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短い秋の駆け足とともに駆けずり回るのが山の生活です 1
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避けては通れない戦い。
もちろん爺さんの法定相続人の方達だ。
よだれを垂らしながらもマテの我慢をしていたが虎視眈々と狙い続けていたようだ。
長男の楓雅さんが会社を継ぐようで、弟の侑嗣さんはとある部門のトップだという。
兄弟どころか親戚もがっつりこの会社の中に食い込んでいるらしいと言っちゃなんだが、経営一族と言えばそれまでの納得いく話だろうか。
っていうか今も流行っているんだねーと浅野さんが出してくれたお茶を啜りながら桜井さんと爺さんを横にしても俺はにらまれていた。
ちょっとー、この場で最年少の俺を今にも噛みつこうとするのはやめてよと手土産の羊羹を頂く。
もちろんこれは俺にではなく爺さんにだ。おすそわけでもうまー。
「君の事は父から聞いている。だがどうしてこの家を君が受け継いだのか聞いても良いだろうか」
聞いても良いだろうかなんて言っているけどこのくそ熱い真夏にクールビズなんて言葉を忘れてピシッとサマースーツを威圧するように着こなした姿で目元を引きつらせながらの感情の制御しきれない御尊顔は吐けと言うものだろう。
これは警官に詰め寄られるような犯人の心境だろうか。
遭難事件から熊に襲われた事件、そしておやじの汚職事件とそれなりにご厄介になったなーなんて事を思い出しながらちょっぴり涙を流しそうになるものの
「押し売りされて即金で買わせられました」
きりっとした顔で言い切ってやった。
稔典君の事で少しだけ面識がある侑嗣さんは本当に申し訳なさそうに小さくなっていたのは稔典君問題が解決した事もあるからだろう。
ある程度爺さんから話も聞いているだろうし、俺の事も説明してくれたと言ってくれたけど、侑嗣さんのこの様子を見る限りどんな風に説明したのかぜひとも聞いたいものだ。
長男さんの隣で小さくなってる次男さんを放っておいて俺はきりっとした決め顔でのたまった。
「今なら三十億即金でお買いいただければお譲りします!」
「馬鹿かっ!今直ぐそれだけの金額なんて用意できるわけないだろう!」
常識を知らないのかと大声で叫ばれ、机を叩いて威嚇してくるという動作にこれが世の社会人が言う上司から謂れのないパワハラを受けている状況なのかと少し感動しながらも俺は隣に座る爺さんに首を向けて
「爺さんの息子さんなのに思い切った即断すらできないのですねw
とりあえず断られたので一番最優先していた交渉相手ですが他の方の後回しにさせていただきます」
「仕方がない。相手の見かけに騙されて一番重要な勝負所を見抜けないようではこうなる結果となるのは当然だろう」
残念だというように頭を振る爺さんを見て、この交渉が冗談でも何でもない至極真面目な交渉の場だったというように桜井さんは用意していた書類を丁寧に片づけてカバンの中に入れていた。
唖然とする長男さんの横の侑嗣さんがずいっと乗り出してきて
「でしたら、私が購入させていただきま……」
「却下。ここを買う前に家庭内問題を解決してからにしてください。
それにここを買う金額があれど今の侑嗣さんでは税金を払うまでの能力は足りないじゃないですか。
購入してすぐ売却すればいいって問題じゃありません。購入する金額はあるかもしれないけど、それにまつわる諸経費が爆大になりすぎます。
はっきり言ってマイナスです」
これは本当に頭の痛い話。
どこかの企業に売り払うのがベストなのは言うまでもない。
だけど今この場の交渉では個人間のやり取り。
イギリスにいた時に稼いだものが全部吹き飛ぶような買い物なんて絶対しちゃダメ。
馬鹿な事をしている自覚はあるけど、少しだけこの家に滞在してみて爺さんが手放したくない理由も理解したので爺さんのかなり年下の知人ならすんなりいくだろうという目論見がありありとしているお二方には悪いけど相手にするつもりはない。
ここで話は終わりと言うように立ちあがり
「じゃあ爺さん、お盆が近いから急いで帰らないといけないから行くな」
