公爵様のプロポーズが何で俺?!

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
3 / 42

公爵様、常識を学んでください

しおりを挟む
 少しだけ話をしないか?

 そう言って俺の手を握った男は俺の手を離さずずっと握りしめたままだった。
 それどころか指先で俺の握った手をさするという、アイーダにすれば一発で効果を表すその行為は俺の背筋に寒気を誘うだけの行為。
 逃げたい……
 そう思うもその手は意外とがっちりと繋がれ、気が付けば恋人繋ぎをさせられていた……
 おもむろに泣きたくなるのを我慢して話とやらを切り出すのを待っていれば遠くはない近くでひそひそと話がするのが聞こえた。
 嫌な予感を感じてそちらの方へと視線だけを向ければ、似た隊服を着た近衛の人達が何やら隣の人に懸命に指示を出していた。
 たぶん声をかけろと言っているのだろうが、この光景を見られた俺の方が泣きながら逃げ出したい気分になるのだが、多分この手は放してくれないんだろうなと話があるなら早く話せよとブスッとした顔になるのは仕方がないだろう。
 でも、そんな援護もあってか彼は俺へと体ごと向いて

「改めて名乗ろう。
 近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランだ。 
 この王都から近い港町を持つベルトラン公爵領の領主を賜っている。
 よければバスクと呼んでもらえないだろうか?」

 女の子なら一発でイチコロだろう甘い笑みを浮かべて公爵様に俺は
 
「多分あなたは人間違えをしていると思いますが私はフラン・フライレ、男です」

 最後の男と言うのを強調して伝えるも

「知ってるよ。
 フランと呼んでもよいだろうか?」

 良いだろうかと聞いておいて小さな声でフランと呟いて握ったままの俺の手の甲にキスをした。
 思わずと言うようにひっこめてしまえば無事手は離れるものの、公爵様は寂しそうな目をして俺に何かを訴えていた。
 何を訴えてるのか知りたくもないし、キスされた手の甲も無言で拭いてしまうのも寂しそうな目で見ていたが

「先ほどのお話は断ったはずです」

 言えば公爵様は小さく頷き

「先ほどはいきなり済まなかった。
 保証人として連れてきた部下達にも叱られたのだが、私の名前も知らない相手に結婚を申し込むのは非常識だと言われた。
 私自身顔も知らない相手から見合いの話をよく貰うのだから名前の知らない相手が私の存在を知っていて見合いを申し込むのは普通の事だと思ってた。
 だから私はこのような無知を貴方に見せてしまって困らせたのだと理解したのだよ。
 本当に困らせてしまって済まない」
「いえ、そうではなく、見合いの申し込みはその前の段階の自己紹介の場なんだからいきなり結婚とか婚約とかに話を持ち込む非常識さを理解してください」

 どうしてこの段階をすっ飛ばすのだと近衛の人を恨む様に睨みつけるも、向こうは向こうでここまで理解してないのかと頭を抱えていた。









しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...