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公爵様、追いかけてこないでください
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司書室の裏手にある日当たりのあまりよくない休憩所で泣いて目をはらすアイーダに水で濡らしたハンカチをそっと目元に当てて冷やしていた。
「落ち着いた?」
「ごめんね。もう大丈夫」
「うん。怖かったね」
いきなりの怖い顔とか、いきなりの告白とか付いていけなくって俺もどっと疲れてアイーダの隣のベンチの背もたれにもたれる様に座り込んでしまう。
「フランは本当にベルトラン公爵様と知り合いじゃないの?」
ずっと目元を抑えていた間無言だった彼女の疑問なのだろう。
だけど俺はこればかりは胸を張って言える。
「悪いけど知り合いじゃないよ。
城の中でも学園時代にもあったことないし、それはアイーダが一番よく知ってるだろ?」
茶色の瞳と茶色の少し癖のある短い髪のアイーダとは学生時代の三年間共に同じクラスで学んだ相棒のような存在だ。
相棒であって別に付き合っているわけではない。
彼女は小さな商家の産まれの平民で、俺は小さな農家の使用人の子供。
たまたま俺に魔法の才能があった為にモリエンテス王立学園に推薦してもらえ学費免除で寮生活もできる環境を手に入れた俺と、華やかな学園生活の中の平民と言うヒエラルキー最下層の彼女と俺が組むのは自然の出来事だった。
だけど努力の甲斐があって城勤めと言う就職先にありついた俺達はそのまま山ほどいる事務官の一人として働くのだが、まぁ、ありがたい事に学園出身と言う事で役職は約束されている。
既に亡くなってしまったたった一人の家族の祖父の助けも要らないくらいに食べる事にも寝る場所にも困らない生活にお世話になっていた農家の人達もほっとしてくれたぐらいだ。
俺達を雇う必要がなくてと言う意味で。
祖父が知り合いだったらしくそこまで裕福ではない農家だった為に俺達の食い扶持はむしろお荷物だった、けど祖父には恩があるらしく断る事も出来ずに面倒を見ていてもらっていたという事情。
おかげで今ではすっかりと疎遠になってしまい、俺の友好関係は学園以降の人間関係が総てだ。
ちなみに夏季休暇とか冬期休暇とか年に二度ほどある大型休日の折りには生徒は全員学園から追い出されるので、その時はアイーダの家でお世話になっている。
アイーダの家は小さいながらの商家と言うが、隣国からの品を買い入れている貿易商を営んでいる。
貿易商としては小さいという意味で、それなりには大きい商家なのだが如何せん、学園に通うような商家の子息令嬢はそん所そこらの貴族よりも裕福な生活をしている為に貴族とは言え次男三男、令嬢達の嫁ぎ先としては十分魅力的な家であるために、そこまで魅力を感じないアイーダの家は見向きもされなかった。
アイーダの家もあわよくば貴族との繋がりが欲しかったとは言ってはいたが、実際学園に入ってすぐに価値観の違いを目の当たりにして顔繋ぎが出来て良かったじゃないかと言う惨敗ぶりに涙をのんだ。
悔しい思いはいくらでもした。
そしえ越えられない壁も何度も体験した。
だけど夢で終わりではない事だけは体験してきた。
少なからず三年間の学園生活で貴族との友情は生まれたし、ただ家を継がせるにはもったいないくらいの仕事に恵まれた。
そんなアイーダの家は他に頼る家族のいない俺を息子のように思ってくれていて、恩を返すというわけではないがアイーダの家の仕事を手伝わせてもらっていた。
そんな短いながらも家族のように育ったアイーダとはついに愛や恋などが芽生えなかったが最終的にはそれもありだなとぼんやりと考えている俺が居た。
なんとなくだがアイーダが行き遅れるよりはいいだろう……
その程度の考えだが叔父さんも叔母さんも何も言わない辺りそう言う事になっていると俺は思っていた。
だがそんな俺についに春がやってきた。
いや、寧ろ冬だろうと思うが相手はアイーダですら興奮する相手。
