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一人、二人、そして 7

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「はわわわわ!綾人さんすごいですよ!
 このご自宅ほんとうに素敵な植栽で手を入れるのがもったいないですよ!」

 実桜さんはすでにお仕事スタイルでウキウキと庭を駆け回っていた。蒼さんも一緒に連れまわされてまるでデートのごとく腕を組んで歩いている様は一見微笑ましいが、どう見ても連行されているようにしか見えないのは俺の気のせいか。
 ちらりと圭斗を見ても何とも思ってないようなので気のせいかと思うも
「相変わらず蒼は尻に敷かれているな」
「それがちょうどいいってものだ。
 姉さん女房って言うのもあいつには合っている」
 かつてただ仕事をしていた無気力だったころの蒼さんを知る皆様方はこの変わりようを大歓迎している。
 実桜さんと出会ったことで仕事に力を入れて、結婚して、子供もできて、見知った土地を離れても子供のために安定した収入を得ることを選択したことは他の若者にも良い刺激になったらしい。
 率直に結婚ラッシュが続いたという意味だが、それでも家庭を持つ。仕事に気合が入る。素晴らしきコンボはどう見てもヤンキー崩れだった一行をまっとうな道に見事導いてくれた。まあ、古民家ばかり相手していればご依頼者は高齢の方が多く、多少イキった皆様では逆に微笑ましく見守られる様子にそのスタイルに意味を見出せなくなりだんだんおとなしくなっていくのは根っからの性格ゆえだろう。
 口調は荒っぽいのに作業はものすごく丁寧な所からわかるように、たぶん思春期時代に何かあってヤンキーになり、とりあえず得た仕事だけどそのままどうしようかと彷徨っている所を鉄二さんや長沢さんに躾されて今に至るという感じ。
 まあ、茶髪だったり昔ながらのガテン系スタイルは今となれば彼らのステイタス。体の一部だと思えばもう気にもする必要もない。
 まだまだ未知の世界があるもんだと言えば先生はバカ言ってないでと呆れていた。
 まあ、出会った頃より丸くなったなと思うのはカラフルだった頭も今では大体単色になっているから。
 娘に嫌がられたというのが理由らしい。
 ご愁傷さまと憐れみながら若手のボスの圭斗は外壁の補修に向かう事で皆さんと一度目視する為にぞろぞろと移動しながら実桜さんが整える樹形で落ちた枝を運び出していた。
 リクエスト通りあまり見た目は変えずに木の為に少し手入れする要望に実桜さんは本当なら強剪定した方がいいのですけどねと爺さんの要望がなければそうしたそうだったがそれはまたの機会にしようとなって壁に届いてしまっている枝を落としたり、隣の木にぶつかっている枝を落としたりしながら見た目は変えずに少しだけすっきりと仕上げてくれた。
それが大体一時間ぐらいのお仕事。
 早いなーと感心しながら壁回りが作業しやすくなった所で皆さん一気に壁の手入れを始めるのだった。
 まずは苔やカビを落とし、しつこいやつらはサンドペーパーでこすり落とす地道な作業。その後はアク止めのシーラーを塗って、下地を塗り、やっと仕上げの漆喰塗となる手順。
 先は長いように見えてもこの人海戦術によって二日間で終わらすという気合はこの屋敷をぐるりと囲む漆喰の壁が理由だろう。
 すでに俺が送った動画で配置も手順も確認済み。慣れた作業がものをいうけど問題は外側。田舎町とは違い車もよく通るから車との接触も気を付けなければならない。田舎とは違う車事情の危険に改めて田舎者な事を理解する。
 ちなみに今回は小さな子供も一人いるのだ。
 お庭の小さな池で暮らす鯉を眺めながら

「せんせー、おさかなさんかわいいね!」

 明日のお仕事が終われば夢の国経由で帰るご夫婦はかわいい一人娘を連れての参戦。俺はその間の子守を買う事になったのだが……
「お前に子守なんて一番信用がならん。子守側が子守するなんて出来る分けがない」
 ズバリと切り捨ててくれたその一言に心は大泣きだ。
 よって子供の扱いに慣れている先生と水野、植田コンビの三人でお相手をしていた。
 そして俺はと言うと

「吉野よ、ぼうっとしてないで話し相手になれ」

 戦力外通告をされた俺は爺さんの話し相手と言うお仕事を与えられた。
 いつもの客間は宮下と長沢さんに乗っ取られたので二階のリビングへと移動していた。
「ここから庭を見下ろす景色最高だなあ」
「妻のお気に入りだからな」
「確かに癖になりますね」
 残念な事に奥様とは違い俺は皆様の働く様子を見下ろしながらお茶を頂くというシチュエーションに大変満足している。
 もちろん爺さんもそれを察して呆れていたが、秘書の浅野さんがカバンを抱えてやって来た所でなんとなく察した。
「面倒な事ですね?」
「生前贈与に関する話だ。桜井ももう少ししたら来るからそれまでにアドバイスが欲しい」
 絶対面倒な懸案だ。
「好きなように分ければいいのに」
「息子達はそれでいいけど、孫達にはそうはいかんだろ」
「孫は法定相続ではないのでは?」
「せっかく遺言を作るのだから孫達にも残したいじゃないか」
 孫に甘い爺さんのようだ。
「ちなみに孫達の年齢は?」
「上が大学二年生で下は小学生までの三人」
「学費と結婚費用ぐらいを三人分用意すれば丁度よくね?」
「そうなると一番上の孫が損をする」
「じゃなくこの場合は一番下の孫だ。
 管理するのは両親だから最悪丸損だ」
 一瞬眉間を狭めるも、そこは顔の広い爺さん。こんな話を聞くのは初めてではないようでふむとうなってしまう。
「無難な所では?」
「一番下の小学生の子は何年生で?」
「今度六年生になる」
 となればだ。
「通帳を作って成人になった時に渡せばいいだけじゃん。
 十年以内だから凍結されないし。いくら渡すつもりかわからないけど税金は重くのしかかってくるだろうから先に問題も解決できるしね。
 お勧めとしてはさっさと生きているうちに渡してしまえばいい。それでも保護者が管理するから不安だけど、銀行に金庫を借りてそこに入れさせておけば親とて手を出せなくなる。代わりに使いまくるのは目に見えているけど」
「吉野はまだるっこしい事を考えるのう……」
「うちだって親族に資産を狙われないように最低限の防衛で銀行に金庫を借りている」
 最もそれさえ知られてないので問題はない。どうせあの時来た時は仏壇の前に長々いた所仏壇が怪しいって思っていたのだろうな。ジイちゃんもバアちゃんも大切なものは仏壇一択の人だったから……
 残念ながら俺はジイちゃんでもバアちゃんでもないのでサクッと銀行だよりにしてしまう。それがあの人達の一番の想定外だった事は死別した今では知る事がない綾人だったが今となればどうでもいい話だ。
 っていうか仏壇ってどれだけ信用度高いんだよと意味が分からなさすぎる先祖の信頼度だろうなという事にしている。
 ともあれだ。
「息子さんたちの手に渡らないように財産相続させたいのなら本人に自覚を持たせればいい。それでクズになろうがクソになろうが本人の選んだ道だ。爺さんが気にかける事じゃない」
「死んだら向こうでお前さんの両親と爺さんと婆さんと膝を詰めて話をしたいと思う」
 どうすればこんな子供が育ったのかと言う不審な目を向けてくる爺さんだがここで弁護士の見本、良心の塊のような桜井さんが来た事でいろいろと話し合って爺さんは成人まで預かってもらうという選択を選ぶのだった。



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