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春が来る前にできる事 10

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 香奈と一緒に陸斗や園田、植田達も一緒に帰る事となり、駅まで見送りに行って戻ったら現場は緊張に包まれていた。
 幾つものジャッキをセットして今から家を持ち上げようと準備を終えた所だった。
 俺の離れのリフォームの様子を動画で直して以来こう言った依頼が多くなったと言う。なので圭斗は動画収入で得たお金を使って投資をした。
 機械を使って幾つもの油圧ポンプを遠隔操作できる機械の購入。
 圭斗にしては思い切った出費だな、レンタルすればいいのにと俺は思ったが
「雨の日などで延期になると手間が増える、だったら思い切って購入すればいい」
と、少しだけ顔を青ざめて決断したのは俺がイギリスに行く前の事。
 おかげでなんだかんだと言って活躍していると言う。
 それが強みになって良かったとは思うが、活用頻度から言うとどれだけ使えば元は取れるかは計算しない。
 本人が満足しているからまあいいか、そう言う事にして置いた。
 俺と宮下が戻った所で最終確認が終わったのか皆建物から離れてゆっくりとジャッキアップされる家を見上げる。
 何度見ても
「家が持ち上がるってなんだか不思議だな」
「そうだよね。俺も何度見ても不思議に思うもん」
 同じ職場で一緒に仕事をする仲間でさえそう思うらしい。
 ゆっくりと上がって行き基礎から剥がれて安定した所で一気に作業が始まる。
 割れた束の交換、先週既に浩太さんが手を入れてくれた場所の修復確認、幾つものやる事があって、ゆっくりと家が元通りになる頃には随分な時間が過ぎていた。
 ゆっくり息を吐きだしてジャッキが無事取り外されるのを見守った所でこれからが本番。
「傷んだ場所の交換をするぞ」
  鉄治さんの一声に腐った部分の柱を切り取ってどんどん交換していく。
「うん。見覚えある光景だ」
「そりゃあ、綾人君の家の離れを直した時と同じ行程だからな」
 森下さんが楽しそうに笑っていた。
「うん。あれから十年ちょっとで行程が変わったら大進化だ」
「胸にけがをした綾人君を見てびっくりしてから十年経って、随分と経ったものだ。
 噂に尾ひれがついた話しだけど吉野の家はヤバいって聞いた事があったけど本当だったって当時の俺はあの怪我を見て凄くびびってんだ」
 懐かしそうに目を細めながら作業工程の監督をする森下さん確かと頷きながらそっと少しだけ薄くなった胸の傷口に手を当てて名前を呼ばれて駆けだした森下さんの背中を眺めた。
 森下さんが少し忙しくなったようであまり指示を飛ばす人も居ないのに皆てきぱきと各自の仕事をして行き、圭斗が声を上げて確認を一つ一つとって行く。こういう時は根っからの兄貴肌の面倒見の良い圭斗がたよりになる。たとえ会得している資格がそこまで強い物ではなくてもはっきりと声をあげれるメンタル面で信頼を勝ち取って来た証拠だろう。
 俺は手伝う事が出来ないので、と言うか寧ろ触るな。材料の無駄遣いをするなと押しとどめられた腹いせに畑とはまだ言い難い場所で畝を作って山で見つけた山菜などを移植してたっぷりと水を与えておく。無事根付きますようにと願いながら茗荷を埋めていく。
 別に地下茎だからこんな土が柔らかい場所に埋めたら春になる頃蔓延って家が建つ頃には美味しそうな目が至る所に芽吹いて居るだろうななんて思ってないからねと、日当たりの悪い場所を占領してこの先どうなるか少し楽しみにしてみた。皆さん真似しないようにと誰に言うわけでもなく笑っておくも結果を言えば宮下に見つかって食べ放題だって刈りつくされたのは言うまでもないもう少し未来の話し。
