公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、おっさんって呼んでも良いですか?

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 何故かすっかり暗くなってランプを付けなくてはいけない状況の一室で俺は三者面談をしていた。
 もちろん院長のビクトール様と公爵様と俺と言う組み合わせ。
 ちなみにだが公爵様のお名前はベルトランかベルラトンかちょっと怪しくなっている記憶にビクトール様がバスク、バスクと言うのでバスク公爵様と言う名前で俺の中で登録されている。
 人の名前ってなかなか覚えられないね~なんて明後日の方を向いて俺は水を飲んでいた。
 しかたがない。
 今魔導院と近衛のトップお二方から尋問を受けているのだ。
 主に卒業して一年以上過ぎた学園生活に付いて。
 最下層のヒエラルキーで夢を描いたような学園生活ではなかったものの元々育ちのいい令息令嬢の嫌がらせ何てかわいい物。
 物を隠されてもすぐわかる所に隠してあるし嫌味を言えどもそれ以上の言葉を浴び続けて来た俺にとっては小鳥のさえずりのような物。
 もともと物を壊したりなんてした事のないヒエラルキーのトップにいる方々が行動しない以上下々はそれ以上の事なんてしない統率のとれた嫌がらせは馬糞の海に飛び込まされたり二日ほど食事を与えられなかった事が日常だった俺には子猫が毛を逆立っているくらいに微笑ましい出来事だった。
 痛くもかゆくもないいじめなんて嫌がらせと言うのだよと、物は壊され取り上げられるが日常だった為に時々いじめる側でさえ俺の事を憐れんでくれて使用人の物がお似合いよと靴や上着を超上から目線で押し付けられた時は女神がいると思ったほどだ。
 結局彼ら彼女らとはこのギャップを最後まで埋める事が出来なかったのが残念だが、そんな話にビクトール様は頭を抱え、公爵様は意識を飛ばしていた。

「おかげで給料も取り上げられることなく税金収めた残りの金額をちゃんといただけるこの生活って天国ですよ」
「ああ、そうだね。
 フランはよく頑張ってるもんね」

 目頭を押さえてもあふれる涙をこぼすビクトール様は俺の隣に来たかと思えばいつものように俺を抱きしめて頭をなでなでしてくれるのだ。
 この人絶対俺の事ぬいぐるみかなんか勘違いしてるだろうと思えば、反対側からくいっと引っ張られ、いつの間にかビクトール様の反対側に座っていた公爵様の膝の上に座らされていた。
 どんな魔法?
 驚いて飛び降りようも俺を拘束する腕の力は強く脱出に失敗していれば余計ひきつける様に抱きしめられてしまう。
 助けてとすぐ横にいるビクトール様に視線で訴えるも

「まだ首輪が反応してない辺り大丈夫だよ?」
「これほんとは壊れてるんじゃないですか?」

 思わず聞いてしまうも試す事なんてできないからなあ?と小首をかしげるかわいらしいビクトール様の助けは借りれない事だけは確定した。

「だけどアイーダから何か言われなかったか?」
「申し訳ありません。
 俺は魔法学科でアイーダは法務学科なのです。
 同じクラスとは言え共通授業の時に一緒になったのみなので」

 教科書も別々、補助教材も別々では比べようがない。

「と言うか俺に何故こんなにも魔力があるのかは知りませんが、平民は普通魔力が生活に役立つ程度しかひねり出せないので同じ教科を選ぶわけないじゃないですか」

 根本的な所に戻ってそうだったなと失笑。

 そんな話をビクトール様としている間妙に大人しい公爵様が俺をお二方の間に下ろして

「これは一つ俺からの提案だ。
 もしよければ魔法をもう一度学んでみないか?
 もちろん今更学園に行けとは言わない。
 ちょうど知り合いに魔法の使い手がいるんだがその者に師事を得て勉強をしてみないか?」
「それは嬉しい申し出ですが、やはりお金が……」

 師事を得るとなればそれだけに、魔法使いのクラスから桁が一つ二つ変わって来る事はざらにある。
 そんなの無理だからとやんわりと俺の生活にも直結する問題を上げて断ろうとするも

「バスクにしては良い案を出す。
 これはお前の有り余る魔法の使い方をダダ流しにしなくて済む絶好の提案だ。
 なに、教師料はこの溢れ余る財力を持つ公爵様が出してくれるそうだ。
 教師役は俺が名乗ろう」
「ありがとうございます。
 ですが代金の代わりに身の危険を覚えましたのでお断りします」
「確かにもっともだな」

 提案しておいてビクトール様は我に返って俺のお断りに納得をしていた。
 公園のベンチで押し倒し、さっきも膝の上に乗せておいてお尻にさりげなく固いモノをこすりつけてくる変態公爵から恩だけは買いたくない。
 
「まぁ、結局の所だ」

 ビクトール様は一枚の書類を俺に差し出した。
 重厚で豪華なホルダーに挟まれた書類は俺には訳の判らない物だったが

「これは俺がお前を守ってやるって言う証明書みたいなやつだ。
 前から言っていた奴で俗にいう養子縁組の申請書。
 すでにフランの名前を書くだけになってる」
「ビクトール様、俺の事をそんなにも……ご迷惑おかけします」

 冗談だとずっと思ってたのにここまで俺の事を考えてくれてたなんてと思わず感動に震えて見上げてしまう。
 面白くなさそうに背後から舌打ちする音が聞こえるがそんな物無視だ。

「公爵なんて大物さえ釣り上げてくるフランだからな。
 父上も母上も早く守っておやりなさいって急かしてくるから、これを機会に書いておけ」

 渡されたペンに書類を一通り読んでサインを書きこむ。
 事務の仕事をしているけど、まったく見た事のない系統の書類の意味なんて良く判らないし、読んでもよく判らない物だし、婚姻届でもない。
 だったらビクトール様を信じてサインを書けばいいじゃないかとさらさらと名前を書けば公爵様は何て事だと頭を抱えていた。

「フラン、よりにもよってこんな男と養子縁組をするなんて……この男を義父にするなんて……」

 こんな素晴らしい事に頭を抱えるなんて良く判らないと思うも俺が判る様に公爵様はある事を教えてくれた。
 つまりビクトール様が……

「俺の義父様?!」
「そう、そしてこいつは義父の友人だからおじさん、簡単におっさんって呼んであげるといいよ。
 ああ、できたら私の事はパパと呼んでくれ」
「おっさんだけはやめてくれ……」
「さすがにパパはお断りします」

 改めてとんでもない書類にサインしてしまった事しか俺は理解できなかった……






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