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勝ち負けの線引きはどこにある?! 2
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入学に関しての準備は浩志がほぼ一人で出来た。
まあ、これが十代後半だったら手伝ってもやらんでもないが、あいにく二十代後半だ。
だけど一度パートを辞める事になるので
「おら、保険証書き換えに行くぞ。圭斗ちょっと行ってくる」
「相変わらず突然だなお前は」
「ええと……」
「卒業まで俺の扶養に入れておく」
「だけど……」
「安心して病院に行って自己管理をしろって事だ」
なんて久しぶりの二人で出かける事になった。
憐れむ圭斗さん達の視線で見送られるも車の中は陽気な音楽がカーステレオからあふれていた。
きっとこのテンションがないとこの狭い車内を乗り越えられないだろう、そんな事を考える中で
「陸斗達にずいぶん絞られたって?」
「うん。ずいぶん遅れていたから少しで早くも取り戻そうって容赦なく応援してもらえました」
進む道に視線を投げる正面を向いたままの会話。
お互い顔を見ようとしない温度のない会話。
浩志だって自分の存在だけで苦しめる人がいる現実に愕然としながらもその当人は必死に向き合おうとしているのも知っている。
だけど綾ちゃんは笑いながら
「あいつら無茶苦茶だな」
「これが綾ちゃんのスピードだからって」
「だからってたった一年で中高六年分を詰め込む事はないだろう」
「んー、だけど主要教科だけだし、一人じゃなかったから頑張れたし、せっかく綾ちゃんが応援してくれるって言うんだから全力で応えたいって思ったんだし」
「いや、だからってこの詰込みは異常だから。
俺の予定では二年を予定していたのにだな……」
俺なら余裕だけど言いながらもさすがにずっと高校生達の世話をしてきたから一般的な学力のペースと言うものを理解ていた。
陸斗の二年弱の期間で高校三年間の勉強を教え込んだのは資格目的で有名大学目指す高校ならのスピードだからいけるだろうと言う程度の予測。周囲を巻き込んで見事応えた陸斗もすごいが、そういや巻き込まれて斜め上に迷走して無事医大を卒業した葉山の奴は元気にやっているだろうかとスポーツ外科医からどうして外科医になったのか理由を知っていてもいまだに謎な方向転換にまあがんばれと言っておく程度にしている。
「とりあえず必要な学費は俺の方から落ちる事になっているし諸経費は寮生活って不安もあるから毎月振り込みって事にする。
もしタカリに来るような奴がいたらすぐに教えろ。立派に成人しているのだからちゃんと大人の対応で警察にお願いするから安心しろ。覚えておく事だ」
これが一番トラブルに発展しない対処だと、きっちりとした区切りをつけるように言っておく。
そして何かを思い出したかのように
「綾ちゃん達動画やってるじゃん。コメントで何か言われたりしないの?」
ふと気が付いたと言うように疑問を口にする浩志に
「一応NGワードは設定してある。
コメント欄はそうかもしれないがそういったメールは来るから、そこは弁護士さんに出動してもらってる」
「警察の前に弁護士……」
「一応年契約で雇ってるからきっちりお願いしてもらっているぞ」
大体和解で終わるけど。
口には出さずに対処をお願いしている事は言っておく。
別に脅迫なんてただの通過儀礼的なものぐらいにしか俺は考えてないが、宮下がどう思うか、宮下の家族が不安にならないかその為のお守りだと思っている。特に店舗運営しているから営業妨害とかが心配だし、前にいきなりやってきて驚かそうとして遭難した事件もある。きっちり制裁はさせていただかないとこういった事は何度も繰り返すゆえに行動するのは当然だと思う。
こういう時どこかの事務所に所属していれば楽なのかもしれないけど、そうなると今度は所属する義務もいろいろ発生する。
契約料とか週何本動画上げるとか、別に動画で稼ごうとか考えているわけではないので必要ある?な感じで終わっている。
まあ、その分の動画の収益はマイヤー達が設立している音楽家の支援、発展途上国の学校に楽器を寄付する活動に寄付させてもらっている程度の活動に参加できる程度には稼ごうという意識はある。
「あとさ、周りから言われてるんだけどさ……」
「ん?」
何をと聞けば
「冬の多紀さんの映画の公開の挨拶、結局綾ちゃんはけったじゃん。
だけど何か企んでいるようで夏の特番には出したいって頑張ってるから一度でいいからあきらめたらって伝言預かってるんだけど」
「ああ、それは空耳だ。無視していいぞ」
さらっと話を終わらせてみた。
あっけにとられると言うより呆れたと言わんばかりの浩志の視線が俺に突き刺さる。
だけど浩志の視線なんて痛くもかゆくもない。
ただ、これだけ見つめられると車酔いしそうだからやめてくれと主張したいだけ。
しばし無言の後盛大な溜息を吐く音が車内に響く。
「改めて聞くけどさあ、なんで綾ちゃんってテレビ関係は嫌なの?