 やがて暗くなりだした頃みんな作業の手を止めて引き揚げてきた。
「まぁ、二日間の結果にしてみればいいんじゃないかな?」
 浩太さんが小ざっぱりした家を見上げて浩志を俺の反対側に置いて見上げていた。
「ですね。やっぱり母数が多いと仕事も早いっすね」
「人の手が多ければそれだけマルチタクスが完成するから色々な所で手直しが出来るのは十分なタイムパフォーマンスになったよ」
「無理して横文字使わなくっても良いですよ」
「うん。こう言うの使わないとどんどんおいて行かれるから聞き流していいよ」
 少しだけ恥かしそうに顔を赤らめる浩太さんだが
「だけどここまでスムーズに仕事が進んだのは浩志がずっとこの家の残り物を一人で処分してくれてたからだ。
 要る物要らない物、浩志の目線で仕分けてもらってたけどそれでも処分しやすいように纏めてくれていたからスムーズに半日で済んだ。 
 ありがとう」
 浩太さんの言葉に宮下がこの家を選んでからたった一週間の出来事。浩志は会一人でこの家を片付け続けていたと言う。
「いえ、宮下さん達も時々来てくれてゴミを処分してくれたからスムーズに片付けが出来たんです」
 俺が引き取るまでにいろいろな事がありすぎて有能な家畜に成り下がって磨かれたスキルは万能すぎて居た堪れなくなって涙さえ誘う。
 だけど圭斗に預けてみんなと一緒に行動させて一つ一つ認めて感謝を述べれば少しだけ実力に見合った自信に満ちた顔をするようになった。
 とは言えまだまだ謙虚すぎる様子だが、それは俺の目の前だからだろうと思う事にして
「あまり無理するなよ?」
 気遣えばこの時ばかりは俺にもわかるぐらい嬉しそうな顔で
「はい」
 なんて、あんなことが起きる前の笑顔と重なる物を見た。
 思わず見た幻覚に手を伸ばして確認をしてしまう。 
 一瞬怯えた様に型を竦めるも、俺はそのまま頭をくしゃくしゃと撫でて
「もうすぐ正月だから、恒例の年越しを家でやるから圭斗に連れて来てもらえよ」
「ええと……」
 それは大丈夫なのか、俺が居ても良いのかというような怯えたような浩志の視線に
「まぁ、なんとなく攻略の糸口を見つけたような気がしたから。実験を兼ねて付き合え」
 そんな照れ隠し脳様な言い訳。
 見ていた先生が横でぷっと噴出して笑って居たけどそんなのは無視して
「悪いけど年末はお墓の掃除頼むな」
「はい。もう場所は覚えたので問題ないです」
 お寺の前の霜の付いたソフトクリームはお預けかと少しだけ寂しく思うも電子マネーなんて関係ない古い店の為にお花代を渡しているあいだに

「綾人ー、とりあえず基礎の部分は完ぺきに修復したから。これから休みの日とか時間を見てコツコツ手を入れて春には屋根を貼りかえれるってさ」
 いつの間にか皆さん仕事を終えていたようで麓の家で風呂に入るぞーと気合を入れていた。
 俺はあっという間に本当にここまでできてしまった工事を見ながら
「宮下、ほんと凄いよな」
「うん。ほんと凄いね」
 つい先週まで人が住むには想像もつかないほどにあれていた家が今はもう見違えるようなまでに輝いて見えた。
 外壁工事もしてないのだから錯覚だが、少し周囲を整理して、風を入れた家が呼吸を始めた、そんな様子に
「大切にしないとな」
「うん。一生に一度の買い物なんだから。俺達と一緒に大切に育てていくよ」
「育てていくのか?」
「うん、ごめん。なんかうまい言葉が見つからなくって」
 何て二人で失笑。
 だけどそれも良いなと、これから幾らでも自分で手を入れて行く事の出来る宮下に気持ちいい感情で嫉妬をしてみた。 
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