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大変恐縮ではございますがお集まりいただきたく思います 5
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爺さんと植草さんが部屋から出て行ったところで俺は時計を見てから圭斗に電話を掛けた。
今日はちょっと良い御宅の手入れに行っている。
そこにはなるべく工期を早く終わらせてほしいという理由でいろんな人達が揃っていたはずだ。
通話にしたけどやっぱりと言うように一度切って動画で掛けなおせば先に呼び出していたおかげですんなり繋がった。
「よお、そっちは皆さん元気か?」
「綾人か?まだ東京にいるのか?」
休憩の途中かワイワイとにぎやかな笑い声と宮下がちょろちょろと動き回って皆さんにしっかり水分を取らせている背景があった。
穏やかで和やかな空気が画面越しに伝わってよろしいと自然に笑みが浮かび上がる。
「まあね。そこでさ、みんなに体が空いたらちょっと仕事お願いしたいのだけど見てもらえるかな?」
「来たな……」
ものすごく警戒してくださった圭斗に思わず笑ってしまえば周囲もそれに察してスマホを覗くように集まってきて
「知り合いの爺さんの家なんだけど、東京でこんな庭を持つ人でさ」
言いながら目の前の床の間を写したり欄間を写したり、漆喰の壁に囲まれた庭を写したりすれば圭斗や内田さん、井上さんなんかはいい家じゃないかと驚きながらもどこに補修する場所があるのかと言うように首をかしげる中一人挙動不審の人がいた。
「なあ、綾人君。その家は木下様、と言う方のお宅では……」
恐る恐ると言うように山川さんが訪ねてきた。
「ひょっとして知ってるーとか?
ちょうどよかった。おうちの手入れをしたいからみんなできてよー」
「知ってるも何も、庭の漆喰や茶室の土壁も俺が塗ったんだから
塗ったと言っても塗りなおしをさせていただいただけだが……
って、いまみんなできてって言わなかった?」
「あ、今回もそんな感じで。どうしても道路側が黒くなるし、植木があるからカビや苔がひどいし。建物の中も一部浮いている所とかあるから。茶室もずいぶん使ってないから手を入れてほしいし。出来れば来ていただけると大変助かります」
我が儘を言えばアクも出てきているから何とかしてほしい。贅沢かもしれないが奇麗にするならそれくらい手を入れたいというもの。
「雨漏りとか水回りは問題ないけど、植木は大きく変えたくはないけどメンテナンスは必要だから実桜さんに来てもらいたいし」
「私ですか?かまいませんが見た限り専属でお庭をお世話している庭師の方がいるのではないでしょうか?」
そこに口出ししていいものかという言葉に
「花壇とかは持ち主の奥様が手入れしていたらしい。ただもう亡くなられたからどこかの庭師にお願いしていると思うが、そこは聞いておく。まあ、一度見てみて損はない庭だから見においでよ」
「確かに素敵なこだわりのあるお庭ですものね。お勉強に一度お邪魔してみたいです」
にこにこと笑えばじゃあ実桜さんは東京行き決定だな。だったら蒼と凛ちゃんも一緒に行って夢の国まで足を延ばすと良いなんて盛り上がる。
こうやって出てくる時についでに出かけてくればと言うのはフランスで体験している。
あの時は凛ちゃんがまだ小さかったから夫婦でのお出かけで実桜さんの化けっぷりに誰もが驚いた。
それぐらいの衝撃はもはや別人レベル。
先日も宮下と香奈の結婚式の時にお手伝いの邪魔にならないように、だけどそれなりに奇麗なワンピースを凛ちゃんと似たような色合いでそろえてきた姿も普段の木によじ登る姿を思えば十分別人に皆さん一瞬誰と言うように固まっていたのは俺たちの驚きを共有出来て何よりと言うところだ。
あれを見れば兄貴とは言わせないぞという母子ペアルックに父親は花嫁花婿そっちのけで写真を撮りまくっていたのは仕方がないだろう。
皆さん微笑ましく凛ちゃんによかったなと今は圭斗の事務所で香奈と留守番している凛ちゃんを思って仏のような顔をしている中で山川さんはさりげなく忘れかけている話を引き戻してくれた。
「ところで綾人君が木下様のご自宅にいるというのは良しとして、なんでそのお屋敷の手入れをしようとしたのか聞いてもいいかな?」
もはや半泣きの様子を見て誰もが俺の行動を思い出し、悟り、気づいてしまった。
「綾人、また買ったのか?」
「買ったと言えば買いました。だけど俺が住むのではなく半分ボランティアと言うか、半分保護活動と言うか、好奇心と言うか、縁と言うか、どうとでもなる建物にするのがもったいないというべきか」
爺さんの願いと言うことは言わない。
俺が決断して俺が望んだ。ちょうどよく爺さんと交渉の場があったというだけの話し。
そこはみんなには気にしてほしくない。
ただ、なんとなくこの雰囲気に小さくなってしまう。
怒られる、なんて警戒していれば
「また無駄遣いしやがって……」
「いや、決して無駄遣いじゃなく……」
当然だけど圭斗さんがオコでした。
これが初めてじゃないけどと視線をさまよませてしまう。
「お前、体は一つなのに何件家を持てば気が済むんだ……」
「ここは別に俺が住むつもりじゃなくって、ちょっとの間旅館としてこの屋敷の維持をしたいかなーって?」
「「「旅館……」」」
思いっきり不審なものを見る目で見られてしまった。
解せぬ。
*****************************
PCを変えたら予想通り慣れないよー
今日はちょっと良い御宅の手入れに行っている。
そこにはなるべく工期を早く終わらせてほしいという理由でいろんな人達が揃っていたはずだ。
通話にしたけどやっぱりと言うように一度切って動画で掛けなおせば先に呼び出していたおかげですんなり繋がった。
「よお、そっちは皆さん元気か?」
「綾人か?まだ東京にいるのか?」
休憩の途中かワイワイとにぎやかな笑い声と宮下がちょろちょろと動き回って皆さんにしっかり水分を取らせている背景があった。
穏やかで和やかな空気が画面越しに伝わってよろしいと自然に笑みが浮かび上がる。
「まあね。そこでさ、みんなに体が空いたらちょっと仕事お願いしたいのだけど見てもらえるかな?」
「来たな……」
ものすごく警戒してくださった圭斗に思わず笑ってしまえば周囲もそれに察してスマホを覗くように集まってきて
「知り合いの爺さんの家なんだけど、東京でこんな庭を持つ人でさ」
言いながら目の前の床の間を写したり欄間を写したり、漆喰の壁に囲まれた庭を写したりすれば圭斗や内田さん、井上さんなんかはいい家じゃないかと驚きながらもどこに補修する場所があるのかと言うように首をかしげる中一人挙動不審の人がいた。
「なあ、綾人君。その家は木下様、と言う方のお宅では……」
恐る恐ると言うように山川さんが訪ねてきた。
「ひょっとして知ってるーとか?
