公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
9 / 42

公爵様、再び……

しおりを挟む
 ビクトール様の胸で泣き疲れて寝てしまった18歳(笑)が目を覚ました時は既に夕日はだいぶ傾いていた。
 
「やっと起きたか」

 夕方だというのに爽やかな笑顔で俺の目覚めに声をかけてくれたビクトール様はそのまま傍らに置かれた小さな食器棚からコップを取出し水を入れて俺に差し出してくれた。
 ありがとうございますと感謝を述べて飲みだせばよほど喉が渇いていたのか一気に飲んでしまい、ビクトール様を笑わせる結果となってしまった。
 やっと一息ついた所で

「随分魘されてたぞ。ちゃんと眠れてるか?」

 さらに水のお替りを俺に出してくれてありがたく頂戴するも

「寝れると思いますか?」
「まぁ、突然の事がありすぎたから寝れるわけはないな」

 苦笑交じりに親友が悪かったなと謝る優しいビクトール様、でも部下のフォローはなしに俺はついに昨日の事を告白するのだった。

「昨日ですが、せっかくお休みをいただいたのですが常連のパン屋の息子、まぁ、友人ですね。
 朝店の前を通らなかったからと心配して家に様子を見に来てくれたのです」
「へぇ、親切なお友達だな?」
「パン屋のおかみさんが気を使ってくれたのですが、一昨日の事を理由にお休みをいただいたと伝えたところ豹変して……」
「まさか襲われたとか……?」
「運よくギルドの人が配達に来たので肉体的には無事でしたが、やっぱりプロポーズを一方的にして行って……」
「モテモテだな?」
「男にもてたいとは一度も思った事ありません」
「まぁ、普通はそうだな。
 だがこれも人生経験だぞ?」
「こんな経験したくはありません!」

 この三日間で何度貞操の危機を覚えたか……
 思い出せば涙も出てくるこの出来事の連続にビクトール様は隣に座ってよしよしと頭を撫でて慰めてくれる始末。
 肩もポンポンと叩いてあやしながら

「まぁ、フランにはまだ刺激が大きすぎたんだな。
 相手は平民には拒否不可の公爵と心許せる気の合った友人、そして可愛がってた後輩。
 はたから見れば人間不信になっても仕方がない取り合わせだなぁ」

 肩に手を回しながらもうんうんと唸るビクトール様だけど、あれだけの目にあったのにビクトール様からはそう言った変な気配は全く感じられないので逆に胸元に飛び込んで甘えてしまう。

「俺もう職場の人間も信じらんないし家の帰り道も油断できません!!!」
「まぁ、一応俺は信用してくれ。
 でないと魔導院の院長としてこの問題で立場が危うくなるからな」

 まだ実験したい魔法があるから頑張ってくれといい笑顔で頭をなでなでと撫でられてしまう。
 あー、院長の手っておっきくて気持ちいいなぁ……
 性急しすぎる男共とは違いこんな風に包んでくれるような優しさを与えてくれるビクトール様のような包容力ある男になりたいと思うのが俺の目標だ。
 じゃないと男に包まれるだけの男になってしまう。いや、包まれるまでならまだましだろうか……
 ダメダメと何故か裸の三人に抱かれるという様子を頭に浮かべてしまい、そんな空想を振り払うように頭を振れば驚いた様子のビクトール様は面白そうに笑っていた。

「まぁ、お前をこの魔導院で採用してからお前の生活ぶりに付いては見守ってきたが。
 お前も一人の男だ。結婚するもされるもそろそろ本気で考えなくてはいけない年頃。
 問題児でもあるがお前の親友に付いては情報不足だが、二人ともとても有能な人物だけは保障する。
 問題物件ではあるがな……
 断るのも受けるのもお前の自由だ。少し真剣に考えて見るのも悪くないぞ?」
「いえ、そもそも公爵様の事何も知らないし公爵と平民何て問題しかないじゃないですか。
 おまけにジェルだって侯爵家の人間です。
 どちらを選んでもありえません」
「だとするとお前の友人が一番有力か……」
「いえいえ、男五人兄弟の末っ子で店は長男が継いでいるんです。子供達も良くお手伝いしていてかわいいんですよ。
 店を出店する為の修行中ですがはっきり言ってあいつパンを作る才能がないんです」
「……」

 既に成人男性が息子夫婦に譲った店にいつまでもいる理由……

「他のご兄弟は?」
「結婚したり、仕事先にと家を出たりと既に家にはいません」

 つまり家の手伝いと言う

「貴族以上に問題物件だな」
「悪い奴じゃないって言うそれだけが取り柄の友人です」
「それしかないって言うのが大問題だな。
 こいつとは間違いが起きても結婚したらいけないぞ」
「ええ、それぐらいは俺も判ってます」

 だから友人なのですと言えば知人程度にしなさいと怒られてしまった。

「とは言えだ。俺にも友情と言う物がある」

 誰との?なんて一瞬考えていればノックの鳴ってない扉に向かって入れと言う。
 ゆっくりと開かれて行った扉の向こう側にはそれは見事に鍛え上げられた肉体を持つ近衛の隊長様がそこにいた。
 でも顔は怒られた犬のごとくしょぼんとしている。
 何だかかわいいと思うも同情するいわれはない。

「俺は隣の部屋に居るしこいつにはすでにお前に悪戯さえできないようにアイテムも持たせている」

 首にはしっかりと罪人を移動させる時に付けておく首輪が装着されていた。

「ビクトール様、公爵様にこれはいくらなんでも……」
「俺が出した条件に乗ったのはこいつだ。
 こいつなりの誠意としてあの日の弁明を聞いてやってくれ」

 落ち着く様に肩を数回さすってくれた手がこれほど心強いと思った事はない手に縋りつこうとするもするりとすり抜けて部屋を出て行ってしまった後姿に手を伸ばしてしまうも無情にも扉までご丁寧に閉ざされてしまった。

 お願いです、公爵様と二人きりにしないでください。
 
 心の悲鳴はビクトール様に一切届かなくこの数日で涙を流す事が得意になりだした涙腺は盛大にな水量をほうしゅつしてくれるのだった。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...