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番外編:山の秘密、俺の秘密 7

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「へー、つまり、八仙花は妖怪だったんだ、って妖怪いるんだ。まあ、居てもおかしくないような山奥だしね。
 あの綺麗な年増なお姉さんがねえ、納得の美妖怪。初めて見た」
「妖怪って言うか物の怪って言うような奴だな。長く生きたキツネが昇華した姿だな」

 あれから皆さんは修行の戻ったものの、こんなことがあったばかりなので残った暁の家族から説明と話し合いをする事になったが三人揃ってなぜかものすごく軽蔑した目を向けられている。
 まったくもって解せん。
「お前は無意識だろうが女に名前を与えた事で物の気から仙人に昇華したぞ」
「はあ?なにそれ。レベルアップとか?いや、この場合クラスチェンジか?」
 なんて言うゲームな世界だろうと漫画でもないのにファンタジーな世界が我が家で起きるとは驚きだ。
「正真正銘この一帯の守り神みたいなものになったと言う話しだ」
「しかも特に修業をしたわけではないのにあれだけのモノを名で縛るとは聞いたことがないぞ」
「俺もその話自体聞いたことない。
 って言う事はあの祠にご挨拶に行かないといけないとか?っていうか俺未だにあの祠見つけられないんだけど」
「何、あそこは冬至と夏至にしかたどり着く事が出来ない場所だ。代わりにそのへんの適当な所に作っておけばいい。毎日ご挨拶できる場所がいいな」
「いや、留学するから無理。
 って言うかキツネなら稲荷神社風にしないといけないの?」
「キツネとは言えそっちの眷属じゃないから普通に祠っぽい物を建てて綺麗にしておけばいい。お花でも飾っておけばなおいいぞ」
 なにせ八仙花と書いてアジサイと読む。
 お花の縁が力となろうと言う事らしい。
「ふーん。よくわからないけど、内田さんに相談しておけばいいのかな?長沢さんにも相談しよう」
 二人の名前を出せば少し警戒する様に
「その二人は信用なるのか?」
「さあ?でもあの鳥居を埋め込んだ家を建てた一族だし、長沢さんも今生きている職人さんの中で一番の古株かな?俺の信用よりジイちゃん達先祖の信頼の方が強いから大丈夫だと思う」
「なら一度会いたいのだが」
「じゃあ、呼びますね」

 そう言ってスマホを繋げて三十分後には来てくれる二人。
 年齢の割にはフットワークが軽くて驚きだ。

 ただ九条家三世代を前に土間から上がって来てくれない。
「なんかすごく話し辛いんだけど」
「吉野の、ここは使用人と当主との距離だと思って気にしなさんな」
 長沢さんの言葉にそう言うの止めてよと思うも
「とりあえずこの家群を作ってくれた内田一族とジイちゃんの幼馴染の長沢さん。他にも信用できる人もいるけど祠を作るのならこの二人が良いだろうから」
 言えば二人とも心当たりあるようで無意識だろう隠されているドアへと視線を向けていた。
「冬至と夏至の日は吉野以外全員山から降ろされていたから何があるかは知らんが、その頃になると山伏を見かけるようになるから何か関係があるとは思っていた」
 長沢さんの言う事に内田さんも
「この日はお休みの日だと聞いた事があるが、お勤めの日だったか。
 幸一から何か聞いた事は?」
「オヤジが俺と話をするわけがないじゃん」
 そんな関係だった事に頭が痛いと言う様に誰もが顔を歪める。
「それにしても川を渡ってはいけないって言う理由がそれとは恐れ入った」
「俺も昔の人が言う様に川の向こうは彼岸的な発想だと思っていたから。境界線的な考え方だとは思わなかったって言うか、普通に川で猪洗ったり山葵育てたりしているけどいいのかな?」
「まあ、引きずられる事があるだろうから注意しなされ」
 なんかもの凄い怖い注意を受けるもあの時何もなくてとは言えないけど今も命を繋ぐ事が出来て本当に良かったと心の底から安心をする。
「とりあえずそんな事で川が見える場所に祠を作って欲しいです。
 そんでジイちゃんも美人だと誉める人なので女性が好きそうな感じでお願いします」
「女性が好きそうなって何なんだよ」
 暁のツッコミに
「あー、お花の彫刻を壁に掘ってもらうとか?」
「彫刻ってありか?」
 何て二人で小首かしげる様子に
「丁寧に作れと言う事なら任された。
 大きさはそれほどでもなくていいのだな?」
「はい。八月の終わりには向こうに行くので留守の間寂しくないように花を飾って綺麗にしていただけると助かります」
「なるほど。そこは幸田達にも言って世話をさせよう」
「ありがとうございます」
 なんて頭を下げる。
「では仕上がったら我々も祈祷を上げさせてもらいたい。連絡はこちらでお願いします」
 さっと名刺を渡す暁の父。リーマンならやりてだろう。
「では吉野のがイギリスに向かうまでに用意したいのですぐに取り掛かりますが何かあれば内田の方へ」
 となれば
「材木は小屋の材木を使って下さい」
 名刺交換の間にジイちゃんが用意した大量の木材を使ってくれとお願いすればさっそく長沢さんが見繕ってくれる事になった。
 土間上がり越しとは言え一気にビジネスストライクな話しへと変った場所から俺と暁はそっと離れ、暖かな陽射しが差し込む縁側に移動して白湯を飲みながら飯田さんが作り置きしてくれた羊羹をつまみ、まったりとすることにした。

