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気合を入れてまずは一歩 4

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 家作りの事で俺がやれる事はほとんどない。
 寧ろ『資材の無駄遣いをするつもりなら手さないでね』とオブラートに怒られるのは毎度の事。
「薪割なら負けないんだけどな……」
 それを言ったら圭斗が家を解体する時に手伝えとおっしゃって下さった。
 まあ、手伝っていいのなら手伝うけどそうすると今度は微妙に過保護な長沢さん達が危ないから離れてろと俺を現場から遠ざけて下さる。
 俺はガキか……
 まあ、長沢さんから見たらまだまだお子様かもしれないが、そんなに危険な場所から遠ざけたいのなら別の危険な場所に飛び込むまで。

「よう、香奈。花嫁衣装はそろそろできたか?」

 長沢さんのご自宅に伺えばそこには長沢さんの奥さんと香奈、そして鉄治さんの奥様が三人で深刻な顔をしていた。
 この三人の組み合わせに一瞬顔を引き攣りそうになったが
「吉野さんいらっしゃい。
 今お茶を淹れますね」
 長沢さんの奥さん、みち子さんはすぐに席を立ってお茶を淹れてくれたけど香奈の沈んだ表情に不安を覚える。
「香奈ちゃん、そんなに落ち込まないで私達も少し休憩しましょう?」
 そして鉄治さんの奥さんの良恵さんの気遣いにどうしてこうなったときっとぎすぎすした空気を察していただけに一体どうなってると思った物の総ては香奈の手が物語っていた。

 幾つもの絆創膏を貼られた指に聞くまでもなく納得した。

 「美園屋さんでおまんじゅう買って来たから一緒に食べようか」
  女性の場所なので手ぶらでは来れないからと気軽に食べれるおまんじゅうを幾つか見繕って来たのが早速役に立った。
 これ以上と無く落ち込んでしょぼんとする香奈とは別にみち子さんと良恵さんはにこにこと嬉しそうな顔をしてこの場の雰囲気を誤魔化そうといたけど言わずにはいられない。
「血まみれの花嫁衣装何て笑えないぞ」
「そこは大丈夫!まだ花嫁衣装にたどり着いてないんだから!」
「いや、それこそ大問題じゃね?」
「ううう、綾人さんが酷い……」
 なんて言うも酷いのは致命的な香奈の裁縫技術だ。
 何とか誤魔化そうとした物のフォローのできないみち子さんと良恵さんは微妙な笑顔で俺をなだめるように言う。
「今までお裁縫した事ないのだから仕方がないわよ」
「そうよ。それでも一生懸命作ろうって頑張ってるんだから偉いわよ」
 慰めてもらったのが嬉しいのか情けないのかくすんと鼻をすする音を聞いて俺はすぐ側にあったティッシュを香奈の側に置いてやった。
「てかさ、そんな致命的な裁縫技術で良く着物を縫うなんて発想出来たな」
「小中学校でお裁縫は習ったわよ!まあ、辛うじて出来た程度だけど、大人になったんだし何とかなると思ったのよ!」
「楽観的希望すぎるな」
 大人になったから何とかなるって何なんだよと溜息を零してしまえば、当人も判っていてか俯いてしまった。
「今ね、お裁縫を教えている所なの。裁断は着物屋さんの方でお願いしたから後は縫うだけになってるんだけどね……」
 ほう…… と溜息零す理由は美園屋さんのおまんじゅうを食べてゆっくりお茶を飲んだ最強コンボからの満足げなもの。とても幸せそうで何よりです良恵さんと手土産が間違ってなかった事にホッとしていれば
「針を持つ手も怪しかったから雑巾を縫わせてみたら案の定って言うか……
 だから縫い物上手な良恵ちゃんにお願いしたんだけど」
 と言って見せてくれたのは赤い物が点々と残る雑巾。
 ナニコレ。
 何の呪いの品ですか……
 俺でももっとまともに縫えるぞという主張すら黙らせる一品に油が切れたブリキの人形のように良恵さんに本当に大丈夫なのかと視線を向ければ
「ごめんなさいね。これほど苦戦するとは思わなくて……」
 篠田とのわだかまりを忘れるほどの香奈の絶望的なまでの不出来さに何と言っていいのかわからない顔をしていた。
「大丈夫です。翔ちゃんだって冬の間ずっと一生懸命家を建ててくれたんだから、私だってがんばれます」
 そんな強い意志を超えた頑固な所は高校の時に勉強を教えていた姿が重なった。
 『圭ちゃんにこれ以上迷惑かけれないから』『私が頑張らないと陸を助けてあげれないから』 
 何て常に追い立てられるような必死さを抱えていた姿を思い出してしまう。
 これが良いのか何て俺が判断するのもあれだが
「だけど宮下だって香奈が頑張るって言う気持ちが嬉しいんであって、追い詰められてまで衣装を用意するのは本望じゃないだろ」
 言えば良恵さん達もそうだと頷いてくれた。
「だけど、この花嫁衣装の反物ってものすごく高くって、色打掛も私が素敵って呟いちゃったからお値段なんて見ないままものすごく高いのに私を喜ばす為にポンって買っちゃって」
 まるが幾つあったか数えれなかったと涙目の香奈に良恵さんに
「そんないい物なのですか?」
 何て問えば
「相談して持ち込んだ着物屋さんもびっくりのお品らしいわよ。高級国産車が買えるぐらいって言われたわ」
「うん。奮発したな……」
 一度あいつの財布握っておかないとなと思うもそれほどなら一括で買えるくらいの蓄えはある。むしろよくぞ憧れの物を用意できたと誉める所だろうが……
「身の丈に合わないよ……」
 逆にプレッシャーになっているとは宮下はきっと気付いてないのだろう。
『香奈ちゃんによく似合ってるよ』
 何てにこにこと言われて差し出されたら香何も言えない香奈の様子が目に浮かんだ。
 そうじゃないだろと言いたい物の
「宮下は一生懸命香奈に喜んでもらいたいだけだ。
 好きな子を喜ばせたい、その気持ちはわかるだろ?」
「うん。凄く嬉しかったよ」
 あの人のいい笑顔で言われたら浮かれるなと言うのも納得できるがその浮かれた気持ちを一蹴出来る言葉を俺は知っている。
「香奈はこれからそんな宮下の金銭感覚を修正しないといけないんだ。
 欲しいからって何でもポンポン与えるような感覚を持った以上これからもこう言った事はあるだろ」
 驚きに顔を赤らめてからの急に真っ青にした。
「嘘でしょ?待って、翔ちゃんは綾人さんと違ってそんな無駄使いなんてしない……よね?」
 さりげなくディスられた。でも負けないんだから。くすん。



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