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気合を入れてまずは一歩 1

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「いや、早くできるとは聞いていたけどなんか早くね?」
 ゴールデンウィークの前半に屋根の張替をする事になった。
 有り難い事に垂木の部分やはりの部分はお客様の割には痛みもなく交換の必要がないと相変らずうちの山の木は良い物だなと感心しながら野地板の交換をしてルーフィングの張替えをしてガルバニウムを貼ると言う。
 既に前日までに瓦を下ろしてブルーシートを張っていたので朝は既に合流する頃には一足早く園芸部と蒼さんが外して直ぐに準備ができるようにと張り切っていた。
「春になったら工事するとか言ってなかった?」
 胸を張ってここまでもうできたんだと嬉しそうな報告をする宮下と並んで屋根をべりべりと剥がして野地板をバンバン貼りかえて行く流れ作業の無駄のない美しさを眺めながらも俺の感想。
「ちゃんとお仕事したし。空いた時間にコツコツ進めてみただけだし……」
 やりすぎた事は判っていたのだろう。
 とは言え香奈の為に新しいシステムキッチン、ユニットバス、水洗のトイレ、室内干しのスペース確保、更にベットルームがあるのに四畳ほどの個室も用意するサービスぶり。
「ほら、俺は仕事場が近いから……」
 何かあった時のプライベートな場所は確保してあるからと香奈にも用意したのだろう。
「まぁ、人の家庭それぞれだけど」
 二階にはちゃんと子供部屋も用意してある。当面は客間で決定だがこの飲んだくれ集団相手が二階に足を運べるかどうかなんて無理に決まってる。
「だけど家具とかはまだだから」
「ちゃんと香奈の意見を取り入れてやれよ」
「うん。この間材木屋に行っていい感じの一枚板を買ったんだ。
 今作業場の方で加工してる所」
「あー、燈火の家の一枚板の机を惚れ込んだか」
「ちゃんと綺麗な木目の奴をね。モヤモヤしたのも味があって悪くないけど、香奈ちゃんが選んだ奴だから俺に文句はないよ」
「香奈の奴値段で選ばなかったか?」
「ちゃんと圭斗にもついて来て貰ってそこは怒ってくれたよ。一生モノを値切るなって」
「さすが」
 こう言う所はしっかりしてると思うもやっぱり一期一会の世界で一つだけの物。
 年に一度決算して折半している明細を見せても数字が怖いと言ってろくに目を通さない宮下はここぞとばかり出し惜しみなく香奈との結婚に向けて使う気満々なので多少値が張ってもきっちりと良い物を圭斗に買わされた。
 圭斗はそこに拘りはないからとは言うが、自慢じゃないが圭斗の事務所の圭斗のデスクの俺が持って来た板。爺ちゃんのコレクションの方が断然良い物だから目が肥えて拘りはないと言う所だろう。
 心の中でドヤ顔をしてしまう。
「置いて行った桐ダンスが良い物だからって長沢さんが分解して綺麗にしてくれるって言うし」
「そういやお前燈火の所の家具めっちゃくそノリノリで仕立て直してたな」
「うん。新しいのも良いけどね。なんて言うかすごく頑固おやじみたいで、なかなか手ごわいんだけどさ、ある時から突然素直になってくれるって言うか。
 長沢さんもだからやりがいがあるだろうって言ってくれてね。
 すごくやりがいがあるって言うかさ」
 もじもじと言葉を探すように俯いてギュッと手を握りしめてしまう癖を見て、意地悪何てするつもりがないので言えない言葉を伝えてやる。
「ほんと天職に出会えてよかったな」
 言えばぱあ!と輝く瞳で
「うん!綾人が繋いでくれた縁なんだよ!」
 うへへへへ……と気持ち悪い笑い声で照れる宮下に俺も妙に恥ずかしくなって同じようにうへへへへ……と笑い返す。
「うわっ、綾人キモい笑い方!」
「しょーちゃんとお揃いにしてみましたー」
 俺は悪くないもんと言うような主張。
 だけど何となく二人で笑いあいながら

「俺も少しだけやりたい事見つかったかも」

 遠くの景色を見るように視線を投げれば

「何言ってるの。綾人っていつもやりたい事やってるくせに」

 真顔で言われるのも何なんだなーと思いつつもだ。
「仕方ないだろ。ずっとやりたい事、できる事、続けたい事を手探りで模索してきたんだから」
 ぶーってふてくされれば
「じゃあ、綾人は何やりたいのさ」
 そんな宮下のこれ以上何をやりたい事あるのかと言う不思議そうな視線に
「まぁ、やる事は多分今と変わらん」
「なにそれー!」
 からからと笑う宮下は
「それじゃあ、俺達はこれからも苦労するって事?!」

「当然だ!
 宮下やみんな込みでの俺のやりたい事なんだからな!」

 きっと自分込みとは考えてなかった宮下は目をこれでもかというくらい大きく見張り、それから照れた様に目を細め
「もう、そんなこと言って喜ばしたって、これ以上甘やかさないんだからね!」
「安心しろ。甘えれる事が出来ないくらいこき使うから覚悟しろよ」
「えー?!」
 これ以上俺に振り回されないと言う意気込みなのだろうが、そうは問屋が卸さない。  
「むしろ宮下達が居ての企画だ。頼りにしてるぞ相棒」
「頼りにされたくない相棒」 
 なにを想像してか目尻に涙を溜めながら逃げようとする中
「何を遊んでる。みんな一生懸命に働いてるのに」
 なぜかのこぎりを片手に先生がやって来た。
「ん?これからの方針と俺の長い冬休みが終わらせて本気を出そうかと思ってね」
「……。
 宮下、何があった……」
「よく判らないけど綾人が本気出す宣言してきた」
「何だそれ。あいつ今までずっと冬休みってどれだけ人生冬眠しっぱなしなんだ?
 先生の冬休みは受験に向けていつも佳境だぞ」
「サイテーだ。受験生のメンタルを楽しんでんじゃねーぞ」
「先生、そこ?」
 宮下が意味わからないと頭を抱えるけど意味を理解してるとはいつも思ってないのでそこはスルー。宮下の直感力を信じてるぞと願いながら
「先生もバカなこと言わない。
 まあ、何と言うか……
 ジイちゃんが残してくれた土地とか家とかいろいろあるだろ?あれを再生してまた誰かに大切に住んでもらえる家にして生き返らせたい…… とか?」
「とかじゃないだろ……」
 圭斗も顔を引き攣らせてやってきた。
「ったく、珍しく大人しくしてるって思えば暴れる気満々とかありえんだろ……」
「いや、それはまた別の話し」
「「「……」」」
 思わずと言う様に黙ってしまった三人に言うのはまだ早かったかと思えば
「じゃあ、俺お役に立てなさそうだから三日月行ってくるわ」
 綺麗な笑顔を残してみたけどこの三人には通用するわけもなく
「草取りしろ!」
「畑耕して来い!」
「荷物運びぐらいできるだろ!」
 三人に逃げるなと言われてしっかりと掴まって畑に引きずられる俺をこの様子を見守っていた皆さんも
「綾人さんてつだってー」
「綾人さんちょっと上まで資材上げてくださーい」
 何て援護射撃。
 酷いと泣きそうになりつつもきっちりこなせる俺の謎のハイスペック……
 
「俺人を顎で使う側に人間になりたいのにー!」

 虚しく響く本音に皆さんは世の中甘くないと言う様に笑ってくれた。 





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