密閉空間なので逃げ場も無く逃げる広さもないのが困り物だが結局はバスク様の腕力にはかなわず俺は捕獲されてしまうのだ。
 仕方ないのでバスク様を無視して一日の出来事をシメオンに聞いてもらうのが帰り道の日課だ。
 バスク様を空気のように扱うもこの人はお構いなしに俺の肩所か頭まで引き寄せようとしたり、あわよくばと膝の上に座らせようとしたり、隙を見せればシャツの中に手を突っ込んでこようとしたり……
 盛りの付いた犬じゃないんだからほんとどうにかして欲しい。
 とりあえず俺が喋っている間は邪魔しないようにキスはしかけてこない事に気づいた俺は対策としてシメオンに話しを聞いてもらうのだが、おかげでシメオンは知りたくもないだろう俺の一日を網羅すると言う拷問にあっているのだ。
 申し訳なさでいっぱいで歩いて帰りますと言えばビクトール様にちゃんと報告する始末。
 ビクトール様は気を使ってくれてか一度別の方に変えてもらった時があったけど、シメオンじゃないと余計にバスク様は調子に乗る始末……
 
「シメオンごめんね、俺じゃなくビクトール様と一緒に居たいのに俺ばかりのお世話係で本当にごめんね」
「坊ちゃま、それは杞憂と言う物です。
 坊ちゃまのお話はほんと毎日が楽しそうでそのお話を一番に聞けるシメオンめは至福にございます」

 ほほほと笑うシメオンは本当に気遣いと忍耐の人だと……
 俺ちゃんとビクトール様に養子になってよかったと言ってもらえるように頑張ろうと密かに誓うのだった。

 だけど

「なかなか思いは通じないなぁ」
「仕方のうございます。
 まだお迎えになられて一月も経っておりません故」
「俺みたいに早く仲良くなれよ?」
「私は私なりに仲良くできれればと思ってますので」

 何やら頭上でシメオンとバスク様は話しをしているけど主語のない会話に俺はどんな話をしているのか全く分からない。
 寧ろそんな事は必要のない二人を少しだけ羨ましく

「二人とも仲良し何ですね」
 
 程よい距離間、そして聞いてるだけではわからない会話が成立する親密さ。
 カドレニー侯爵家の執事なのだ、きっと幼い頃からバスク様をよくしっているのだろう。
 だけどバスク様は盛大に顔を歪め

「執事が主の友人に喧嘩を売るわけないだろう……」
「坊ちゃま、シメオンは坊ちゃまともっと仲良くなりとうございます」
「シメオン、俺ももっとシメオンと仲良くなりたいです!」

 言えば破顔したシメオンはでは、と言って

「シメオンめから記念のプレゼントをどうぞ」

 そう言って俺の制服の襟にバッチを一つ付けてくれた。

「仲良しの記念です」
「ありがとう!
 だけど俺……

 返す物がないと言えば

「執事のシメオンが頂くわけには行きません。
 もしお心を砕いていただけるのならばいつもそのバッチを付けて戴ければ幸いです」

 そんなささやかなお願いに俺は襟に付いたバッチを見て

「これから毎日つけるね!
 だから洗濯する時は気を付けるようにしなきゃね!」
「ええ、それは侍女達によーく言っておきましょう」
「はい!お願いします!」

 そう言ってにこにこと微笑みあう俺達をバスク様は面白くなさそうにでも黙って眺めていた。
 





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