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公爵様、婚約者がいるならその人と結婚してください

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 まさかの二日連続のプロポーズを受けてた俺は休みを貰う前よりもげっそりとやつれていた。
 休みをくれたビクトール様も事務長もぎょっとした顔で俺を心配するも、泣きだしたそうな顔でも大丈夫ですと言うしか俺にはできなかった。
 だってまさか職場と関係のない友人(男)からもプロポーズを受けたなんてどういって相談すればいいのか判らない。
 くっ、そろそろビッチの称号を頂けそうだと、18歳にしてモテ期を迎えた俺は恋愛初心者だ。
 心配する周囲の中アイーダも側に来て

「何があったの?
 何か休む前よりやつれてるけど……」

 告る前にナチュラルに振ってくれた相棒は心配してくれるも俺はただ大丈夫だと無理やり作った笑顔で伝えるもさすが相棒。直ぐにそんな物が嘘だと見ぬいて今まで通り親友として心配をしてくれるのだった。
 変わらぬ距離感に俺の思いはただの勘違いだという事が嫌程理解できてこの件でも涙が出そうになるが

「こちらにフラン・フライレが居るとお聞きしました!
 どのような方ですの!
 このキュラール・トゥリエルの前に顔をお見せなさい!」

 すぐ横で開いた扉からずかずかと入ってきた女性は俺に背を向けて部屋中に響き渡る声で叫ぶのだった。

「どちらにいるのです!
 この私の婚約者バスクアル・フォン・ベルトランを誑かしたフラン・フライレはどの者です!」

 ひょっとして俺ザマアされるの?と頭を抱えずにはいられなかった。
 こんな奴らと関わりたくないとそーっと室内から脱出したかったけど

「ほら、フラン。
 ご指名よ?」

 逆に空気を読んだアイーダの声を聞いてキュラール・トゥリエルがものすごい勢いで振り向いた。
 豪奢な縦巻の髪を背中に広げ、艶やかな髪質は艶やかすぎてまるで金属質な輝きを放っている。
 朝だというのにこれからどこの夜会に向かうのかと言うドレスに身を包み、攻撃的なアイシャドウが印象的な化粧を施した、まるで血走っているような深紅の瞳が俺を射抜く。
  高価で豪華で大粒の宝石をこれでもかと繋げた光り輝く赤い宝石を並べた禍々しいまでの首飾りが乱反射していた。
 超攻撃的な戦闘態勢の戦闘服に身を包んだ彼女に俺は涙を流しながら手を上げるしかない。
 静まる室内でつかつかとヒールの音を奏でながら俺を見下ろす口元は扇子で隠れている。
 すー……と細くなる視線は明らかに馬鹿にした物。
 毎月の給料で暮すのがやっとの俺では貴族のお嬢様には争う価値もない物と言う物。
 だけど扇子を小さくたたみ、俺の顎に当てて右を向かせたり左を向かせたりする。
 そして引き攣るように悔しそうに歪んだ口元がゆっくりと開く。

「何でよ!
 ちょっとかわいいって言うのは認めるけど男じゃない!
 この私が男に負けたというのですの?!
 ビクトール正直におっしゃい!
 この私とこの平民とどっちが可愛いというのですか?!」

 金切り声でビクトール様に向かって扇子を投げつけていた。
 だけどさすがはビクトール様。
 人差し指と中指であらぬ方に向かって飛んでいく扇子を何とかキャッチして

「かわいいというのならフランだな。
 と言うか、お前を称するなら美人とか綺麗と言う言葉だろう。
 方向性が違うのに比べるのが間違っている」

 言いながら扇子を返せば彼女は悔しそうにバキッと扇子を折ってしまった……

「象牙の扇子なのにもったいねぇー」

 ビクトール様の言葉にあの扇子一つで俺の給料何か月分だろうかと折ってその辺に捨てられた扇子を眼で追ってしまうのは仕方ないだろう。
 あとで拾えたら拾って何か細工できないかなと考えていれば手折れそうな手からすらりと伸びるが爪先まで磨き上がられた手が俺の顎を掴み

「ちょっとは若いからっていい気になるんじゃないわよ!
 私の婚約者を寝取った分際で生きてこの部屋から出れるとは思わないで!」

 ドアの外には彼女の護衛が申し訳なさそうにこれも仕事なのでと剣を携えていた。
 と言うかだ。

「一昨日初めて自己紹介した人と寝るなんてなんでそうなるんです……」
「人目のない裏庭で乳繰り合っていたと報告が上がっています!
 それを証拠ではないとはどうシラを切るつもりです!」

 キーッと喚く彼女にはいそれ俺ですと言うしかなかった。
 あー……と言ってビクトール様も目に手を当てて瞠目してしまうがそれはそれで否定して彼女に誤解を解いて欲しい。

「さらに噂を確かめようとバスクの家に問いただしに行けば既にウェディングドレス選びにパーティーの段取りの打ち合わせをしているではありません……」
「ちょっと待って!待って!
 ウェディングドレスって何?!パーティーって何?!」

 キュラール・トゥリエル嬢に向って叫ぶように聞いてしまえば彼女はそれを私に言わすのかと眉間をせぼめ、泣き出しそうな顔で

「貴方達の結婚式とその衣装に決まってるでしょ!
 バスクの奴あなたなら何を着ても似合うからどれだけ用意すればいいかと!!!
 婚約者の私にそんな事聞くんじゃないわよ!!!」

 そう叫びながら俺の顎から外した手を拳にして側にいた事務長にぶつけていた。
 
「あ、白目剥いてる」

 アイーダが冷静になって教えてくれるけどそれが自分に向わなくって良かったと冷や汗がだらだらと流れるしかなかった。

「ちょっと待ってください……
 先輩結婚なんて嘘でしょ……」

 振り向けば始業時眼ギリギリにやってきた後輩のジェラール・タウレルが絶望の眼差しで立ちすくんでいた……


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