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公爵様、あんたのせいでまたプロポーズされてます

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 声の方へと視線を向ければぎりぎり間に合ったと言わんばかりに職場に来たばかりの後輩ジェラール・タウレルが顔を真っ青にして立っていた。

「先輩!ウェディングドレスってなんですか!パーティーってなんですか!」

 侯爵家のご子息で次男だというのに貴族の子息は学園を三年間通う所をスキップして一年で卒業してしまった才子だ。
 長男の存在をかき消す圧倒的優秀な存在感に侯爵家の跡継ぎは彼と決まったようでどうやら長男は領地の片隅に飛ばされてしまっているという噂を聞いた事があるそんなやばい奴が魔導院の事務所にいるという不思議。
 本人いわく「職業選択の自由」らしい。
 ご両親も随分と泣かれただろうと思うもそんなジェラール事ジェルは俺を正面から涙目で見上げ

「俺先輩に惚れてここまで頑張ってきたんです!
 結婚なんてやめてください!」
「あのな、俺公爵様と結婚しないし……」

 やたらと俺の周りをちょろちょろしていたかと思えば惚れてここまで来たって……
 人間として惚れて俺の跡を追いかけてきたと思っていいんだよね?
 詳しく聞くと藪蛇だから聞かなかった事にしようと無視しておく。

「ですよね!筋肉バカのベルトラン公爵なんて先輩には似合いませんものね!」
「お前、その不敬は止めろ」
「そうですわよ!
 筋肉バカではなく剣バカなのです!そこは間違えないでくださいですわ!」

 憤慨するトゥリエル令嬢にそこかよーとビクトール様がつっこんで苦笑。
 と言うか認めるんだと思うも

「だいたい先輩には僕と言う恋人がいるではありませんか!」

 室内に静寂が広がった……
 こいつ何言ってる?
 得体の知れない生き物を見ている合間にジェルは膝をついてポケットから取り出した指輪を俺の左手薬指にそっと装着させていた。
 これ何の呪いのアイテムだろうと思っていれば

「我が家に伝わる家宝です。
 どうか俺と結婚してください」
「断るっ!!!」

 スポッと指輪を抜いてジェルの口に突っ込んだ後腹パンして早々取り出せないようにしてやった。
 
「フラン……
 さすがにそれはないわ……」

 アイーダが倒れたままの事務長を介抱しながら顔を引き攣らせて言えばトゥリエル嬢も顔を真っ青にして高速で頷いていた。

「大事な物は腹の中に隠す、これ平民の常識だ!」
「いや、そんな常識聞いたことないし……」

 同じ平民のアイーダがどんびきして抗議するも平民のお嬢様には判らないだろうと鼻であしらっておいた。

「先輩酷いですよ~
 黙って持ち出して来たのに母上に怒られます~」

 涙目の後輩に俺は冷たく見下ろし

「まさかお前のケツから出てきた家宝とやらを俺に渡すつもりじゃないだろうな……」
「先輩のお尻から出て来た物なら俺家宝にしますけど」

 顔を真っ赤にして告白する変態発言にアイーダはもちろんトゥリエル嬢もビクトール様もどんびきだ。

「だけど先輩ベルトラン公爵と結婚は本当になさらないのですよね?」
「当たり前だろ」
「絶対ですね?!」
「くどい!」

 叫ぶように言えば腹パンして床の上に崩れ落ちたジェルはダメージからゆっくりと立ち上がって

「絶対ですよ。
 絶対俺以外の物になんてならないでください。
 そして結婚前提でお付き合いお願いしましす」

 俺を抱きしめて顎に手を当てて約束です何て小さな声で囁いた後にするりと舌が忍び込む朝から濃厚なキスを公衆の面前で俺に仕掛けてきた……

「ふっ、ん……、あっ……ふ」

 泣きたかった……
 呆然と俺を見るアイーダとトゥリエル嬢、そしてビクトール様筆頭とした同僚達。
 何で年下のジェルのキスに感じた挙句にそんな俺を皆様にご披露しなくてはいけないなんて……
 拷問のような光景で申し訳ありませんと頭の中では高速スライディング土下座でおでこから血が噴き出すぐらい皆様に謝っているのに現実は腰が砕けてジェルに支えてもらっている状態。
 いやだ、何この出来る後輩……
 普通女の子にするサービスでしょ?
 心の中で滂沱の涙を流しながして躰は立ってもいられなくってジェルにしがみついていれば現実に帰って来たビクトール様が

「ジェラール・タウレルいい加減にしろ!」

 部屋の外の廊下まで響き渡る声量と共にジェルに拳骨を落して渾沌とさせていた。
 ビクトール様は実際も泣いていて涙まみれの俺の顔を胸元で拭く様に抱きしめてくれた姿勢のままジェルとトゥリエル嬢を睨みつけ

「タウレルは今日は一日一人で資料室の整理整頓清掃だ!」
「おうぼうだー」

 あまり呂律の回ってない舌っ足らずの抗議に

「これが躾と言う奴だ。
 そしてキュラー!」

 どうやら彼女の事を普段はそう呼んで居るらしいビクトール様のあまりの剣幕に名前を呼ばれて身体を震わせる姿に

「この一件はお父上に報告しておく。
 そろそろ領地の方が忙しい時期だろう。
 今シーズンの社交界で顔を合わす事が出来るといいな」
「いやあああ!
 それはだめえええええ!
 ただでさえバスクの事が目の離せない時期なのに!
 これからの季節トゥリエル領は雪の中よ!何も楽しいことないのよ!
 使用人総出で薪割の季節に領地になんて行きたくない―!!!」

 止めてえええええ!なんて叫びながらもビクトール様は護衛の人に彼女を引き取ってもらい俺達を見回して一言。

「今日も一日頑張ろう」

 俺を胸元に抱きしめながら始業の連絡の後に言うおなじみの一言だけを言ってこの場を解散させたのだった。






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