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番外編:正月なので
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「綾人さん今晩は」
十二月の三十一日まだ真っ暗な早朝に顔を出した飯田さんは全身雪まみれでこの家にやってきた。
「雪すごっ!とにかく雪がついた服脱いで囲炉裏に当たって!いや、ストーブのほうがいい?」
「下まで車で来てそこからスノーモービル借りました。キーがさしてあったままで助かりましたし、車庫の中に車入れさせてもらいました」
「うん。来るって言うからガソリン入れておいたんだけど、雪大丈夫だった?」
「下の宮下商店までは道路の雪もちゃんと除雪してありましたよ。それに宮下君もシャッターの音でご挨拶に出てきてくれて色々お土産いただきました」
背負ったカバンの中からお蕎麦が出てきた。宮下のおばさんの煩悩が詰まった手打ち蕎麦は毎年の恒例行事だ。
「俺もお節とか作ってきたので御重に詰めましょう」
これも飯田さんが来るようになってからの恒例行事。
大晦日はお店がお休みになるので三十日を締めにしてそのままこっちにやってくる。住んでいる家の掃除とか実家に帰らないのかと心配になるものの
「実家ですか?実家なんて正月こそ面倒臭いじゃないですか。結婚しろと言う親戚とかはどうとでもなりますが、これでも実家は結構有名な寺のそばにあるので初詣客相手に正月限定メニューでぜんざいを振る舞うんですよ。おもちを搗いてね。
今家に帰ったら完全に餅つき要員です。回避する理由になってもらって申し訳ないくらいです」
それなりに理由があったらしい。とはいえ
台所の竃に火をいれれば嬉しそな顔で水を張ったお釜に昆布と椎茸を入れる。どうやら雑煮を作るつもりらしい。
それに気にもなるのが餅米を取り出し蒸し器をセットして給水の準備。さらには今にも雪の重みで倒壊しそうなかつて住んでいた家の中から杵と臼を雪の中をかき分けて持ってきて土間へと置いた。
ふうと汗を拭うが、この主屋と倒壊寸前の家との間には二メートル近くの雪山があるはずだ。どうなったかは飯田さんの雪まみれの様子で想像できるが、台所のドアから外をチラリと伺えば思いっきり真っ直ぐに突っ切った人一人分の獣道ができていた。玄関の横の広い軒下に置かれたスノーモービルも雪まみれだし、スノボのウェアだろうかそれも雪まみれだ。さすがアクティブ系、俺には真似できんと、そんな事をしなくてもいいように切り餅も買いだめもしてあるし、スノーモービルと言う移動手段も手に入れたのだ。あれでひょいと移動すれば楽なのにと相変わらずパワフルだなあと感心している間に納戸から持ってきた御重にお節を詰め始める。
鼻歌を歌いながらノリノリの様子はとても今さっき東京から来た人には見えない。
「それにしてもいい漆だなあ」
黒光する御重はバアちゃんが毎年使っていたもので
「ジイちゃんが箱を作って漆をバアちゃんが塗ったんだって。
昔は漆も取っていたし、コウゾだっけ?和紙の原料。育てて職人に売っていたらしいよ。今は職人さんがいなくなったからもう止めたって、小学生の頃聞いたな?どこにあるのかなんて知らないけど」
「そうですか、もったいない」
言いながらも御重はどんどん完成していって蓋を閉めた。
「とりあえず仏壇の部屋が涼しいのでそちらに」
「バアちゃんに報告してくるよ」
夜だから手を合わせるだけで台所に戻れば気持ちいいくらいの鰹節を入れる姿があった。フワッと一気に鰹節の匂いが広まり、一煮立ちしてすぐに昆布と椎茸、鰹節を丁寧に漉していく。
「お雑煮用のお出汁とお蕎麦用のお出汁ができましたね」
後は醤油でととのえればいいと一見あっさりし過ぎにも見える出汁は驚くほど深みがあって、出汁だけでも飲みたいと欲求に駆られるのは毎度の事だ。
