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春が来る前にできる事 8
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土間の床は何かと親切だった。
冷たい、固い、古臭い、そんな感想もポンポン口に出た事もあったが……
「地面痛いよー。石ごろごろの上で正座って虐待じゃねー?!寒いしぬかるんで冷たいどころか凍えて霜焼け、いや凍傷?になるー」
泥だらけになるけど先生の長いお説教から解放された俺は構わず足の先端に血液を送る様にごろごろと悶えるように転がっていた。
「綾っっちー、そっちに転がると斜面になってるから危ないよー」
園田の冷静な判断。冷静すぎて涙が出そうだ……
「その斜面の下の側溝は山水が流れてるから危ないよー」
そして上島弟の補足。お前も十分こいつらに染まってるなと涙所か鼻水も出てきたが
「せんせー、綾人じゃまだから風呂に入れさせてきてください」
「えー、先生のお仕事なの?」
「先生のお仕事です。もうすぐフランスに行くって言う予定なんだから風邪ひかせないでよ」
ただでさえ秋の訪問が体調不良で行けなくなったんだ。せめて年内に行きたいと思ったらこんな時期になってしまって……
「だな。先生とじゃれてる場合じゃなかった」
とすくっと立ち上がって
「悪い、風呂入って来るな」
「さっさと行って来い」
何て朝からお風呂と優雅な時間が決定した。
うきうきと麓の家の檜風呂へ向かえばきちんと朝のうちに掃除をしたのだろう檜風呂にお湯をはる。時間がかかるからとさっさと厚めのシャワーだけを浴びて泥を落しスウェットに着替えて待つ。
断熱材を使っているので今朝まで焚いていたストーブの暖かさに作業場の畳でまったりしていた。
因みに皆さん二階で雑魚寝はせずにこの畳の場所で雑魚寝をしたらしい。
なんて言うか
「これは爺さん達の修学旅行か?」
布団は二階に収納しているが階段はまっすぐなので階段を運ぶ際は布団を落せば問題ない。まあ、あの年齢の方達がそんな事をするとは思えないが。きちんと部屋の片隅に山になった布団を眺めながらストーブをつけて部屋を暖める。
大きな風呂を作ったのは良いがお湯が溜まるまで結構時間がかかる。
それは仕方がない。一般家庭用の水道管しか使ってないのでそんな物だ。
代わりに冷えないように特製の檜の板で蓋を作ってくれたが正直これがないとすぐ冷めてしまうそんなデメリットもあった。
だから温めたらみんな順番に入る。
いや、むしろ一緒に入りましょう!
それがテーマの大きなお風呂。
皆さん結構裸の付き合いはお好きなようで、俺がイギリスに居る間毎晩ご利用いただいていた。そして悪習とは聞かないが、皆さんご利用した後長沢さんの奥さんと内田さんの奥さんも入りに来てたらしい。
『お風呂代浮いて助かるわ~』
なんて感謝をされた。
どうやら男衆の毎日一緒にワイワイとお風呂に入ってる話しを家で聞いていたようで羨ましかったようだ。
しかもうちだけに至っては親子(鉄治さんと浩太さん)と一緒に入ると言う、子供のころ以来の事を毎日していると言う話しを羨ましいと思う気持ちはなかったが。家風呂と違う足の延ばせるお風呂は羨ましいらしく
「だったら長沢の嫁とお前らも入りにこればいい」
「だけど人様の家のお風呂を借りるなんて……」
「綾人ならそんな文句は言わんぞ。寧ろ儂達の後で申し訳ないと思う位だ」