動画はOKなのにって宮下さんも不思議がってたよ?」
ですよねーなんて心の中で返事をしながら
「まあ、あれだ」
と言ってなんと言えばいいかわからないが
「テレビとかだと知らない人と話さないといけないだろ?」
聞けば、まあねと浩志はペットボトルのほうじ茶を飲みながら頷いてくれた。
テレビで知っている人とは言え実際はどんな人かも知らない人。
そして綾人はもともとあまりテレビは見ない人。
それぐらいは浩志も知っていた。
しばらく続いた沈黙にまさかと言う言葉が生まれる。
「ひょっとして人見知りで怖いとか?」
返事はない。
だけどそれが答えだった。
心の底からまさかそんな事が?!
浩志から見れば完全無敵な綾人のまさかの弱点。
「たいして怖いとは思えないんだけど」
大守多紀と言うこの国指折りの、今では海外でも認められる映画監督のお気に入りに対して下手に喧嘩を売りに来る業界人はいないだろうという事ぐらい浩志でもわかる事なのに、それでも嫌だと沢山のお断りの言葉を並べて撃退する戦術まで用意する残念策士にかける言葉をなくした浩志に綾人はハンドルに手を置いてただまっすぐ前を向き
「動画なら俺達が勝手に語っていればいい。会話があっても知った相手。どんな言葉が返ってくるか予測はつくから怖くはない」
ほんと無駄機能だなと浩志は言葉には出さずただ運転の為に正面を向く綾人の横顔を見ながら次の言葉を待つ。
「予想外の言葉をかけられたときうまく対応できるかどうかわからなくって、怖い」
「案外どうでもいい事で悩んでいたんだ」
きっと決死の告白だったのだろう。
だけど浩志は宮下以上の辛らつな言葉で反射的に突っ込んでしまった。
それがどれだけ綾人を傷つけるかわかっていたのかもしれないがそれでも言わなくてはいけない。
どれだけハイスペックでも幼い頃から傷つけられた心を抱えてそのまま急ぎ足で大人になるしかならなかった従兄の歪なつな成長をした姿でもメンタル面は親に拒絶をされた幼少期のまま。
だけど浩志とて尊敬する従兄をこのままでいさせるつもりはない。
心の中でこの問題されクリアできれば綾人が一歩成長できる事になる、それは確信できた。
その結果さらに暴走しようとしても、はたまた逆に手の付けれない完全犯罪者になり果てようとしてもそこは浩志の関与する所ではない。
理性的に損得を考える事の出来る綾人を信じて守るべきこの家がある以上おじいちゃん達が与えてくれた愛情にかけるしかない。
今は反射的に突っ込んでしまった言葉に落ち込んでいる綾人をどうでもいいと言うようにこれから入学する学校のカリキュラムの話しに変更する。
一度は入学しようとしたらしい学校の話しにこの微妙な空気を払しょくするかのように喰いついて来た従兄を微笑ましく見るような目で笑えば
「悪いけど俺を見るのは止めろ。吐くぞ」
車を汚したくないから両手を差し出して受け取れと言う従兄の対人スキルのレベルアップはかなり難しい事に密かに傷つく浩志だった。
まあ、これが十代後半だったら手伝ってもやらんでもないが、あいにく二十代後半だ。
だけど一度パートを辞める事になるので
「おら、保険証書き換えに行くぞ。圭斗ちょっと行ってくる」
「相変わらず突然だなお前は」
「ええと……」
「卒業まで俺の扶養に入れておく」
「だけど……」
「安心して病院に行って自己管理をしろって事だ」
なんて久しぶりの二人で出かける事になった。
憐れむ圭斗さん達の視線で見送られるも車の中は陽気な音楽がカーステレオからあふれていた。
きっとこのテンションがないとこの狭い車内を乗り越えられないだろう、そんな事を考える中で
「陸斗達にずいぶん絞られたって?」
「うん。ずいぶん遅れていたから少しで早くも取り戻そうって容赦なく応援してもらえました」
進む道に視線を投げる正面を向いたままの会話。
お互い顔を見ようとしない温度のない会話。
浩志だって自分の存在だけで苦しめる人がいる現実に愕然としながらもその当人は必死に向き合おうとしているのも知っている。
だけど綾ちゃんは笑いながら
「あいつら無茶苦茶だな」
「これが綾ちゃんのスピードだからって」
「だからってたった一年で中高六年分を詰め込む事はないだろう」
「んー、だけど主要教科だけだし、一人じゃなかったから頑張れたし、せっかく綾ちゃんが応援してくれるって言うんだから全力で応えたいって思ったんだし」
「いや、だからってこの詰込みは異常だから。
俺の予定では二年を予定していたのにだな……」
俺なら余裕だけど言いながらもさすがにずっと高校生達の世話をしてきたから一般的な学力のペースと言うものを理解ていた。
陸斗の二年弱の期間で高校三年間の勉強を教え込んだのは資格目的で有名大学目指す高校ならのスピードだからいけるだろうと言う程度の予測。周囲を巻き込んで見事応えた陸斗もすごいが、そういや巻き込まれて斜め上に迷走して無事医大を卒業した葉山の奴は元気にやっているだろうかとスポーツ外科医からどうして外科医になったのか理由を知っていてもいまだに謎な方向転換にまあがんばれと言っておく程度にしている。
「とりあえず必要な学費は俺の方から落ちる事になっているし諸経費は寮生活って不安もあるから毎月振り込みって事にする。
もしタカリに来るような奴がいたらすぐに教えろ。立派に成人しているのだからちゃんと大人の対応で警察にお願いするから安心しろ。覚えておく事だ」
これが一番トラブルに発展しない対処だと、きっちりとした区切りをつけるように言っておく。
そして何かを思い出したかのように
「綾ちゃん達動画やってるじゃん。コメントで何か言われたりしないの?」
ふと気が付いたと言うように疑問を口にする浩志に
「一応NGワードは設定してある。
コメント欄はそうかもしれないがそういったメールは来るから、そこは弁護士さんに出動してもらってる」
「警察の前に弁護士……」
「一応年契約で雇ってるからきっちりお願いしてもらっているぞ」
大体和解で終わるけど。
口には出さずに対処をお願いしている事は言っておく。
別に脅迫なんてただの通過儀礼的なものぐらいにしか俺は考えてないが、宮下がどう思うか、宮下の家族が不安にならないかその為のお守りだと思っている。特に店舗運営しているから営業妨害とかが心配だし、前にいきなりやってきて驚かそうとして遭難した事件もある。きっちり制裁はさせていただかないとこういった事は何度も繰り返すゆえに行動するのは当然だと思う。
こういう時どこかの事務所に所属していれば楽なのかもしれないけど、そうなると今度は所属する義務もいろいろ発生する。
契約料とか週何本動画上げるとか、別に動画で稼ごうとか考えているわけではないので必要ある?な感じで終わっている。
まあ、その分の動画の収益はマイヤー達が設立している音楽家の支援、発展途上国の学校に楽器を寄付する活動に寄付させてもらっている程度の活動に参加できる程度には稼ごうという意識はある。
「あとさ、周りから言われてるんだけどさ……」
「ん?」
何をと聞けば
「冬の多紀さんの映画の公開の挨拶、結局綾ちゃんはけったじゃん。
だけど何か企んでいるようで夏の特番には出したいって頑張ってるから一度でいいからあきらめたらって伝言預かってるんだけど」
「ああ、それは空耳だ。無視していいぞ」
さらっと話を終わらせてみた。
あっけにとられると言うより呆れたと言わんばかりの浩志の視線が俺に突き刺さる。
だけど浩志の視線なんて痛くもかゆくもない。
ただ、これだけ見つめられると車酔いしそうだからやめてくれと主張したいだけ。
しばし無言の後盛大な溜息を吐く音が車内に響く。
「改めて聞くけどさあ、なんで綾ちゃんってテレビ関係は嫌なの?
