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番外編:山の秘密、俺の秘密 4
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親父とその兄弟、そして少なからず憎んだ離縁した伯父さんの元奥さん。
一番はやっぱり実の父親と母親。
晩年墓参りをしたオヤジの姿を見て許そうと、せめて逝くまでは支えようと思ったので穏やかな顔で逝けたのは俺にとってはせめてもの救いだった。だけどオフクロは本当に救いようがなく、人の死を狂ったように笑って喜んだあの姿は見捨てるには十分な姿で、最後は痛みと苦しみと恐怖に歪んだ死に顔。幾ら脱脂綿を詰めてふくよかにして人のよさそうな顔を作り上げて誤魔化しても誤魔化しきれない様子に棺桶の蓋は終ぞ開ける事はなかった。
「まぁ、少なからず心当たりはあります。なので、あまり人とは深い交流は避けているつもりですが……」
「周囲が君を放してくれない。一郎さんも同じ事をぼやいていた」
懐かしそうに笑う顔にそうだったんだとだからこんな所にいるのかと妙な納得。
「なるべく穏やかに、そして人には優しくなる様にと努力なさっていた」
「内田さんや長沢さんって言うこの家を作った関係者と言う幼馴染の人から聞く限りじゃ悪ガキの大将だったけどね」
言えばさらに笑ってくれた。
「薄っすらとでも自覚していてくれればなにより。
この山奥で心穏やかに過ごせてもらえればと祈っていたのだが、イギリスに留学とは一郎さんも自慢できるだろう」
「春からですが世話をしてくれる人達にこの山の世話の仕方を教えてきたつもりですが、長期休みには帰って来るので問題ないかと。冬至と夏至の頃は居ないと言う問題を抜けば」
一拍おいてあははははと乾いた笑いが広がった。
「では、戻って来た時にはまたこの扉が開かれる事を願おう」
「その頃まで頑張って生きてくださいね」
そこは笑わずに
「若いのに中々言うのう」
「ここに住んでいたら平均年齢七十以上の集団に揉まれるのでこれぐらいの言い返しは日常会話ですよ」
そんな約束を結ぶ。
その間にも明るくなりだした夜空に出立の時間は近いと慌ただしく準備を始める一団から離れて
「暁、悪いけど今回も頼むわ」
「アジサイ……」
「そして金平糖。はい」
強引に押し付ける。前回を見た人達は神妙な顔をしていたが、初めての人は山登りに邪魔だと言いたげな目で俺達の手元を見る。
「そういや今頃言うのもなんだが前回お前が言ってた単独登山女子に会ったぞ」
「あー、あの年齢不詳の綺麗な人元気だった?」
聞けば
「子供もいた。金平糖は子供に食べさせていたがアジサイはこの先の祠の回りに植えておけって言われたから近くに植えてきたぞ」
「アジサイ強いからね。運が良ければ根付いて大きな株になっているだろうな。
勝手に大きくなるけど花を切って植えて増殖させるのも楽しいぞ。簡単に増えるから危険だよな」
バアちゃん流アジサイの処分として崖下に落とした先で自生するその逞しさ。誰も見れないのに群生地になってどうするんだろうと思うも手が出せない場所なだけに未だに見ないふりをしている。
「正直助かった」
「まぁ、山で人と会った時の会話のむずかしさにはお菓子で誤魔化すのが妥当だよね」
なんせ何か話しかけられた覚えはある物のチョコレートの味でまったりとしていて何も聞いてなかったと言う痛恨のミス。お気に入りの綺麗な金平糖を渡して誤魔化しきった俺素敵と自画自賛。
なんとなく暁に睨まれてしまったが幼児のやる事ぐらい許してやれと笑って誤魔化しておく。
なんとなく話がかみ合ってないような気はした物の
「そろそろ夜明けの時間だ。あ、棚退けて下さってありがとうございます」
「いえ、こちらも食事をありがとうございます」
「はい、簡単な物ですが。帰りもお食事を用意していますので道中お気を付けください」
扉を桟から外して大きく開け広げる。