「ほんとにいいのかしら?」
そんな感じで雨の日とか雪が酷い日とか以外はご利用していたと言う。
まあ、水道料とガス代見てれば大体わかってたからいいけどね。
寧ろお風呂を理由に先生込の管理を任せてたし、使わなかったらどんどん傷んでいく物なのだ。たかだか四年の留学の間に壊れる事もないしとやっと帰ってきて俺も満喫する事が出来るようになったのだ。
時間をかけて程よい量になったのを見計らって湯船に浮かぶ。
ごく普通のお湯だから当然身体は沈むので縁に頭を乗せて反対側の縁に足を引っ掻けてマナー違反だけどお尻の下に置けを逆さに置けば完璧。
はしたなくもこのだらけたスタイルやってみたかったんだよなと改めてここのお風呂を一人で入った事がなかったと言う驚愕の事実に辿り着いてしまった。
まあ、どうでもいい事だけどと庭側に出るテラスを眺めながらほわほわとした気分を引き締めるように手を伸ばせば置いてあるミネラルウォーターで水分補給。
完璧な休日だ。
特に皆様が必死に働いている裏で一人のんびりしているなんて……
ハブられてるなんて考えないからね。
何ぼんやりとしていれば
ガラリ……
突然風呂場の扉が開いた音に目を細めてしまえば
「綾人まだ風呂に居るのか?」
圭斗だった。
何の用だかと思って見上げていれば
「先生が遅いから見に行けって……
風呂場でおぼれてないか心配しててさ……」
壁際に置かれた防水仕様の時計はかれこれあの場を離れて二時間ほどたっていた。
まあ、お湯が溜まる時間を考えたら約一時間ほど入ってた事になるのだが……
「とりあえず元気。ぼちぼち出るつもりだけどさあ……」
言いながら圭斗を見上げながら小首を傾げ
「風呂場に入るのなら服着て入って来るなよ」
ニヤニヤとたんまりと水をたたえた桶を持てばぎょっとした顔はすぐさま風呂場から出て行く。
思わずその足の速さに声を立てて笑ってしまうも心配して見に来たようにそろそろ出る頃合いだろう。
五右衛門風呂だと足伸ばしては入れないからなとそれはそれ、これはこれの良さを堪能して午前中で帰って行く遠距離グループの為にも蓋をかぶせてすぐ使えるようにしておく。
先ほどきたスウェットに着替えて作業場の畳の部屋へと向かえばちゃんと警戒しながらも圭斗はストーブの前で待っていてくれた。
しかもほうじ茶を淹れてくれるらしい。
ストーブの上で小さなフライパンでほうじ茶用の茶葉を温めている様子は飯田さんを思い出す。
『こうすると香ばしい香りが増すのですよ』
何てレクチャー。そういやその時圭斗も居たなとさりげなく覚えて実践していた事に感心している間にお茶を出してくれた。
「風呂上がりだからしっかり水分補給しとけよ」
「ありがとう」
言いながら一口口に含んでこれが今日昨日やってみただけではない加減だと感心した。
まあ、飯田さんの腕までにはいかない物の十分舌を楽しませてくれる香りを引き出している。
「美味しい」
と言う満足の一杯。
「まぁ、ここで昼食べる時とか俺が淹れてるからな」
聞いた話だがなんとなくコーヒー事件も思い出して微笑ましさに一人苦笑。
息を吹き付けながら一杯飲み終えた所でおかわりを所望。
今度はお湯を足しただけなので味気ない物になったが
「で、先生はなんだって?」
これが本題。
きっと様子を見に行かせたのはただの口実。
俺の質問に圭斗は苦虫を噛みしめた顔で正座をして
「今まで香奈に良くしてくれたのに今回もこんなにも良くしてくれてありがとう……」
ございますとまでは言わせない!