ちょうどよかった。おうちの手入れをしたいからみんなできてよー」
「知ってるも何も、庭の漆喰や茶室の土壁も俺が塗ったんだから
塗ったと言っても塗りなおしをさせていただいただけだが……
って、いまみんなできてって言わなかった?」
「あ、今回もそんな感じで。どうしても道路側が黒くなるし、植木があるからカビや苔がひどいし。建物の中も一部浮いている所とかあるから。茶室もずいぶん使ってないから手を入れてほしいし。出来れば来ていただけると大変助かります」
我が儘を言えばアクも出てきているから何とかしてほしい。贅沢かもしれないが奇麗にするならそれくらい手を入れたいというもの。
「雨漏りとか水回りは問題ないけど、植木は大きく変えたくはないけどメンテナンスは必要だから実桜さんに来てもらいたいし」
「私ですか?かまいませんが見た限り専属でお庭をお世話している庭師の方がいるのではないでしょうか?」
そこに口出ししていいものかという言葉に
「花壇とかは持ち主の奥様が手入れしていたらしい。ただもう亡くなられたからどこかの庭師にお願いしていると思うが、そこは聞いておく。まあ、一度見てみて損はない庭だから見においでよ」
「確かに素敵なこだわりのあるお庭ですものね。お勉強に一度お邪魔してみたいです」
にこにこと笑えばじゃあ実桜さんは東京行き決定だな。だったら蒼と凛ちゃんも一緒に行って夢の国まで足を延ばすと良いなんて盛り上がる。
こうやって出てくる時についでに出かけてくればと言うのはフランスで体験している。
あの時は凛ちゃんがまだ小さかったから夫婦でのお出かけで実桜さんの化けっぷりに誰もが驚いた。
それぐらいの衝撃はもはや別人レベル。
先日も宮下と香奈の結婚式の時にお手伝いの邪魔にならないように、だけどそれなりに奇麗なワンピースを凛ちゃんと似たような色合いでそろえてきた姿も普段の木によじ登る姿を思えば十分別人に皆さん一瞬誰と言うように固まっていたのは俺たちの驚きを共有出来て何よりと言うところだ。
あれを見れば兄貴とは言わせないぞという母子ペアルックに父親は花嫁花婿そっちのけで写真を撮りまくっていたのは仕方がないだろう。
皆さん微笑ましく凛ちゃんによかったなと今は圭斗の事務所で香奈と留守番している凛ちゃんを思って仏のような顔をしている中で山川さんはさりげなく忘れかけている話を引き戻してくれた。
「ところで綾人君が木下様のご自宅にいるというのは良しとして、なんでそのお屋敷の手入れをしようとしたのか聞いてもいいかな?」
もはや半泣きの様子を見て誰もが俺の行動を思い出し、悟り、気づいてしまった。
「綾人、また買ったのか?」
「買ったと言えば買いました。だけど俺が住むのではなく半分ボランティアと言うか、半分保護活動と言うか、好奇心と言うか、縁と言うか、どうとでもなる建物にするのがもったいないというべきか」
爺さんの願いと言うことは言わない。
俺が決断して俺が望んだ。ちょうどよく爺さんと交渉の場があったというだけの話し。
そこはみんなには気にしてほしくない。
ただ、なんとなくこの雰囲気に小さくなってしまう。
怒られる、なんて警戒していれば
「また無駄遣いしやがって……」
「いや、決して無駄遣いじゃなく……」
当然だけど圭斗さんがオコでした。
これが初めてじゃないけどと視線をさまよませてしまう。
「お前、体は一つなのに何件家を持てば気が済むんだ……」
「ここは別に俺が住むつもりじゃなくって、ちょっとの間旅館としてこの屋敷の維持をしたいかなーって?」
「「「旅館……」」」
思いっきり不審なものを見る目で見られてしまった。
解せぬ。
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PCを変えたら予想通り慣れないよー
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