「ふむ、吉野は相変わらずおとなしくしていないな」
「高確率で飛行機で会う爺さんには言われたくないよ」
言いながら廊下に出ればすぐに荷物をもって浅野さんがやってきてそのまま玄関まで送ってくれるようす。
本当に一家に一人ほしい秘書さんだねと俺はここで荷物を受け取れば
「タクシーを待たせています」
「ありがとうございます。
それじゃあ今度はまた秋口に」
「こっちこそオリオールの土産をありがとう」
チョリが夏休みになってすぐに稔典君をフランスへと連れて行った。
その様子を見に俺もすぐにフランスに行って小学生ですでにどこか達観してしまっている稔典君の様子を見に行けば、そこはオリオールとマイヤーと言う二大指揮者が指示を飛ばす城。
一方は料理をもって体調管理を徹底とし、もう一方は引退をささやかれているとはいえ世界屈指のマエストロ。夏のバカンスシーズンと合わさり、客室だけは十分という事もあってたくさんの音楽家仲間達の中に稔典君を放り込んでひとまとめとして操る妖怪は夏休みの合間に音楽学校では実は足りないレベルだけど見込みで何とか潜り込んだ強引な入学だったのでレベルアップをしてくれたのだった。
基本は一番年齢の近いオリヴィエが生活面のフォローをしながら過ごしてくれていたらしい。稔典君もオリヴィエを尊敬しているので何でも二つ返事でひな鳥のごとくオリヴィエの後ろを追いかける、オリヴィエには初めての体験でどこに行くにも連れまわす様子にマイヤーたちはオリヴィエお兄ちゃんだねと笑いあっていた。
もちろんその合間のバイオリンのレッスンは超一流人の複数の演奏家からのダメ出しとオリヴィエをはじめとする世界レベルのバイオリニストの指摘に何度も泣きながらの練習となった。
もちろん稔典にとってもバイオリンの練習は常に涙ながら、講師のご機嫌を伺いながら気まぐれに付き合っていた。もちろん遅刻でもしようとすればレッスンは受けられずにレッスン料だけ取られるというひどい話。だけど有名音大を出てコンクールにも優秀な成績を収めた人だからと何度止めたいと言ってもきき入れてもらえず、向こうも山下の肩書だけが欲しいだけの理由で三歳から始めたバイオリンのレッスンはチョリに移るまで一回二万円のレッスン料をぼったくられていた。いや、気まぐれだけどちゃんとレッスンはしてくれていたらしい。その証拠にそれなりのレベルにはなっていて、ちゃんと国内のジュニアの大会でも賞をもらったのが努力の証だろう。
稔典の環境も心配したけど二、三教えただけでちゃんと修正のある事から伸びしろはまだまだあると見抜いてチョリが引き取りマイヤー達によって何とかした所、新しい環境の中では教師陣も満足の腕を披露できて楽しい学生生活が送れているのだから結果オーライだ。
年三回の長期休暇には日本に帰らずフランスの城に行くようにと言い含めてある。
母親のカウンセリングは始まっているようだが、とりあえず子供と会わないという方針から始めるという。会えばスイッチが入ってまた半狂乱になるかもしれないからとの事。
これが教育ママの慣れの果てかと教育に一切手をかけてもらったことのない俺でもこれはこれで怖いなと少しだけ身震いをしながら
「飯田さん、ただいまー」
「綾人さんお帰りなさい。では早速ですが行きましょうか」
「よろしくお願いしまーす」
爺さんの家からタクシーを向けた先は飯田さんの家。これから山の家に向かう道のりは飯田さんが送ってくれると言うので甘えさせてもらう事にする。
相変わらずの大量のお土産をカバンに詰めての帰宅を楽しみにしている凛ちゃんやもう少しして帰ってくるだろう陸斗達の喜ぶ顔を思い出しながら
「皆さんお元気でしたか?」
「マイヤーもオリオールもあと十年は現役でいられるよ」
「生涯現役、それは何より」
山ほどの土産話は止まることなく、そして余命宣告された爺さんもまだまだ当分頑張りそうだと今回が最後の挨拶になるかと思っていたけどまだ会えるチャンスがありそうな事に今度は山の土産をたくさん持っていこうと心に決めた。
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いつの間にか発生していたエール機能。
コメントを閉ざしているのにこんなにもエールを頂けて感謝です!