動画はOKなのにって宮下さんも不思議がってたよ?」
ですよねーなんて心の中で返事をしながら
「まあ、あれだ」
と言ってなんと言えばいいかわからないが
「テレビとかだと知らない人と話さないといけないだろ?」
聞けば、まあねと浩志はペットボトルのほうじ茶を飲みながら頷いてくれた。
テレビで知っている人とは言え実際はどんな人かも知らない人。
そして綾人はもともとあまりテレビは見ない人。
それぐらいは浩志も知っていた。
しばらく続いた沈黙にまさかと言う言葉が生まれる。
「ひょっとして人見知りで怖いとか?」
返事はない。
だけどそれが答えだった。
心の底からまさかそんな事が?!
浩志から見れば完全無敵な綾人のまさかの弱点。
「たいして怖いとは思えないんだけど」
大守多紀と言うこの国指折りの、今では海外でも認められる映画監督のお気に入りに対して下手に喧嘩を売りに来る業界人はいないだろうという事ぐらい浩志でもわかる事なのに、それでも嫌だと沢山のお断りの言葉を並べて撃退する戦術まで用意する残念策士にかける言葉をなくした浩志に綾人はハンドルに手を置いてただまっすぐ前を向き
「動画なら俺達が勝手に語っていればいい。会話があっても知った相手。どんな言葉が返ってくるか予測はつくから怖くはない」
ほんと無駄機能だなと浩志は言葉には出さずただ運転の為に正面を向く綾人の横顔を見ながら次の言葉を待つ。
「予想外の言葉をかけられたときうまく対応できるかどうかわからなくって、怖い」
「案外どうでもいい事で悩んでいたんだ」
きっと決死の告白だったのだろう。
だけど浩志は宮下以上の辛らつな言葉で反射的に突っ込んでしまった。
それがどれだけ綾人を傷つけるかわかっていたのかもしれないがそれでも言わなくてはいけない。
どれだけハイスペックでも幼い頃から傷つけられた心を抱えてそのまま急ぎ足で大人になるしかならなかった従兄の歪なつな成長をした姿でもメンタル面は親に拒絶をされた幼少期のまま。
だけど浩志とて尊敬する従兄をこのままでいさせるつもりはない。
心の中でこの問題されクリアできれば綾人が一歩成長できる事になる、それは確信できた。
その結果さらに暴走しようとしても、はたまた逆に手の付けれない完全犯罪者になり果てようとしてもそこは浩志の関与する所ではない。
理性的に損得を考える事の出来る綾人を信じて守るべきこの家がある以上おじいちゃん達が与えてくれた愛情にかけるしかない。
今は反射的に突っ込んでしまった言葉に落ち込んでいる綾人をどうでもいいと言うようにこれから入学する学校のカリキュラムの話しに変更する。
一度は入学しようとしたらしい学校の話しにこの微妙な空気を払しょくするかのように喰いついて来た従兄を微笑ましく見るような目で笑えば
「悪いけど俺を見るのは止めろ。吐くぞ」
車を汚したくないから両手を差し出して受け取れと言う従兄の対人スキルのレベルアップはかなり難しい事に密かに傷つく浩志だった。
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