上 下
957 / 976

ジャックするって言うけど俺達ただ巻き込まれた系だよねと大声で叫びたい 8

しおりを挟む
 初めてテレビに出た収録を見たのはテレビ放送された次の日だった。
 案の定と言うか山奥に地上波は届かない以前に番組もテレビ欄から削除される田舎仕様だったのだ。
 飯田さんが録画したものをBlu-rayに焼いて麓の家でみることになったのだが
「お前ら・・・・・・
 なんていうか、ひどい顔だな」
 先生の率直な意見にはさようでございますねと答えるしかなかった。
「仕方がないだろ?
 カーテンが上がって一歩踏み出したところで多紀さんと蓮司が正面でカメラとコードをさばきながら待ち構えていたらこういう顔になるから」
 至極真面目な顔で言えば
「うん。あれは驚いたよね。よく見れば服部さんや木下さんもいるし、映画の人達が照明とか音声とかやってるんだから驚くしかないよ」
「ジャックやるって言ってたけどまさかこんなことにもだとは思わなかったし」
 誰がテレビ番組自体を乗っ取るとか想像するのかと言うものだ。
 最初の挨拶と飯田さんの紹介、そしてジビエ料理の紹介と最後の挨拶ぐらいしか俺達の出番はなかった。
 だったらなぜ夏休みの三時間枠の中でこれが放送されたかと言えばやっぱり多紀さんが撮影したことに由来するのだろう。
 出演者の驚く表情やスタッフとして潜り込んだ波留さんや蓮司をはじめとした俳優の方々のスタッフとしての仕事ぶり。番組の出演者たちが小さくなるような顔ぶれだけどシナリオがあるのか皆さんの低姿勢ぶりにスタジオは混乱を極め、観客の皆様は大笑いと言うひどい話し。
 俺達もあれだけ長い時間控室で時間を潰した挙句にスタジオに滞在した割には顔を出した時間は一分程度。まあ、妥当と言えば妥当だが
「宮下良いか?テレビに出てもこれだけの出演時間しかないし、俺達が発する情報は動画でいくらでも知ることが出来る事しか発信することが出来ないんだ。
 二度とテレビ関係のオファーは受けるなよ。
 絶対動画の方が俺達が発信する言葉が多いし、視聴者の数は一時は増えるけどテレビを見てきた人は結局の所通りすがりの人で中身がないから登録人数より視聴回数に繋がらないし・・・・・・」
「綾人、宮下が情報の多さにパンクしてるぞ」
 あきれ返った先生は缶ビールのプルタブを開けて飯田さんが作ったカツオのたたきにネギをたっぷりと乗せてポン酢を絡めて口へと運びながら
「藁焼きのカツオのたたきって生臭さがほんと無くって良いな」
 そう言って日本酒をくいっと呑んでいた。開けたビールの放置はやめてくれ。
 でもね、そう言って食べて呑まれるとこっちが我慢ならないのよ。
 途端に減っていくカツオのたたきに
「飯田さん、まだカツオのたたきありますか?!」
 一瞬で空になったお皿を見て飯田さんは苦笑しながら
「今から焼きますがお待ちできますか?」
「お酒飲んで待ってます」
 もうビデオなんて興味が一切ないと言うように飯田さんが作る料理の争奪戦へと誰もが参加する事になった。
 何せ今は夏休み。
「植田!お前取りすぎだろ?!」
「これが師匠の教えなのでござる」
「「ござる?!」」
 なんて語尾に園田達が食らいついた。
 ったく、お前ら付き合いいいよなと感心しながらも
「だけどほんと綾っちは今回巻き込まれた系だね」 
 珍しいと言うのは上島弟。
「まあな。宮下のおせっかいが発動したからそれならそれで俺に必要だからいいんだけど」
「綾っち何やったの?」
 素直に巻き込まれるわけないよなと言う植田の言葉だけど
「カモのローストオレンジソースはいかがですか?」
 飯田さんの神タイミングでこの話題はシャットダウンされた。 
 って言うか
「オレンジの皮も入っていてほろ苦さがたまりません」
 たっぷりとオレンジソースを絡めて食べてしまえば植田の言葉なんて思い出す価値すらない。
 ひどいと言われようが、言葉にした植田自身も俺の隣で一緒にオレンジソースをぬぐうようにしてカモのローストを食べる。
「綾っち美味しいよ!神の腕は俺達が高校生だったころよりも神々しさが増していて召されそうです!」
「判る。判るぞ植田。だからさっさと召されて俺の分を食べようとするのは止めろ」
「えー?綾っちはいつも食べてるからいいじゃん」
「ですよー。たまに帰ってきたかわいい後輩の為に少しは遠慮してください」
「おまいらかわいくない。飯田さんの料理、俺の物!」
「宮っちー!綾っちがおかしくなったー!」
「いつもだからいちいち気にしないのー!」
 宮下の酷い言葉に誰もが笑いながらも飯田さんが改めて作る藁焼きのカツオのたたきに誰もが箸と取り皿をもって待機する光景を平和だなと思うのだった。

  
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。 高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。 あれ? 俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか? え?あまい? は?コーヒー不味い? インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。 はい?!修行いって来い??? しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?! その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。 第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

処理中です...