正面から入って来た陽射しがまっすぐ伸びて光が土間を走って行き、数年ぶりに開けた扉を抜けて登山道の入り口となる崖の階段へとたどり着いたそんな奇跡にも似た恐ろしくも美しい景色。この光がどこに繋げてくれるのかなんて俺は知らないけど。
「それでは本日は扉を開けて下さい感謝いたします」
あの日と同じように準備の整った山伏の集団が一斉にバアちゃんに頭を下げた様に俺へと頭を下げ、俺はバアちゃんの言葉を間違える事無くそれをなぞる。
「日の入りと共に扉は閉めます。
山の掟として何があっても川は渡らない、殺生はしてはいけない、お会いした方には挨拶はしない。機嫌を損ねないようご注意ください。
入口も一つ、出口も一つ。必ずこの扉にお戻りください」
バアちゃんがしたように深々と頭を下げ道中の安全を祈る。
それを合図に手荷物をもちしゃんしゃんと錫杖を響かせて一人、また一人と列になって進んで行った。その間祈る様に頭を下げ続け見送れば
「吉野の」
声をかけられて頭を上げれば暁の爺さんだった。
「お前さんは自分の事を知らない、だけどそれはそれでいい。
俺達と関わらない方が本当は良い事なのだろう。俺達も本音を言うと吉野は怖いからあまり係わりたくない。
だけど吉野が我々に害を与えず寧ろ良くしてくれているのを知っているから我々はここに足を運ぶ。
もしこのお役目が苦になった時は我々を呼ぶと良い。祠を片付けに来るから、そこまでこのお役目を難しく考えなくてよい」
「ええと、バアちゃんにも言われてました。俺は詳しい事知らないけど、俺はもう決めたんです。ここにきて助けを求められたら手を差し伸べると。手を差し伸べることが出来る範囲は決して広くないけど、それでも俺を頼って足を運んでくれる人がいればちゃんとその手を握り返すと。
なので俺がここでやっていける間は難しい事は考えずに、毎回と言う事こそ難しいかもしれませんが声をかけ続けて頂ければと思います」
驚く目はやがてゆるく細まり
「その年で苦労して来たな。
そう言っていただけるなら留学から帰って来てからはまた頼もう」
「帰って来た時覚えていたらまた連絡をします」
そう言っている間にいつの間にか人はいなくなり、慌てる様に置いて行かれないように駆けて行く姿を見送るのだった。
一番はやっぱり実の父親と母親。
晩年墓参りをしたオヤジの姿を見て許そうと、せめて逝くまでは支えようと思ったので穏やかな顔で逝けたのは俺にとってはせめてもの救いだった。だけどオフクロは本当に救いようがなく、人の死を狂ったように笑って喜んだあの姿は見捨てるには十分な姿で、最後は痛みと苦しみと恐怖に歪んだ死に顔。幾ら脱脂綿を詰めてふくよかにして人のよさそうな顔を作り上げて誤魔化しても誤魔化しきれない様子に棺桶の蓋は終ぞ開ける事はなかった。
「まぁ、少なからず心当たりはあります。なので、あまり人とは深い交流は避けているつもりですが……」
「周囲が君を放してくれない。一郎さんも同じ事をぼやいていた」
懐かしそうに笑う顔にそうだったんだとだからこんな所にいるのかと妙な納得。
「なるべく穏やかに、そして人には優しくなる様にと努力なさっていた」
「内田さんや長沢さんって言うこの家を作った関係者と言う幼馴染の人から聞く限りじゃ悪ガキの大将だったけどね」
言えばさらに笑ってくれた。
「薄っすらとでも自覚していてくれればなにより。
この山奥で心穏やかに過ごせてもらえればと祈っていたのだが、イギリスに留学とは一郎さんも自慢できるだろう」
「春からですが世話をしてくれる人達にこの山の世話の仕方を教えてきたつもりですが、長期休みには帰って来るので問題ないかと。冬至と夏至の頃は居ないと言う問題を抜けば」
一拍おいてあははははと乾いた笑いが広がった。
「では、戻って来た時にはまたこの扉が開かれる事を願おう」
「その頃まで頑張って生きてくださいね」
そこは笑わずに
「若いのに中々言うのう」
「ここに住んでいたら平均年齢七十以上の集団に揉まれるのでこれぐらいの言い返しは日常会話ですよ」
そんな約束を結ぶ。
その間にも明るくなりだした夜空に出立の時間は近いと慌ただしく準備を始める一団から離れて
「暁、悪いけど今回も頼むわ」