「あったかい茶碗蒸しが食べたく思います!」
この出汁で作れば絶対美味いだろう。確信を込めて昨朝取れた烏骨鶏の卵を見せればまるでダイアモンドでも見つけたようかの輝く瞳に
「是非作りましょう!」
そうこうしている間に体もしっかりと暖まった所で
「そろそろ一休みしましょうか」
さすがに眠いらしい。台所すぐ隣の一番今暖かい部屋で飯田さんは用意した布団に入った途端眠ってしまい、俺も一緒くたになって隣に敷いた布団に潜り込んだ。
雪が降っているから危ないと言うのに毎年こうやってきて、お節も雑煮もない正月を迎えるのだろうなと思っていたのに飯田さんは無理しないでと言ってもやってきてくれる。そしてしこたまご実家仕込みのお節を俺に食べさせるために準備して初月を待つ。
まるでクリスマスや自分の誕生日を待つような至福の時を迎える特別な日になっていた。
もちろん目を覚ませば飯田さんが二人分には贅沢な料理をさらに作ってくれて無事年越しと新年を祝うに相応しい華やかな食卓を用意してくれるのだった。もちろんテレビから響く除夜の鐘を聴きながら眠った後は飯田さん渾身のお節とお雑煮が待っているのだ。
なんせ自らお餅をついてくれると言うサービスぶり。
「一升ぐらい楽勝です!一日中餅を搗かせるから息子が帰らないんですよ!三十升ってバカだろうあのクソ親父!!!」
こちらもかなり煩悩と言うよりストレスが溜まっている様子。吠えながら宮下の家のお餅までついてくれるので宮下に取りに来させ
「はい綾人さん。宮下君にもお年玉です」
「「あざーーーっっす!!!」」
小さなお年玉袋の中身より貰える事の喜びの方が勝り宮下と二人でハイタッチしながら土間で踊り狂う二十一歳。
いつまでもらっていいのかわからないがこんな正月がずっと続けばいいなと心の中で願うのだった。
***********************************
本編が終わったので再再復活です。
圭斗が戻ってくる前の正月の迎え方でした。
十二月の三十一日まだ真っ暗な早朝に顔を出した飯田さんは全身雪まみれでこの家にやってきた。
「雪すごっ!とにかく雪がついた服脱いで囲炉裏に当たって!いや、ストーブのほうがいい?」
「下まで車で来てそこからスノーモービル借りました。キーがさしてあったままで助かりましたし、車庫の中に車入れさせてもらいました」
「うん。来るって言うからガソリン入れておいたんだけど、雪大丈夫だった?」
「下の宮下商店までは道路の雪もちゃんと除雪してありましたよ。それに宮下君もシャッターの音でご挨拶に出てきてくれて色々お土産いただきました」
背負ったカバンの中からお蕎麦が出てきた。宮下のおばさんの煩悩が詰まった手打ち蕎麦は毎年の恒例行事だ。
「俺もお節とか作ってきたので御重に詰めましょう」
これも飯田さんが来るようになってからの恒例行事。
大晦日はお店がお休みになるので三十日を締めにしてそのままこっちにやってくる。住んでいる家の掃除とか実家に帰らないのかと心配になるものの
「実家ですか?実家なんて正月こそ面倒臭いじゃないですか。結婚しろと言う親戚とかはどうとでもなりますが、これでも実家は結構有名な寺のそばにあるので初詣客相手に正月限定メニューでぜんざいを振る舞うんですよ。おもちを搗いてね。
今家に帰ったら完全に餅つき要員です。回避する理由になってもらって申し訳ないくらいです」
それなりに理由があったらしい。とはいえ
台所の竃に火をいれれば嬉しそな顔で水を張ったお釜に昆布と椎茸を入れる。どうやら雑煮を作るつもりらしい。
それに気にもなるのが餅米を取り出し蒸し器をセットして給水の準備。さらには今にも雪の重みで倒壊しそうなかつて住んでいた家の中から杵と臼を雪の中をかき分けて持ってきて土間へと置いた。
