911 / 976
大変恐縮ではございますがお集まりいただきたく思います 9
しおりを挟む 高遠さんの朝ごはんと言うレアな朝食は笹鰈の干物に浅蜊の味噌汁、蕎麦猪口で作った茶碗蒸しとお漬物。このお漬物はどこからやって来たのだろうかと思えばなんと青山さんのお店で作ったものだという。
フレンチにお漬物……
どんな組み合わせのメニューなのかと思ったけど単に賄いに出す奴らしい。
「綾人君から頂いた野菜で漬けたお漬物だからね。
安心して。お漬物だけは飯田と青山には作らせないからね」
きりっとした顔は多分京都育ちで品の良い料亭出自の二人ならではの塩分薄めのお漬物を思い出してのものだろう。
俺もびっくりしたけど浅漬けってここまで浅いんだと塩分を探す味覚の俺が異常なのかと鉄分チャージを心掛けたほどだったけど、やっぱり高遠さんが言うのだから二人の感覚がおうちの味を求めすぎているだけだと思う事にしておいた。
味蕾の多い飯田さんだけならわかるけど青山さんもとなるとそれが慣れ親しんだ味という事で、一般的にはもうちょっと塩分ほしいと主張したい具合。
俺としては高遠さんによく二人から漬物の主権を取り上げたと褒め称えたい。
最後に飯田さんの至福の一杯を淹れてもらえば爺さんも満足げな顔。
「我が家で飯田の味を楽しめるとは贅沢だな」
茶碗蒸しは飯田さんが作ったのは俺でも分かった。
卵が賞味期限近かったから急遽作った感じだろうが美味しいものは美味しい。
幸せはこんな近くにあった事にほっと溜息を落とせばそれが極上の評価。皆さん満足げな顔で食事が終わった。
「それでは私は一度家に帰って寝てきますので」
失礼しますと深々と頭を下げて初めてのお宅のキッチンを使って満足したのか足取り軽く去っていく後姿を見送った。
長い塀に沿って曲がって去って言った後姿を見送れば
「俺、高遠さんとレストランでしかあった事ないけど、かなり個性的な人ですね」
「ああ、うん。そうかもね。
料理以外はほんとダメな奴だから。兄貴と言葉が無くっても会話ができる数少ないやつだから俺は別に苦にもならないけどね」
他は大変だけどと遠回しに言う青山さんの言葉に頷く飯田さん。
そういえば飯田さんもお父さんとは言葉がいらない風だったなと初めてうちに来てくれた日の夜に囲炉裏を囲んだ時を思い出せばあんな感じなのだろうと想像がついたもののそんな渋い光景をお母さんがぶち壊していく所まで思い出して一人苦笑していれば、何を思い出したのか理解した飯田さんと何があったのか察した青山さんは二人でそっと顔を背けるのを浅野さんは不思議な顔をして頭をかしげていた。
「さて綾人君。高遠も満足して帰ったから少し込み入った話をしましょうか」
「はい……」
こっちが本番かと少しだけ緊張感漂う空気に俺は爺さんを交えての懇談会を始めるのだった。
場所は床の間のある部屋、ではなくなんと茶室。
「密会するにはぴったりの場所的な?」
「本来の茶室の使い方ですよ」
いつの時代の?とまでは聞かないものの青山さんはまるでそこに茶器があるのを知っているかのように準備を始めた。
炭に火をつけてお湯を沸かし、その間俺達は青山さんによって選ばれた茶碗を眺めたり、飯田さんが即行で作ってくれた和菓子を青山さんがさりげなく活けてくれたお花を眺めながら頂いたりと一瞬にして青山さんの流れで場を整えて作られた空間の中、神経が研ぎ澄まされていく感覚になっていく。
爺さんは何も言わず、黒豆と道明寺が沈むように固められた寒天を一口大に切ってためた後
「これを何竿か用意してもらいたい」
「構いませんが贈答用にするには地味ですよ?」
「なに、儂が食べる分だ」
それはどうかと思うも
「お気に召していただければいくつか作り置きをしておきます」
「そうかそうか、飯田とは違って息子は話が分かるな」
「店でお出しするものではないので」
「なるほど、頑固なのは遺伝と言うわけか」
店でしかあった事がないからかと言う結論を導き出した爺さんは青山さんが差し出した茶を受け取って、景色を眺めた後一口だけ口につける。
「結構なお手前、と言う処だが年寄りには濃いな」
すっと頭を下げたまま
「甘い菓子も年寄りには毒になりましょう」
思わず天井を仰いで怖いよ、宮下助けてーと心の中で全力でヘルプと叫んでみるも返答は一切ない。当然だが今はタイミングよくスマホが騒いでほしいと願わずにはいられなかった。
いや、むしろ宮下ならこの空気を察して絶対近づいてこないかと助けを求めた相手が悪かったかと反省をしている合間に飯田さんから茶碗が回ってきて、ラストの俺は残りを全部飲むという使命があった。
正直こう言うのはバアちゃんに付き合わされて何度かやってみたものの良さはいまだに良くわからない。
フレンチにお漬物……
どんな組み合わせのメニューなのかと思ったけど単に賄いに出す奴らしい。
「綾人君から頂いた野菜で漬けたお漬物だからね。
安心して。お漬物だけは飯田と青山には作らせないからね」
きりっとした顔は多分京都育ちで品の良い料亭出自の二人ならではの塩分薄めのお漬物を思い出してのものだろう。
俺もびっくりしたけど浅漬けってここまで浅いんだと塩分を探す味覚の俺が異常なのかと鉄分チャージを心掛けたほどだったけど、やっぱり高遠さんが言うのだから二人の感覚がおうちの味を求めすぎているだけだと思う事にしておいた。
味蕾の多い飯田さんだけならわかるけど青山さんもとなるとそれが慣れ親しんだ味という事で、一般的にはもうちょっと塩分ほしいと主張したい具合。
俺としては高遠さんによく二人から漬物の主権を取り上げたと褒め称えたい。
最後に飯田さんの至福の一杯を淹れてもらえば爺さんも満足げな顔。
「我が家で飯田の味を楽しめるとは贅沢だな」
茶碗蒸しは飯田さんが作ったのは俺でも分かった。
卵が賞味期限近かったから急遽作った感じだろうが美味しいものは美味しい。
幸せはこんな近くにあった事にほっと溜息を落とせばそれが極上の評価。皆さん満足げな顔で食事が終わった。
「それでは私は一度家に帰って寝てきますので」
