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公爵様、貴方の学友はこんな気の利く人なのですよ

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 結局災難なこの日は俺は早退する事になった。
 事務長が何かを察してくれたというか、何もされてないギリセーフだとかその辺は限りなくアウトなセーフの内なので今日は仕事にならないだろうと休ませ、明日も休暇をもらったのだが同僚達はひたすら可哀想な目で俺を見るのだった。

「まぁ、前からお前の顔立ちはかわいいとは思ってたが……
 まさか公爵様を射止めて来るとは思わなかったよ」
「ビクトール様ヤメテクダサイ」
「怒ったか?
 悪いな、その顔もまた可愛いからついからかいたくなっちまう」
「い、院長!」

 俺の短い髪をぐりぐりと書きま乱す灰味がかった銀の髪を持ち、青空を映す湖面のような瞳の色を持つビクトール・カドレニーは25歳にしてこの魔導院の院長でありカドレニー侯爵家の当主でもある。
 何故か俺を可愛がる院長にはペット扱いをされており、こうやってかまわれるのは既に日常で俺の直属の上司でもある事務長も既に何も言わなくなってしまった。

「それにしてもベルトランの奴がこんな事をねぇ……」

 信じられんと言うように何時の間にだろうか強く握りしめられて痣になった手首に癒しの魔法で治療をしてくれる院長に

「お知り合いですか?」
「ん?ああ。
 お前とアイーダみたいな関係だよ。
 同じ学園の出身で同期でもあるな。
 片や剣を扱えばその年にして国一番の使い手と謳われ、片や魔法を扱えば国一番とされる魔法の使い手と謳われた奇跡の世代の当事者だ。
 つまり、幼馴染って奴だ」
「すごい要約ですね」
「侯爵家と公爵家の繋がりだからな。
 少しでもお見知りおきしておきたいというのはお前も学園で学んできただろ?」
「はい……」

 残念な事に俺なんかと仲良くしておきたいという奴はいなかったが、それでも最低限学園を卒業した者としてアイーダの家が唾をつけておいてくれた程度には繋がりが出来たとは思っている。

「とは言えだ……」

 院長はじっくりと俺を見つめて無言になるも直ぐにかぶりを振って

「俺の方から抗議はしておく。
 仕事中の部下にプロポーズを申し込むとか人気のない所で何しようとしたか……
 まぁ、周りからいろいろ言われるのは仕方がないのは諦めろ。
 もし最悪な事があれば俺を頼ってくれ。
 幼馴染の暴走を止めれなかったお詫び位はさせてくれ」
「そ、そんな院長になんて……」

 灰味がかった銀の髪を持ち、青空を映す湖面のような瞳を持つ少し寒い色合いだが、それは魔力に長けた物の特徴の色合い。
 国一番の魔法の使い手と言われるだけあるものの、何故かこの人は剣の使い手でも有名で毎年剣術の大会では準優勝に輝く実績を持っているという……
 つまり、この人に毎年勝っている人が件のベルトラン公爵なのだろう。
 初めて院長を毎年負かしている人の名前と顔が一致で来て思わず心の中で感動をしてしまうもそれがあんな人だと思えばその感動も一瞬にして霧散する。
 そんな魔法使いにしては体の作りが男臭くて頼もしい院長は俺を抱きしめて

「大丈夫。
 この後俺の方からガツンと言いに行くよ。
 だから明日はゆっくりと休んでそれからまた仕事においで。
 ああ、もし家で一人でいるのが心配ならうちに泊まりに来ると良い」
「ご心配ありがとうございます。
 ですが折角ですが家で溜まった掃除や洗濯をして気を紛らわせようと思いますので」
「そうか。
 だけどうちの使用人達に気を遣う事はないから。
 寧ろ次いつ遊びに来てくれるのか楽しみにしてるぐらいだしな。
 何だったらうちに養子においで。 
 そうすればうちの使用人達も喜ぶぞ?
 侯爵家と公爵家の間柄だけど、うちならそうそうあいつも手を出せないしな?」

 言ってウインクする院長のお父様が現国王と兄弟だ。
 院長のお母様に惚れて降下されたと言っても良いぐらいに惚れに惚れて結婚に辿り着いたというおしどり夫婦は院長の成人と共に爵位を明け渡し、今ではカドレニー領の一角にある美しい山並みを眺める事の出来る小さな街を治める侯爵となって夫婦穏やかに過ごしている。
 ある意味公爵家より性質の悪い家だ。
 
「折角お前の部屋も作ったんだ。使ってくれないともったいないしね?」
「ううう、院長本当にお心づかいありがとうございます」

 本当に良い人なんだがおかげでいまだに独身の院長に思いを寄せる人達からの態度が痛いほどに怖いのだ。
 
「だけどだ。
 俺の忠告を無視してベルトランが言い寄るようなら強制的に家で保護をするから。
 それだけはお前も心構えを作っておけ」
「了解しました」
「それとも何だったら俺と結婚する?」
「それは……スコシカンガエサセテクダサイ」

 俺を可愛がってくれる院長の綺麗に笑う視線から逃げる様に自分の荷物が置いてある自分の机に向かう。
 だけど公爵様が家に乗り込んでくるようになったらそれこそあの町にすら居場所がなくなってしまう。
 細い道路に馬車で封鎖するように止めて煌びやかな服を着こんであの雨風で吹き飛ばされそうな古い家でお茶を飲んでいる姿を想像しただけでも申し訳なさ過ぎて首をくくらなければいけない光景だ。
 そんな事にはなりませんようにと願いながら普段より一足先に失礼して家路につくのだった。
 





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