ふうと汗を拭うが、この主屋と倒壊寸前の家との間には二メートル近くの雪山があるはずだ。どうなったかは飯田さんの雪まみれの様子で想像できるが、台所のドアから外をチラリと伺えば思いっきり真っ直ぐに突っ切った人一人分の獣道ができていた。玄関の横の広い軒下に置かれたスノーモービルも雪まみれだし、スノボのウェアだろうかそれも雪まみれだ。さすがアクティブ系、俺には真似できんと、そんな事をしなくてもいいように切り餅も買いだめもしてあるし、スノーモービルと言う移動手段も手に入れたのだ。あれでひょいと移動すれば楽なのにと相変わらずパワフルだなあと感心している間に納戸から持ってきた御重にお節を詰め始める。
鼻歌を歌いながらノリノリの様子はとても今さっき東京から来た人には見えない。
「それにしてもいい漆だなあ」
黒光する御重はバアちゃんが毎年使っていたもので
「ジイちゃんが箱を作って漆をバアちゃんが塗ったんだって。
昔は漆も取っていたし、コウゾだっけ?和紙の原料。育てて職人に売っていたらしいよ。今は職人さんがいなくなったからもう止めたって、小学生の頃聞いたな?どこにあるのかなんて知らないけど」
「そうですか、もったいない」
言いながらも御重はどんどん完成していって蓋を閉めた。
「とりあえず仏壇の部屋が涼しいのでそちらに」
「バアちゃんに報告してくるよ」
夜だから手を合わせるだけで台所に戻れば気持ちいいくらいの鰹節を入れる姿があった。フワッと一気に鰹節の匂いが広まり、一煮立ちしてすぐに昆布と椎茸、鰹節を丁寧に漉していく。
「お雑煮用のお出汁とお蕎麦用のお出汁ができましたね」
後は醤油でととのえればいいと一見あっさりし過ぎにも見える出汁は驚くほど深みがあって、出汁だけでも飲みたいと欲求に駆られるのは毎度の事だ。
「あったかい茶碗蒸しが食べたく思います!」
この出汁で作れば絶対美味いだろう。確信を込めて昨朝取れた烏骨鶏の卵を見せればまるでダイアモンドでも見つけたようかの輝く瞳に
「是非作りましょう!」
そうこうしている間に体もしっかりと暖まった所で
「そろそろ一休みしましょうか」
さすがに眠いらしい。台所すぐ隣の一番今暖かい部屋で飯田さんは用意した布団に入った途端眠ってしまい、俺も一緒くたになって隣に敷いた布団に潜り込んだ。
雪が降っているから危ないと言うのに毎年こうやってきて、お節も雑煮もない正月を迎えるのだろうなと思っていたのに飯田さんは無理しないでと言ってもやってきてくれる。そしてしこたまご実家仕込みのお節を俺に食べさせるために準備して初月を待つ。
まるでクリスマスや自分の誕生日を待つような至福の時を迎える特別な日になっていた。
もちろん目を覚ませば飯田さんが二人分には贅沢な料理をさらに作ってくれて無事年越しと新年を祝うに相応しい華やかな食卓を用意してくれるのだった。もちろんテレビから響く除夜の鐘を聴きながら眠った後は飯田さん渾身のお節とお雑煮が待っているのだ。
なんせ自らお餅をついてくれると言うサービスぶり。
「一升ぐらい楽勝です!一日中餅を搗かせるから息子が帰らないんですよ!三十升ってバカだろうあのクソ親父!!!」
こちらもかなり煩悩と言うよりストレスが溜まっている様子。吠えながら宮下の家のお餅までついてくれるので宮下に取りに来させ
「はい綾人さん。宮下君にもお年玉です」
「「あざーーーっっす!!!」」
小さなお年玉袋の中身より貰える事の喜びの方が勝り宮下と二人でハイタッチしながら土間で踊り狂う二十一歳。
いつまでもらっていいのかわからないがこんな正月がずっと続けばいいなと心の中で願うのだった。
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本編が終わったので再再復活です。
圭斗が戻ってくる前の正月の迎え方でした。
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