失礼しますと深々と頭を下げて初めてのお宅のキッチンを使って満足したのか足取り軽く去っていく後姿を見送った。
長い塀に沿って曲がって去って言った後姿を見送れば
「俺、高遠さんとレストランでしかあった事ないけど、かなり個性的な人ですね」
「ああ、うん。そうかもね。
料理以外はほんとダメな奴だから。兄貴と言葉が無くっても会話ができる数少ないやつだから俺は別に苦にもならないけどね」
他は大変だけどと遠回しに言う青山さんの言葉に頷く飯田さん。
そういえば飯田さんもお父さんとは言葉がいらない風だったなと初めてうちに来てくれた日の夜に囲炉裏を囲んだ時を思い出せばあんな感じなのだろうと想像がついたもののそんな渋い光景をお母さんがぶち壊していく所まで思い出して一人苦笑していれば、何を思い出したのか理解した飯田さんと何があったのか察した青山さんは二人でそっと顔を背けるのを浅野さんは不思議な顔をして頭をかしげていた。
「さて綾人君。高遠も満足して帰ったから少し込み入った話をしましょうか」
「はい……」
こっちが本番かと少しだけ緊張感漂う空気に俺は爺さんを交えての懇談会を始めるのだった。
場所は床の間のある部屋、ではなくなんと茶室。
「密会するにはぴったりの場所的な?」
「本来の茶室の使い方ですよ」
いつの時代の?とまでは聞かないものの青山さんはまるでそこに茶器があるのを知っているかのように準備を始めた。
炭に火をつけてお湯を沸かし、その間俺達は青山さんによって選ばれた茶碗を眺めたり、飯田さんが即行で作ってくれた和菓子を青山さんがさりげなく活けてくれたお花を眺めながら頂いたりと一瞬にして青山さんの流れで場を整えて作られた空間の中、神経が研ぎ澄まされていく感覚になっていく。
爺さんは何も言わず、黒豆と道明寺が沈むように固められた寒天を一口大に切ってためた後
「これを何竿か用意してもらいたい」
「構いませんが贈答用にするには地味ですよ?」
「なに、儂が食べる分だ」
それはどうかと思うも
「お気に召していただければいくつか作り置きをしておきます」
「そうかそうか、飯田とは違って息子は話が分かるな」
「店でお出しするものではないので」
「なるほど、頑固なのは遺伝と言うわけか」
店でしかあった事がないからかと言う結論を導き出した爺さんは青山さんが差し出した茶を受け取って、景色を眺めた後一口だけ口につける。
「結構なお手前、と言う処だが年寄りには濃いな」
すっと頭を下げたまま
「甘い菓子も年寄りには毒になりましょう」
思わず天井を仰いで怖いよ、宮下助けてーと心の中で全力でヘルプと叫んでみるも返答は一切ない。当然だが今はタイミングよくスマホが騒いでほしいと願わずにはいられなかった。
いや、むしろ宮下ならこの空気を察して絶対近づいてこないかと助けを求めた相手が悪かったかと反省をしている合間に飯田さんから茶碗が回ってきて、ラストの俺は残りを全部飲むという使命があった。
正直こう言うのはバアちゃんに付き合わされて何度かやってみたものの良さはいまだに良くわからない。
126
お気に入りに追加
2,670
あなたにおすすめの小説
裏路地古民家カフェでまったりしたい
雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。
高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。
あれ?
俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか?
え?あまい?
は?コーヒー不味い?
インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。
はい?!修行いって来い???
しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?!
その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。
第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!
家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!
雪那 由多
ライト文芸
恋人に振られて独立を決心!
尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!
庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。
さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!
そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!
古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。
見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!
見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート!
****************************************************************
第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました!
沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました!
****************************************************************
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる