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公爵様、常識を学んでください

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 少しだけ話をしないか?

 そう言って俺の手を握った男は俺の手を離さずずっと握りしめたままだった。
 それどころか指先で俺の握った手をさするという、アイーダにすれば一発で効果を表すその行為は俺の背筋に寒気を誘うだけの行為。
 逃げたい……
 そう思うもその手は意外とがっちりと繋がれ、気が付けば恋人繋ぎをさせられていた……
 おもむろに泣きたくなるのを我慢して話とやらを切り出すのを待っていれば遠くはない近くでひそひそと話がするのが聞こえた。
 嫌な予感を感じてそちらの方へと視線だけを向ければ、似た隊服を着た近衛の人達が何やら隣の人に懸命に指示を出していた。
 たぶん声をかけろと言っているのだろうが、この光景を見られた俺の方が泣きながら逃げ出したい気分になるのだが、多分この手は放してくれないんだろうなと話があるなら早く話せよとブスッとした顔になるのは仕方がないだろう。
 でも、そんな援護もあってか彼は俺へと体ごと向いて

「改めて名乗ろう。
 近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランだ。 
 この王都から近い港町を持つベルトラン公爵領の領主を賜っている。
 よければバスクと呼んでもらえないだろうか?」

 女の子なら一発でイチコロだろう甘い笑みを浮かべて公爵様に俺は
 
「多分あなたは人間違えをしていると思いますが私はフラン・フライレ、男です」

 最後の男と言うのを強調して伝えるも

「知ってるよ。
 フランと呼んでもよいだろうか?」

 良いだろうかと聞いておいて小さな声でフランと呟いて握ったままの俺の手の甲にキスをした。
 思わずと言うようにひっこめてしまえば無事手は離れるものの、公爵様は寂しそうな目をして俺に何かを訴えていた。
 何を訴えてるのか知りたくもないし、キスされた手の甲も無言で拭いてしまうのも寂しそうな目で見ていたが

「先ほどのお話は断ったはずです」

 言えば公爵様は小さく頷き

「先ほどはいきなり済まなかった。
 保証人として連れてきた部下達にも叱られたのだが、私の名前も知らない相手に結婚を申し込むのは非常識だと言われた。
 私自身顔も知らない相手から見合いの話をよく貰うのだから名前の知らない相手が私の存在を知っていて見合いを申し込むのは普通の事だと思ってた。
 だから私はこのような無知を貴方に見せてしまって困らせたのだと理解したのだよ。
 本当に困らせてしまって済まない」
「いえ、そうではなく、見合いの申し込みはその前の段階の自己紹介の場なんだからいきなり結婚とか婚約とかに話を持ち込む非常識さを理解してください」

 どうしてこの段階をすっ飛ばすのだと近衛の人を恨む様に睨みつけるも、向こうは向こうでここまで理解してないのかと頭を抱えていた。









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