ここ最近バタバタしてて言えなかったこの一言を言いにわざわざ先生に背中を押してもらってまで来た圭斗には未熟と言う様に口を挟む。
ただの親切心なだけではないと言う様にニヤリと笑い
「まあな。香奈なら絶対戻って来るって信じてたらこその先行投資。
十年以上寝かせたんだから、これからはこの程度の恩で働かせる事を後悔するくらいは覚悟をしとけ」
何て憎まれ口で言ってみた。
だけど圭斗は困ったかのような顔で複雑そうに笑い
「香奈を信じてくれてありがとう?」
と言う事かというような視線で訴えられてしまえばもう笑うしかない。
「ばーか。香奈は俺の大切な生徒だ。
ちゃんとここまで見込んでの教育が叶っただけの自慢だ!」
からからと弾けるように笑いながら圭斗のほうじ茶を飲んでのどを潤す。
圭斗の家では安い緑茶だけどここではちゃんとした物を使っている程度に気を配れるようになったなと言う関心はキッチンに置かれた買いたての証拠と言うようなお茶屋の袋が置いてあって……
感謝される、こんな小さなことに目を配る心意気が何よりも嬉しかった。
冷たい、固い、古臭い、そんな感想もポンポン口に出た事もあったが……
「地面痛いよー。石ごろごろの上で正座って虐待じゃねー?!寒いしぬかるんで冷たいどころか凍えて霜焼け、いや凍傷?になるー」
泥だらけになるけど先生の長いお説教から解放された俺は構わず足の先端に血液を送る様にごろごろと悶えるように転がっていた。
「綾っっちー、そっちに転がると斜面になってるから危ないよー」
園田の冷静な判断。冷静すぎて涙が出そうだ……
「その斜面の下の側溝は山水が流れてるから危ないよー」
そして上島弟の補足。お前も十分こいつらに染まってるなと涙所か鼻水も出てきたが
「せんせー、綾人じゃまだから風呂に入れさせてきてください」
「えー、先生のお仕事なの?」
「先生のお仕事です。もうすぐフランスに行くって言う予定なんだから風邪ひかせないでよ」
ただでさえ秋の訪問が体調不良で行けなくなったんだ。せめて年内に行きたいと思ったらこんな時期になってしまって……
「だな。先生とじゃれてる場合じゃなかった」
とすくっと立ち上がって
「悪い、風呂入って来るな」
「さっさと行って来い」
何て朝からお風呂と優雅な時間が決定した。
うきうきと麓の家の檜風呂へ向かえばきちんと朝のうちに掃除をしたのだろう檜風呂にお湯をはる。時間がかかるからとさっさと厚めのシャワーだけを浴びて泥を落しスウェットに着替えて待つ。
断熱材を使っているので今朝まで焚いていたストーブの暖かさに作業場の畳でまったりしていた。
因みに皆さん二階で雑魚寝はせずにこの畳の場所で雑魚寝をしたらしい。
なんて言うか
「これは爺さん達の修学旅行か?」
布団は二階に収納しているが階段はまっすぐなので階段を運ぶ際は布団を落せば問題ない。まあ、あの年齢の方達がそんな事をするとは思えないが。きちんと部屋の片隅に山になった布団を眺めながらストーブをつけて部屋を暖める。
大きな風呂を作ったのは良いがお湯が溜まるまで結構時間がかかる。
それは仕方がない。一般家庭用の水道管しか使ってないのでそんな物だ。
代わりに冷えないように特製の檜の板で蓋を作ってくれたが正直これがないとすぐ冷めてしまうそんなデメリットもあった。
だから温めたらみんな順番に入る。
いや、むしろ一緒に入りましょう!
それがテーマの大きなお風呂。
皆さん結構裸の付き合いはお好きなようで、俺がイギリスに居る間毎晩ご利用いただいていた。そして悪習とは聞かないが、皆さんご利用した後長沢さんの奥さんと内田さんの奥さんも入りに来てたらしい。
『お風呂代浮いて助かるわ~』
なんて感謝をされた。
どうやら男衆の毎日一緒にワイワイとお風呂に入ってる話しを家で聞いていたようで羨ましかったようだ。
しかもうちだけに至っては親子(鉄治さんと浩太さん)と一緒に入ると言う、子供のころ以来の事を毎日していると言う話しを羨ましいと思う気持ちはなかったが。家風呂と違う足の延ばせるお風呂は羨ましいらしく
「だったら長沢の嫁とお前らも入りにこればいい」
「だけど人様の家のお風呂を借りるなんて……」
「綾人ならそんな文句は言わんぞ。寧ろ儂達の後で申し訳ないと思う位だ」
「ほんとにいいのかしら?」
そんな感じで雨の日とか雪が酷い日とか以外はご利用していたと言う。
まあ、水道料とガス代見てれば大体わかってたからいいけどね。