「アジサイ……」
「そして金平糖。はい」
強引に押し付ける。前回を見た人達は神妙な顔をしていたが、初めての人は山登りに邪魔だと言いたげな目で俺達の手元を見る。
「そういや今頃言うのもなんだが前回お前が言ってた単独登山女子に会ったぞ」
「あー、あの年齢不詳の綺麗な人元気だった?」
聞けば
「子供もいた。金平糖は子供に食べさせていたがアジサイはこの先の祠の回りに植えておけって言われたから近くに植えてきたぞ」
「アジサイ強いからね。運が良ければ根付いて大きな株になっているだろうな。
勝手に大きくなるけど花を切って植えて増殖させるのも楽しいぞ。簡単に増えるから危険だよな」
バアちゃん流アジサイの処分として崖下に落とした先で自生するその逞しさ。誰も見れないのに群生地になってどうするんだろうと思うも手が出せない場所なだけに未だに見ないふりをしている。
「正直助かった」
「まぁ、山で人と会った時の会話のむずかしさにはお菓子で誤魔化すのが妥当だよね」
なんせ何か話しかけられた覚えはある物のチョコレートの味でまったりとしていて何も聞いてなかったと言う痛恨のミス。お気に入りの綺麗な金平糖を渡して誤魔化しきった俺素敵と自画自賛。
なんとなく暁に睨まれてしまったが幼児のやる事ぐらい許してやれと笑って誤魔化しておく。
なんとなく話がかみ合ってないような気はした物の
「そろそろ夜明けの時間だ。あ、棚退けて下さってありがとうございます」
「いえ、こちらも食事をありがとうございます」
「はい、簡単な物ですが。帰りもお食事を用意していますので道中お気を付けください」
扉を桟から外して大きく開け広げる。
正面から入って来た陽射しがまっすぐ伸びて光が土間を走って行き、数年ぶりに開けた扉を抜けて登山道の入り口となる崖の階段へとたどり着いたそんな奇跡にも似た恐ろしくも美しい景色。この光がどこに繋げてくれるのかなんて俺は知らないけど。
「それでは本日は扉を開けて下さい感謝いたします」
あの日と同じように準備の整った山伏の集団が一斉にバアちゃんに頭を下げた様に俺へと頭を下げ、俺はバアちゃんの言葉を間違える事無くそれをなぞる。
「日の入りと共に扉は閉めます。
山の掟として何があっても川は渡らない、殺生はしてはいけない、お会いした方には挨拶はしない。機嫌を損ねないようご注意ください。
入口も一つ、出口も一つ。必ずこの扉にお戻りください」
バアちゃんがしたように深々と頭を下げ道中の安全を祈る。
それを合図に手荷物をもちしゃんしゃんと錫杖を響かせて一人、また一人と列になって進んで行った。その間祈る様に頭を下げ続け見送れば
「吉野の」
声をかけられて頭を上げれば暁の爺さんだった。
「お前さんは自分の事を知らない、だけどそれはそれでいい。
俺達と関わらない方が本当は良い事なのだろう。俺達も本音を言うと吉野は怖いからあまり係わりたくない。
だけど吉野が我々に害を与えず寧ろ良くしてくれているのを知っているから我々はここに足を運ぶ。
もしこのお役目が苦になった時は我々を呼ぶと良い。祠を片付けに来るから、そこまでこのお役目を難しく考えなくてよい」
「ええと、バアちゃんにも言われてました。俺は詳しい事知らないけど、俺はもう決めたんです。ここにきて助けを求められたら手を差し伸べると。手を差し伸べることが出来る範囲は決して広くないけど、それでも俺を頼って足を運んでくれる人がいればちゃんとその手を握り返すと。
なので俺がここでやっていける間は難しい事は考えずに、毎回と言う事こそ難しいかもしれませんが声をかけ続けて頂ければと思います」
驚く目はやがてゆるく細まり
「その年で苦労して来たな。
そう言っていただけるなら留学から帰って来てからはまた頼もう」
「帰って来た時覚えていたらまた連絡をします」
そう言っている間にいつの間にか人はいなくなり、慌てる様に置いて行かれないように駆けて行く姿を見送るのだった。
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