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もちろん爺さんの法定相続人の方達だ。
よだれを垂らしながらもマテの我慢をしていたが虎視眈々と狙い続けていたようだ。
長男の楓雅さんが会社を継ぐようで、弟の侑嗣さんはとある部門のトップだという。
兄弟どころか親戚もがっつりこの会社の中に食い込んでいるらしいと言っちゃなんだが、経営一族と言えばそれまでの納得いく話だろうか。
っていうか今も流行っているんだねーと浅野さんが出してくれたお茶を啜りながら桜井さんと爺さんを横にしても俺はにらまれていた。
ちょっとー、この場で最年少の俺を今にも噛みつこうとするのはやめてよと手土産の羊羹を頂く。
もちろんこれは俺にではなく爺さんにだ。おすそわけでもうまー。
「君の事は父から聞いている。だがどうしてこの家を君が受け継いだのか聞いても良いだろうか」
聞いても良いだろうかなんて言っているけどこのくそ熱い真夏にクールビズなんて言葉を忘れてピシッとサマースーツを威圧するように着こなした姿で目元を引きつらせながらの感情の制御しきれない御尊顔は吐けと言うものだろう。
これは警官に詰め寄られるような犯人の心境だろうか。
遭難事件から熊に襲われた事件、そしておやじの汚職事件とそれなりにご厄介になったなーなんて事を思い出しながらちょっぴり涙を流しそうになるものの
「押し売りされて即金で買わせられました」
きりっとした顔で言い切ってやった。
稔典君の事で少しだけ面識がある侑嗣さんは本当に申し訳なさそうに小さくなっていたのは稔典君問題が解決した事もあるからだろう。
ある程度爺さんから話も聞いているだろうし、俺の事も説明してくれたと言ってくれたけど、侑嗣さんのこの様子を見る限りどんな風に説明したのかぜひとも聞いたいものだ。
長男さんの隣で小さくなってる次男さんを放っておいて俺はきりっとした決め顔でのたまった。
「今なら三十億即金でお買いいただければお譲りします!」
「馬鹿かっ!今直ぐそれだけの金額なんて用意できるわけないだろう!」
常識を知らないのかと大声で叫ばれ、机を叩いて威嚇してくるという動作にこれが世の社会人が言う上司から謂れのないパワハラを受けている状況なのかと少し感動しながらも俺は隣に座る爺さんに首を向けて
「爺さんの息子さんなのに思い切った即断すらできないのですねw
とりあえず断られたので一番最優先していた交渉相手ですが他の方の後回しにさせていただきます」
「仕方がない。相手の見かけに騙されて一番重要な勝負所を見抜けないようではこうなる結果となるのは当然だろう」
残念だというように頭を振る爺さんを見て、この交渉が冗談でも何でもない至極真面目な交渉の場だったというように桜井さんは用意していた書類を丁寧に片づけてカバンの中に入れていた。
唖然とする長男さんの横の侑嗣さんがずいっと乗り出してきて
「でしたら、私が購入させていただきま……」
「却下。ここを買う前に家庭内問題を解決してからにしてください。
それにここを買う金額があれど今の侑嗣さんでは税金を払うまでの能力は足りないじゃないですか。
購入してすぐ売却すればいいって問題じゃありません。購入する金額はあるかもしれないけど、それにまつわる諸経費が爆大になりすぎます。
はっきり言ってマイナスです」
これは本当に頭の痛い話。
どこかの企業に売り払うのがベストなのは言うまでもない。
だけど今この場の交渉では個人間のやり取り。
イギリスにいた時に稼いだものが全部吹き飛ぶような買い物なんて絶対しちゃダメ。
馬鹿な事をしている自覚はあるけど、少しだけこの家に滞在してみて爺さんが手放したくない理由も理解したので爺さんのかなり年下の知人ならすんなりいくだろうという目論見がありありとしているお二方には悪いけど相手にするつもりはない。
ここで話は終わりと言うように立ちあがり
