公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、あなた変な事流行させてませんか?!

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 突然の休みを貰って朝はゆっくりとベットの中で過ごしていた。
 いわゆる寝坊。
 忙しかったし思い出したくもない昨日の出来事を忘れるようにベットの中でごろごろとする。

「しあわせだ~」

 薄い毛布をもふっと抱きしめてゴロゴロしながら昨晩の読みかけの本を引き寄せて読んで薄い紅茶と昨日の帰り道に買った少し硬くなったパンを齧る。
 なんて贅沢な時間なのだろう……
 この時間院長を始め先輩たちと今年魔導院の事務所に配属された部下も仕事をしている時間だ。
 優しい上司達には申し訳ない物の、初めての俺の後輩は人懐っこい上になれなれしくやたら絡んでくる少し鬱陶しく思うも憎めないかわいい後輩。
 ザマアミロだと心の中で笑って紅茶を啜る。
 小さな家で日当たりも悪いが昼間となればそれなりに明るくパンを齧り終えた所で自堕落な時間を終えて食器を片づける。
 キッチンに溜まった食器の山を見て気合を入れて洗おうとすれば

「おーい、フラン大丈夫か?」

 外から声をかけられて窓から覗けば視線が合った。

「やあマウロ。
 鍵開いてるから入れよ」

 声をかければ彼は香ばしい麦の香るパンを抱えてやってきた。
 
「今日はどうしたんだ?
 オフクロが店の前を通らなかったから心配して見に行けってよ。
 これ見舞だけど……」
「申し訳ないけど風邪じゃないよ」
「だな。
 どう見ても健康そのもの……
 いや、キッチンが不健康そのものだ」
「忙しさにかまけるとこうなると言う良く判る図だよ」
「ははは!だったら洗ってしまえだ!
 手伝うよ!」
「いや、悪いって……」
「気にすんなって。
 新婚さんごっこだと思えば楽しいだろ?」

 笑いを取ろうとしたのかその言葉に俺はぶっと音を立てて吹きだしてしまう。

「な、何だ?」

 おののくように驚いて見せるマウロに

「実はよ、昨日なんだが俺貴族にからかわれて城の中の人がごった返す場所でプロポーズされたんだよ」
「プロポーズ?!」
「うん……
 だけどその人男でさ、誰もが憧れる近衛騎士の隊長様だ」
「え、マジ……
 で、返事したのかよ……」

 驚きに顔を青ざめさせるマウロに俺はため息を吐いて笑う。

「もちろんお断りだよ。
 そもそも公爵様だなんて、身分違いも良い所だ」

 公爵と平民。
 誰が許すかって言う事ぐらい子供でも判ってる。
 まぁ、あの残念な人が公爵だというのは知らなかったが……なんて考えながらスポンジを泡立てながら食器を洗っていく。
 だけどマウロは茫然とした顔で俺を見て

「お前にはアイーダがいただろ?
 アイーダとはどうなってるんだよ……」

 マウロにも紹介した事のあるアイーダ。
 この家に引っ越してきて少しずつ馴染と顔見知りが出来た頃に友人だとこの街をアイーダに紹介してた時にマウロにも紹介していた。
 それから時々あったりマウロの家のパン屋に買い物に行ったりとそこそこ顔なじみになっていたと思っていたら、マウロのそんな質問に俺達の仲ってそう言う風に見られてたんだと失恋したばかりの心が泣きだしそうだった。

「アイーダとはそんなんじゃないんだって。
 男女の友情?
 そういう奴だよ」

 言えばマウロはじーっと俺を見つめてたかと思えばゆっくりと喘ぐ様に呼吸をして

「だったら……」
「ん?」

「俺にもチャンスはあるって事だよな?」

 は?

 何を言ってると考える前にマウロに抱きしめられていきなりキスをされた。

「なっ!ちょ、マウロ……んっ……」

 昨日知ったばかりのキスと同じようにマウロの舌がいきなり俺の舌を絡みとっていた。
 すぐにまともな呼吸が出来なくなって膝から力が抜けて……
 背中に回された手が俺を引き寄せながら支えてくれた。
 そして正面からマウロの……
 しっかりと硬くなったモノが俺を刺激していて……
 ゆっくりとこすり付けらた物にすっかり俺も反応していた……

 ウソだろ……

 涙があふれるのはキスのせいか裏切られた友情か。
 はあ、はあ、吐息を荒げて俺の知らないオスの顔で俺を射抜く様に見つめられて背筋がゾクゾクとする。
 すっかり勃ち上がったモノのせいではありませんようにと祈りながらも背中に回された手が腰のラインをゆったりとなぞっていた。
 何度も、何度も、やがてズボンからシャツがめくれあがって脇腹をマウロの指が掠めて行く。
 くすぐったいのかくすぐったくないのか良く判ら無い感触に

「ふ、んっ……」

 鼻から抜けるような堪える声は自分がこんな声を出せると知った時と同じような音。
 マウロの喉がゴクリとなる音を聞いて……

 流される……

 そんな覚悟をした瞬間

「フライレさーん、郵便です!
 サインをくださーい」

 ドアをゴンゴンと叩くようにならす郵便配達に俺達はまるで目が覚めたと言わんばかりに目を見開いて

「今行きます!」

 俺は声を張り上げてマウロの腕の中に閉じ込められた狭い空間から脱出するのだった。
 すぐに手紙を配達に来たギルドの人に荷物受取と依頼完了のサインを書けばすぐに帰って行ってしまった。
 
「フラン……」
「ひゃいっ!!!」

 声をかけられて数分前の出来事を思い出してゆっくりと後ろを振り向けば

「悪かった……
 今日は帰るわ……」

 気まずそうな顔が俺のすぐ横を通ってドアを潜って行く。
 だけどすぐに足を止めて顔を見せずに

「俺本気だから。
 俺の事、結婚を前提に考えてくれ……」

 それだけを言い残してマウロはかけて行ってしまった。

 呆然と長い事誰も居ない通りを眺めながら頭の中は考える事を拒否し続けていた。
 昨日に続き今日もプロポーズ。
 しかもキスは当然体の貞操の危機までついて来た。

「勘弁してくれ……」

 呟く唇は何度も吸われてぷっくりと艶やかで……
 見れば貪りつきたくなる小さな口だという事を知らないのは当の本人だけだった。







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