公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

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公爵様、落ち着いてください

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 何故か話の通じない公爵様といつの間にか再び手を繋がれて拘束されている俺は司書室の窓に映る自分の困惑した顔を見てさらに困惑する。
 どちらかと白っぽい金の髪に深い緑の瞳孔から伸びる若葉の緑が広がろうとするのを光の虹彩が包む瞳には金が散る美しい色合いだ。
 何も持たない俺の小さな自慢だが、残念な事に気づいてくれる人は今の所誰も居ない。まぁ、いいけど……
 貴族様と比べても白い肌はこの国の人間の標準的な肌の色だが、生憎補佐官の仕事をしている俺は一日中部屋の中に居る為にどちらかと言えば青っ白い色合いをしている。
 健康的な肌の色をしている公爵様と違って不健康と言う言葉が良く似合っていた。
 さらに言えば小さいながらも台所と水場のある古い家を借りる事が出来た。
 屋根裏も付いているし誰にも気兼ねなく過ごす事の出来る家で俺は司書室の隣の図書室から本を借りては読み漁るのがプライベートの過ごし方だ。
 おかげで不健康の肌に目の下には隈があり、いかにも本の虫と言う姿をしているのだった。
 そんな俺に何故公爵様は好きだとか思うのだろうかと思うが、聞けば初恋をこの年で迎えたようで……公爵様の恋は酷く間違った方向に爆進しているようにも思えた。
 近衛の人達にもそんな所にいないでもっとしっかりと手綱を握ってくださいと願わずにはいられない。

「所でだが……」

 公爵様がまた何やら言い出すのを少しだけ警戒していれば

「先ほど私の事を知らないと聞いたが?」
「お名前はお伺いした事があります。
 ですがお顔と一致しなくて不敬をお詫びします」

 まずったと舌打ちをして視線を逸らすも、公爵さまは俺の手を引き寄せて何故か腕の中に閉じ込められてしまった……

 助けてー!!!

 声の出ない悲鳴で草むらの向こう側で待機している近衛の人に助けを求めるも、彼らは視線を彷徨わせるだけ。
 一応俺達はこの人の援護をする要員なんだからと視線で断られてしまった。

「そんな小さなことは気にしない」

 俺の顔をくいっと自分の方に向けてうっとりとした顔が見つめていた。

「改めて私の顔と名前を覚えてくれたら良いのだから」

 他に何も見えていない、そんな瞳がだんだん迫ってきて、俺はこの後怒る事に目を背けるように目を閉ざせば予想通りに唇に柔らかい物が触れた。
 二度三度、ついばむ様に優しく触れ合い、少し離れてもう気が済んだのかと思ったほっとした所で

「ふっ、あふ……」

 ねっとりとした温かな舌が容赦なく潜り込んできた。
 小説に書いてあるような熱烈なキスだと、初めての体験に誰がそんな事を許したと体を突き放そうとするも俺の力では鍛え上げられた胸板に対抗すらできなく、逆にその胸に縋りついてしまう始末。
 その間にも俺に覆いかぶろうとする公爵に背中はしなり、器用にも背中に回した手がそっとベンチに横たえさせてくれた。
 するりとベルトを外して腹部の圧迫が緩くなったと思えばそのままシャツの下に潜り込んできて胸元へと伸びてきて、小さな刺激を与えてきた……

「ゃあ、は、あん……」

 初めて聞く鼻にかかった女みたいな甘ったるい自分の声にドキッとしてしまう。
 指先の刺激で頭が真っ白になって、でも気持ちよくって……
 これ、まずいかも……

 何度もキスを交わしその合間に注がれる唾液はどうしようもなく呑み込むのも追いつかず、さらに言えば公爵の硬くて熱いモノが布越しの俺の下腹部に押し付けられていて……

「ベルトラン閣下!それ以上はダメです!!!」

 さすがに近衛の人達が真っ青になってこの場に飛び込んできてくれた。
 
「むっ、アシエルか……
 側に控えてろと言ったではないか……」
「そんなわけにはいきません。私達に何を見せるつもりですか?!
 お前達もフライレ殿をお助けしろ」

 その言葉にわらわらと、どこに隠れていたのか至る所から近衛の人が現れた……

「あーあー、こんな風に乱れさせちゃって……」
「仕方がない、あまりに甘くて良い匂いがするからな。
 まさか意識が飛んでいたなんて思いもしなかったが……」

 シャツはズボンからめくれ上がりへそが丸見えになっていて、前を止めていたはずの隊服はいつの間にかはだけさせられて中に来ているシャツのボタンも三つほど外され一つは飛んで無くなっていた。と言うか既に一つしかついていない。
 と言うかだ……

「こんな沢山の人に見られていたなんて―――っっっ!!!」

 勢ぞろいする近衛の方々の顔を見て、気持ちよさに周囲の状況を忘れてたなんてと思わず両手で隠して肌蹴た体と顔を隠して泣きだしてしまえば

「申し訳ありません。
 閣下がこんなにもケダモノだったなんて我々も想像した事がないので……」

 ズボンのベルトも外されパンツさえもろ見えの状態の俺に申し訳なさそうにでも顔を赤くして謝罪されるも俺は決めつけた。

「貴方達全員グルで俺をからかって楽しんでたんでしょう!」

 そう言って立ち上がり、とりあえず身だしなみを整えてやけくそのように吠えてあふれる涙をぽろぽろと落としながら逃げる様にこの場を去るのだった。
 背後から何かが聞こえてきたが、学園で最下層のヒエラルキーの中に居てもこんな犯罪めいた嫌がらせなんてされた事はなく、あまりにショックなできごとに泣きながら自分の職場の魔導院の事務所に戻って来た俺に先に戻ってきたアイーダを始め、既に広まった噂を知っていた人達は俺の様子を見てただただ何も聞かずに慰めてくれるのだった。






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