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春が来る前にできる事 7

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 宮下の新居リフォーム二日目。
 天気も大変よろしく今日も大矢さんにお昼をお願いする一日仕事となった。
 宮下の家に集合時間に集まれば既にみなさん仕事を始めている就労違反。
 まあ、ゆるーいお仕事だからそこまで気に留めないけどさ。
「おはようございまーす!今日もよろしくお願いしまーす!」
 全員に聞こえるように大きな声で叫べば皆さん各々の場所からの返事。
 このゆるさは変わらないなと皆さん臨時ボーナスを稼ぐ気満々で微笑ましい。
 微笑ましいか?
 まあ、これからクリスマスに正月と言ったイベントの出費を考えれば当然だろう。
 話を聞けば既婚者は嫁さんと子供のプレゼント。独身組は彼女と旅行とそれなりの出費は抑えられない様子。
 香奈も毎週帰って来ると言っているが片道何時間もかかる道のりを僅かな休みの時間で削るには体力が心配となり、今回の訪問以降は会社を辞めて帰ってくるまで我慢をしろと圭斗に叱られていた。
 しょぼんとした様子だが
「香奈が帰って来たら陸斗が一人になるんだ。陸斗に寂しい思いをさせないでくれ」
 年齢≠片思いを貫いてきた香奈の思いが叶ったそばからのステイにふてくされるように落ち込むも
「陸斗は水野達の所に入りびたって全然寂しそうじゃないわよ」
「そういやあいつも古民家衝動買いしてたな」
 綾人が帰って来て少しした頃だっただろうか。何やら精神的に追い詰められてふらりと立ち寄った先の不動産屋に入って案内されるがまま直ぐにも入居できる物件を探して出会った物を即決して買ってしまったと言う。
「これだから外資系の給料形態って許せないのよ!」
 実力主義と言えば聞こえはいいだろう。実態はかなり変態スケジュールに振り回される肉体的にも精神的にもしんどいと言う。水野はここでかなりタフに育てたつもりだったが、この圧倒的に少ない対人間スキルを上げるのに苦戦しているようだった。ただでさえどこから来たの?と言われるような場所をスタートに有名大学の上位を占める学歴カーストの上部の人達の中に専門学校卒業がポンと迷い込んだのだ。その上上司たちも似たような物だし、だけど同レベルを渡り歩ける水野を快く思わない方が同期の中では圧倒的な数のようだ。
 そしてそんな苦労を知らない香奈も羨ましく思っているようなので、そこは圭斗はいたくないように拳骨を落した。
「バカか。お前が羨むのは綾人の下で勉強を励んだ成果だ。高校を卒業しても夏休みとかを使ったりネットを使ったりして勉強を続けたせいかだ。お前だって知ってるだろ?あの綾人の狂気じみた授業を。
 あいつらは泣き言を言いながらも最後までしがみ付いた結果なんだ。
 お前にあいつら並みに勉強を指せてやれなかった事は悪いとは思うけど、勉強してがんばって、選びしろのある人生を手に入れたあいつらを恨むのは間違ってる」
 圭斗も学歴が何だと思っていた口だった。
 だけど実際現実は受けた授業で手に入れた物の多さに左右されている。
 学歴だったりスキルだったり。
 最低限の学歴しか持ち合わせない圭斗が社会の中で苦労したのは当然、そして軽んじられたのも周囲の努力と比べれば当然と言う物。
 決してあの毒親に育てられた事を言い訳にしたくない。それが圭斗の意地だった。
 なので誰よりもと言えば語弊はあるが、彼らが可能な限り努力をした結果をそんな簡単な言葉でくくられるのはたとえ妹だろうが娘だろうが無視できないと言わずにはいられなかった。
 香奈は香奈で圭斗の怒り具合に言ってはならない言葉を使った事をやっと理解した。話で聞いた程度だけど誰よりもがんばったのは陸斗なのだ。目標を見つけて、身体を壊すのではないかと言うくらい勉強に励み、夢に向かって着実に進んでいる姿は誇らしく思っていた。
 そして今、同じ机で努力をしていた人を妬んで……
「判ったなら仕事辞めるまでは向こうで向こうでしか出来ない事を真剣に取り組め」
 ポンポンと肩を叩いで、少しだけ引き寄せくれた。
 きっと言い過ぎたと思ってるのだろう。悪いのは私の方なのに。
 少しだけそうやって寄りそって
「じゃあ、今日も頑張ろう」
「うん。人を妬んでる暇もない位がんばるから」
 そんな決意。
「頑張りすぎると綾人みたいに倒れるぞ?」
「綾人さんこそ見張りを付けておかなくちゃね!」
「まぁ、それ宮下の役目だったんだけど……」
「だったらご近所さんだしこれからもお願いしないとね!」
 ご近所って距離かと圭斗は眉間を寄せる物の
「なんてったって私達三兄妹弟の大恩人なんだもの!
 毎日学校に通った距離と変わらないんだから出来ない事はないんだから!」
 寧ろ集落を寄り道しない分近いんだからとからりと笑う香奈の明るい笑顔に宮下と綾人がやって来た。
「何か真剣な話ししてたけど今良いか?」 
 綾人がスマホを手にやって来たので何かあったのかと思えば
「なんかあったか?」
 圭斗が聞くも何もと答える綾人は香奈に向き合って
「何もないんだよ」
 真剣に、でも頭が痛いと言うような視線で少しだけ下になる視線に向かって
「こっち戻って来たら香奈はすぐに免許取りに行け。年明け直ぐに短期で取れるように予約入れるから」
「「は?」」
 あっけにとられる香奈と圭斗。
「宮下から聞いたけど、車の免許持ってないんだよな?」
「うん。向こう行ってから車必要ないから……」
「だけどこっちは車が必要になる。年明ければ就職組の奴らがわんさか免許取りに来て込みだすから予約だけでも取りに行け」
「え?今から???」
 そうだと頷き
「炊飯班は陸斗を筆頭に植田達に任せればいい。とりあえず宮下に送ってもらえ。急がないと帰りの電車に乗り遅れる」
「ほ、ほんとに……」
「遊んでる暇なんてないぞ。短期での一カ月は時間を取らないとな。ありがたい事に一番困る雪の積もってる道路での練習になるからこの時期の免許は役に立つ」
 スリップしてガードレールに激突している車をよく見てるだけにぞわりと背中が粟立つ。
「雪が解けて本格的なリフォームを始めるまでにやる事は山ほどあるからな。一番忙しい事を覚えておけ」
 
 ひいいいぃぃぃ!!!!!!

 綾人の狂気の授業を知ってるだけにこの言葉の本気具合を肌で理解した香奈は思わず涙を浮かべてしまう。
 だけど周囲はまだこの程度と言う様に微笑ましそうに眺めているだけで。
「他に取れたら便利な資格って何があるかな?」
「とりあえずお勧めは重機……」
「「いや、まず一つ一つとって行こう!!!」」
 綾人が何か聞き捨てならないような言葉を言おうとした所で圭斗と宮下はそれを黙らせて一つ一つ着実に資格は取ろうなと言う所で纏め
「じゃあ、香奈ちゃんを連れて車校行ってくるから!」
「おう!あとは任せておけ!」
 何て逃げるように二人は去って行ったのを見送り
「綾人、とりあえずそこに座れ」
 心配になって様子を見に来た先生によって公開説教タイムが始まった。




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