「じゃあ爺さん、お盆が近いから急いで帰らないといけないから行くな」
「ふむ、吉野は相変わらずおとなしくしていないな」
「高確率で飛行機で会う爺さんには言われたくないよ」
言いながら廊下に出ればすぐに荷物をもって浅野さんがやってきてそのまま玄関まで送ってくれるようす。
本当に一家に一人ほしい秘書さんだねと俺はここで荷物を受け取れば
「タクシーを待たせています」
「ありがとうございます。
それじゃあ今度はまた秋口に」
「こっちこそオリオールの土産をありがとう」
チョリが夏休みになってすぐに稔典君をフランスへと連れて行った。
その様子を見に俺もすぐにフランスに行って小学生ですでにどこか達観してしまっている稔典君の様子を見に行けば、そこはオリオールとマイヤーと言う二大指揮者が指示を飛ばす城。
一方は料理をもって体調管理を徹底とし、もう一方は引退をささやかれているとはいえ世界屈指のマエストロ。夏のバカンスシーズンと合わさり、客室だけは十分という事もあってたくさんの音楽家仲間達の中に稔典君を放り込んでひとまとめとして操る妖怪は夏休みの合間に音楽学校では実は足りないレベルだけど見込みで何とか潜り込んだ強引な入学だったのでレベルアップをしてくれたのだった。
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もちろんその合間のバイオリンのレッスンは超一流人の複数の演奏家からのダメ出しとオリヴィエをはじめとする世界レベルのバイオリニストの指摘に何度も泣きながらの練習となった。
もちろん稔典にとってもバイオリンの練習は常に涙ながら、講師のご機嫌を伺いながら気まぐれに付き合っていた。もちろん遅刻でもしようとすればレッスンは受けられずにレッスン料だけ取られるというひどい話。だけど有名音大を出てコンクールにも優秀な成績を収めた人だからと何度止めたいと言ってもきき入れてもらえず、向こうも山下の肩書だけが欲しいだけの理由で三歳から始めたバイオリンのレッスンはチョリに移るまで一回二万円のレッスン料をぼったくられていた。いや、気まぐれだけどちゃんとレッスンはしてくれていたらしい。その証拠にそれなりのレベルにはなっていて、ちゃんと国内のジュニアの大会でも賞をもらったのが努力の証だろう。
稔典の環境も心配したけど二、三教えただけでちゃんと修正のある事から伸びしろはまだまだあると見抜いてチョリが引き取りマイヤー達によって何とかした所、新しい環境の中では教師陣も満足の腕を披露できて楽しい学生生活が送れているのだから結果オーライだ。
年三回の長期休暇には日本に帰らずフランスの城に行くようにと言い含めてある。
母親のカウンセリングは始まっているようだが、とりあえず子供と会わないという方針から始めるという。会えばスイッチが入ってまた半狂乱になるかもしれないからとの事。
これが教育ママの慣れの果てかと教育に一切手をかけてもらったことのない俺でもこれはこれで怖いなと少しだけ身震いをしながら
「飯田さん、ただいまー」
「綾人さんお帰りなさい。では早速ですが行きましょうか」
「よろしくお願いしまーす」
爺さんの家からタクシーを向けた先は飯田さんの家。これから山の家に向かう道のりは飯田さんが送ってくれると言うので甘えさせてもらう事にする。
相変わらずの大量のお土産をカバンに詰めての帰宅を楽しみにしている凛ちゃんやもう少しして帰ってくるだろう陸斗達の喜ぶ顔を思い出しながら
「皆さんお元気でしたか?」
「マイヤーもオリオールもあと十年は現役でいられるよ」
「生涯現役、それは何より」
山ほどの土産話は止まることなく、そして余命宣告された爺さんもまだまだ当分頑張りそうだと今回が最後の挨拶になるかと思っていたけどまだ会えるチャンスがありそうな事に今度は山の土産をたくさん持っていこうと心に決めた。
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