どちらかと言えばこれは失恋なのかな?と一瞬見せたアイーダの女性の輝きにアイーダは俺の知らない所でちゃんの恋をしていたのだと初めて知った事にショックを俺は受けていた。
小さな貿易商とは言え立派な商家のお嬢さんと身よりのない魔法が使える程度の俺には身分の差があるというのだろう。
そもそも俺がアイーダの……なんて思ってただけでアイーダの家では俺なんて眼中にないただの使い勝手のいい使用人程度だったのかもしれない。
たぶんこれが正解なのだろう。
だけど今までの価値観なんてすぐに変わる事は出来なくハンカチを水で濡らしてアイーダに渡す事しか出来ないのだが……
「フランは公爵様になんてお返事するつもりなの?」
視線も合わせてくれなく、濡れたハンカチを握りしめるアイーダに
「返事はもうお断りだって伝えたじゃないか」
彼も失恋してアイーダのように泣いているのかと考えてみれば不意にこの庭園の通路の奥から人の気配がした。
滅多に人が来ない場所なのにと思っている間にもその足音は近づいてきた。
僅かな化粧が濡れたハンカチで大変な事になっているアイーダを見せないようにと影に隠せば
「随分探した。
こちらにいたか……」
件の公爵様が再び俺の前に現れた。
二人してぎょっとし、思わず静まり返った裏庭に
「先ほどは突然済まない」
傲慢ながらも公爵様の謝罪に驚いていればアイーダはすくっと立ち上がり
「フラン、一度きちんと公爵様とお話しするのよ」
そう言ってハンカチを握りしめて去って行く後姿に俺も連れてってと手を伸ばすも、反対の手を握りしめられて追いかける事は叶わなかった。
暫くそんな俺達は静寂に包まれていたが
「その、彼女とは恋仲だったのか?」
申し訳なさそうに聞く公爵様に俺は首を横に振る。
ある意味俺もフラれたわけだが、まさかアイーダに恋していたのかなんて今更考えてみてショックを受けていた。
導き出した答えがそうだというのだから色々な意味でショックに打ちのめされていたが、それさえも吹き飛ばす公爵様の出現に俺の頭はパンク寸前だった。
「少し話をしないだろうか?」
言われて手を引かれた場所は先ほどアイーダと座っていたベンチ。
近衛の隊服を纏う人には何ともちぐはぐな場所だろうかと思うも、アイーダにも話しをしなさいと言われていて少しだけ……と思って隣に座るのだった。
「落ち着いた?」
「ごめんね。もう大丈夫」
「うん。怖かったね」
いきなりの怖い顔とか、いきなりの告白とか付いていけなくって俺もどっと疲れてアイーダの隣のベンチの背もたれにもたれる様に座り込んでしまう。
「フランは本当にベルトラン公爵様と知り合いじゃないの?」
ずっと目元を抑えていた間無言だった彼女の疑問なのだろう。
だけど俺はこればかりは胸を張って言える。
「悪いけど知り合いじゃないよ。
城の中でも学園時代にもあったことないし、それはアイーダが一番よく知ってるだろ?」
茶色の瞳と茶色の少し癖のある短い髪のアイーダとは学生時代の三年間共に同じクラスで学んだ相棒のような存在だ。
相棒であって別に付き合っているわけではない。
彼女は小さな商家の産まれの平民で、俺は小さな農家の使用人の子供。
たまたま俺に魔法の才能があった為にモリエンテス王立学園に推薦してもらえ学費免除で寮生活もできる環境を手に入れた俺と、華やかな学園生活の中の平民と言うヒエラルキー最下層の彼女と俺が組むのは自然の出来事だった。
だけど努力の甲斐があって城勤めと言う就職先にありついた俺達はそのまま山ほどいる事務官の一人として働くのだが、まぁ、ありがたい事に学園出身と言う事で役職は約束されている。
既に亡くなってしまったたった一人の家族の祖父の助けも要らないくらいに食べる事にも寝る場所にも困らない生活にお世話になっていた農家の人達もほっとしてくれたぐらいだ。
俺達を雇う必要がなくてと言う意味で。
祖父が知り合いだったらしくそこまで裕福ではない農家だった為に俺達の食い扶持はむしろお荷物だった、けど祖父には恩があるらしく断る事も出来ずに面倒を見ていてもらっていたという事情。
おかげで今ではすっかりと疎遠になってしまい、俺の友好関係は学園以降の人間関係が総てだ。