「所で聞きたかったんだけど、お前こう言う話しを信じるのか?」
「妖怪がどうとかそう言う事?」
 そうと頷く。
「俺達がそう言った物を静める為に山歩きしている事とか」
「正直今も小説や漫画の話しだと思うけどね」
 でも見てしまった、体験してしまった物は認めるしか仕方がない。
 川の向こうは人の住む世界ではない、冬至夏至の日に開かれて光の道が貫く扉の向こうも人の住む世界ではない。
 俺が幾ら祠を探しても見つからない理由がそれらしい。
 ちなみにこの日以外開けると入り口だけで出口はないと言う恐ろしい場所。内田さんも内田さんのお爺さんから話には聞いていたようで、離れを改造した時に同じ扉が当然あるので一人胸の内に隠して撤去したと言う。言われてみれば玄関と竈の位置の関係になるがちゃんと太陽が一直線に入る様になっているのを今更ながら気づくのだった。
「この一帯は俗にいうパワースポットだ。ここは特に力溜りになっていて俺達から見ればよくこんな所で生活できるなって言うくらい息苦しい感じだし、それに結構出るだろ?」
 両手を胸の前でプラプラさせる意味は言わずともわかる。
「息苦しいのは高山地帯だからじゃね?常時酸素薄いし気のせいじゃね?って俺は気にならないし。それにだ。
 出るとしても吉野の関係者だろ?ジイちゃん達ご先祖様や吉野を支えてくれた職人さん達だから今も心配で顔を出してくれる人達を無碍にはできないよ」

 先祖、先人を敬え。

 バアちゃんの言葉に従う様に仏壇のお水やお菓子、お花は欠かさないようにしている。
「信じるんだ。なんか意外」
 絶対信じないって顔なのになあってぼやかれるも仏間を覗き込んで
「遺影の右端から三つ目の女の人居るだろ?皐さんって言う人だけどジイちゃんのお母さんで凄く几帳面な人でさ、掃除をさぼると必ず出て来るんだ。しっかりきっちりやれとは言わないけど汚い所をずっと指差して立ってるから俺の方が根負けしてお会いした時は全敗している」
「……」
「でも困った時は助けてくれる親切なひいバアちゃんだよ」
「……そう言う物か?」
「だから怖がることはないしここに来る奴らに教えて無駄に怖がらせる必要もない。
 それにやっぱり吉野の人間だからか賑やかなのが好きだから遊びに来る奴らの騒ぎ声が何よりの楽しみなんだよ」
「俺達には理解しづらい世界だな」
 肩をすくめる暁に俺も
「確かに。俺もお前達の世界を理解するのは難しい」

 なんて言って笑いあう、誰にも言った事のない俺の体質を理解してくれる友人を得たのだった。 




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あまりにファンタジーな内容だったために削除したお話です。
路地裏骨董カフェ……でも匂わせていましたが、人生負け組はファンタジー禁止と言う縛りだったためにメールのお礼(?)用作品に変更していました。 


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