寧ろお風呂を理由に先生込の管理を任せてたし、使わなかったらどんどん傷んでいく物なのだ。たかだか四年の留学の間に壊れる事もないしとやっと帰ってきて俺も満喫する事が出来るようになったのだ。
時間をかけて程よい量になったのを見計らって湯船に浮かぶ。
ごく普通のお湯だから当然身体は沈むので縁に頭を乗せて反対側の縁に足を引っ掻けてマナー違反だけどお尻の下に置けを逆さに置けば完璧。
はしたなくもこのだらけたスタイルやってみたかったんだよなと改めてここのお風呂を一人で入った事がなかったと言う驚愕の事実に辿り着いてしまった。
まあ、どうでもいい事だけどと庭側に出るテラスを眺めながらほわほわとした気分を引き締めるように手を伸ばせば置いてあるミネラルウォーターで水分補給。
完璧な休日だ。
特に皆様が必死に働いている裏で一人のんびりしているなんて……
ハブられてるなんて考えないからね。
何ぼんやりとしていれば
ガラリ……
突然風呂場の扉が開いた音に目を細めてしまえば
「綾人まだ風呂に居るのか?」
圭斗だった。
何の用だかと思って見上げていれば
「先生が遅いから見に行けって……
風呂場でおぼれてないか心配しててさ……」
壁際に置かれた防水仕様の時計はかれこれあの場を離れて二時間ほどたっていた。
まあ、お湯が溜まる時間を考えたら約一時間ほど入ってた事になるのだが……
「とりあえず元気。ぼちぼち出るつもりだけどさあ……」
言いながら圭斗を見上げながら小首を傾げ
「風呂場に入るのなら服着て入って来るなよ」
ニヤニヤとたんまりと水をたたえた桶を持てばぎょっとした顔はすぐさま風呂場から出て行く。
思わずその足の速さに声を立てて笑ってしまうも心配して見に来たようにそろそろ出る頃合いだろう。
五右衛門風呂だと足伸ばしては入れないからなとそれはそれ、これはこれの良さを堪能して午前中で帰って行く遠距離グループの為にも蓋をかぶせてすぐ使えるようにしておく。
先ほどきたスウェットに着替えて作業場の畳の部屋へと向かえばちゃんと警戒しながらも圭斗はストーブの前で待っていてくれた。
しかもほうじ茶を淹れてくれるらしい。
ストーブの上で小さなフライパンでほうじ茶用の茶葉を温めている様子は飯田さんを思い出す。
『こうすると香ばしい香りが増すのですよ』
何てレクチャー。そういやその時圭斗も居たなとさりげなく覚えて実践していた事に感心している間にお茶を出してくれた。
「風呂上がりだからしっかり水分補給しとけよ」
「ありがとう」
言いながら一口口に含んでこれが今日昨日やってみただけではない加減だと感心した。
まあ、飯田さんの腕までにはいかない物の十分舌を楽しませてくれる香りを引き出している。
「美味しい」
と言う満足の一杯。
「まぁ、ここで昼食べる時とか俺が淹れてるからな」
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息を吹き付けながら一杯飲み終えた所でおかわりを所望。
今度はお湯を足しただけなので味気ない物になったが
「で、先生はなんだって?」
これが本題。
きっと様子を見に行かせたのはただの口実。
俺の質問に圭斗は苦虫を噛みしめた顔で正座をして
「今まで香奈に良くしてくれたのに今回もこんなにも良くしてくれてありがとう……」
ございますとまでは言わせない!
ここ最近バタバタしてて言えなかったこの一言を言いにわざわざ先生に背中を押してもらってまで来た圭斗には未熟と言う様に口を挟む。
ただの親切心なだけではないと言う様にニヤリと笑い
「まあな。香奈なら絶対戻って来るって信じてたらこその先行投資。
十年以上寝かせたんだから、これからはこの程度の恩で働かせる事を後悔するくらいは覚悟をしとけ」
何て憎まれ口で言ってみた。
だけど圭斗は困ったかのような顔で複雑そうに笑い
「香奈を信じてくれてありがとう?」
と言う事かというような視線で訴えられてしまえばもう笑うしかない。
「ばーか。香奈は俺の大切な生徒だ。
ちゃんとここまで見込んでの教育が叶っただけの自慢だ!」
からからと弾けるように笑いながら圭斗のほうじ茶を飲んでのどを潤す。
圭斗の家では安い緑茶だけどここではちゃんとした物を使っている程度に気を配れるようになったなと言う関心はキッチンに置かれた買いたての証拠と言うようなお茶屋の袋が置いてあって……
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