ちなみに夏季休暇とか冬期休暇とか年に二度ほどある大型休日の折りには生徒は全員学園から追い出されるので、その時はアイーダの家でお世話になっている。
アイーダの家は小さいながらの商家と言うが、隣国からの品を買い入れている貿易商を営んでいる。
貿易商としては小さいという意味で、それなりには大きい商家なのだが如何せん、学園に通うような商家の子息令嬢はそん所そこらの貴族よりも裕福な生活をしている為に貴族とは言え次男三男、令嬢達の嫁ぎ先としては十分魅力的な家であるために、そこまで魅力を感じないアイーダの家は見向きもされなかった。
アイーダの家もあわよくば貴族との繋がりが欲しかったとは言ってはいたが、実際学園に入ってすぐに価値観の違いを目の当たりにして顔繋ぎが出来て良かったじゃないかと言う惨敗ぶりに涙をのんだ。
悔しい思いはいくらでもした。
そしえ越えられない壁も何度も体験した。
だけど夢で終わりではない事だけは体験してきた。
少なからず三年間の学園生活で貴族との友情は生まれたし、ただ家を継がせるにはもったいないくらいの仕事に恵まれた。
そんなアイーダの家は他に頼る家族のいない俺を息子のように思ってくれていて、恩を返すというわけではないがアイーダの家の仕事を手伝わせてもらっていた。
そんな短いながらも家族のように育ったアイーダとはついに愛や恋などが芽生えなかったが最終的にはそれもありだなとぼんやりと考えている俺が居た。
なんとなくだがアイーダが行き遅れるよりはいいだろう……
その程度の考えだが叔父さんも叔母さんも何も言わない辺りそう言う事になっていると俺は思っていた。
だがそんな俺についに春がやってきた。
いや、寧ろ冬だろうと思うが相手はアイーダですら興奮する相手。
どちらかと言えばこれは失恋なのかな?と一瞬見せたアイーダの女性の輝きにアイーダは俺の知らない所でちゃんの恋をしていたのだと初めて知った事にショックを俺は受けていた。
小さな貿易商とは言え立派な商家のお嬢さんと身よりのない魔法が使える程度の俺には身分の差があるというのだろう。
そもそも俺がアイーダの……なんて思ってただけでアイーダの家では俺なんて眼中にないただの使い勝手のいい使用人程度だったのかもしれない。
たぶんこれが正解なのだろう。
だけど今までの価値観なんてすぐに変わる事は出来なくハンカチを水で濡らしてアイーダに渡す事しか出来ないのだが……
「フランは公爵様になんてお返事するつもりなの?」
視線も合わせてくれなく、濡れたハンカチを握りしめるアイーダに
「返事はもうお断りだって伝えたじゃないか」
彼も失恋してアイーダのように泣いているのかと考えてみれば不意にこの庭園の通路の奥から人の気配がした。
滅多に人が来ない場所なのにと思っている間にもその足音は近づいてきた。
僅かな化粧が濡れたハンカチで大変な事になっているアイーダを見せないようにと影に隠せば
「随分探した。
こちらにいたか……」
件の公爵様が再び俺の前に現れた。
二人してぎょっとし、思わず静まり返った裏庭に
「先ほどは突然済まない」
傲慢ながらも公爵様の謝罪に驚いていればアイーダはすくっと立ち上がり
「フラン、一度きちんと公爵様とお話しするのよ」
そう言ってハンカチを握りしめて去って行く後姿に俺も連れてってと手を伸ばすも、反対の手を握りしめられて追いかける事は叶わなかった。
暫くそんな俺達は静寂に包まれていたが
「その、彼女とは恋仲だったのか?」
申し訳なさそうに聞く公爵様に俺は首を横に振る。
ある意味俺もフラれたわけだが、まさかアイーダに恋していたのかなんて今更考えてみてショックを受けていた。
導き出した答えがそうだというのだから色々な意味でショックに打ちのめされていたが、それさえも吹き飛ばす公爵様の出現に俺の頭はパンク寸前だった。
「少し話をしないだろうか?」
言われて手を引かれた場所は先ほどアイーダと座っていたベンチ。
近衛の隊服を纏う人には何ともちぐはぐな場所だろうかと思うも、アイーダにも話しをしなさいと言われていて少しだけ……と思って隣に座るのだった。
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