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幸せは幸せを呼ぶ連鎖反応に対する準備はなんだ 7

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 圭斗の家の一件の後俺は香奈に宮下と待ち合わせをして一軒の家を見ていた。昨日変な気使いをしなければ見ていた家。むしろ気使いなんてしなければよかった。いや、やっぱり必要だったか。めんどくさい事を今までジイちゃんの胡坐に乗っかって来た付けを払わされることになった。
 吉野の家のめんどくささを目の当たりにして意固地になった事も確かだが、もう終えた事なので開き直って我が家の空家問題を解決するべくく積極的にプレゼンテーションをする。
「昨日は街外れの家と街中の家を見たから今度は実桜さんの家から近い所だけど平地の家を見に行こうと思う」
「平地!憧れるわね!」
「それ!自転車で移動できるって夢だよね!」
 山暮らしあるあるの不便さは子供時代からすでに体験する事になる。
 その家を見上げるももう昨日の二軒で大体おなかいっぱいなので何の期待も抱かない宮下と香奈に綾人は少し不服だった。
「それでこの家の特徴は……」
「屋根裏が蚕部屋の平屋です。
 前の住人の方が荷物置き場に浸かっていただけで現状引き渡しが条件になります」
 ガラリ何て気持ちよく開かない玄関を何とか開ければ街外れの家とは違う匂いに圧倒されながら香奈は窓を開けて行く。
 もうここまで行けば俺達顔負けのプロだ。
 寧ろ東京で何の仕事をして来たのか問いただしたいが
「やっぱり綾人さんの持ってる家、良い素材ばかりだったわね」
「もうフルリノベーションしないといけないレベルだけど」
「間取りも不便そうなのが古民家って感じだけど」
「この不便さが暮して行くと癖になるんだよ」
「そうね。ここまで来ると元の形が分らないくらい壁を取り払って作り直せる潔さを持てるわよね」
 二人とも言いたい放題だった。そして婚約した手の二人は腕を組んでの内覧会。
「どっちにしてもこの家に置いて行かれた荷物なんとかしないとね」
「そこは冬休みに使い勝手のいい奴らが帰って来るからそいつらにお願いしようと思ってるから」
 すぐに水野と植田、その他もろもろの顔ぶれが思い浮かんだ。
 社会人になってもあいつらって不便とほろりと涙を落してしまう。
 だけど本当に涙が落ちたくなる瞬間とは
「そうね。少しでも安く上げる為に使える物は使わないとね」
 私もやるわよとやる気の香奈の気合こそ苦労させて済まないと言う所だろう。
「まあ、こんな感じでそれなりに裕福だった奥様が一足先に旅立ったご主人を追い掛けるようにして、独立した息子さん達は帰ってくる事もなく空家になった物件です」
「病院なら問題なし!だけど次!」
 はきはきと行動的なのは変らないなとゴリ姉なんて言われる理由を再度納得しながらも次の家に案内する。
 正直この二軒を蹴られるとあまり人が住むには不便すぎる所なのでとお勧めはしたくなかったが……
 細いとは言い切れないけど片側が斜面の道を上がって行く。
 慣れれば怖くない物の初めましての人や雪が降った後は怖いだろう坂を上がって行った先に家はあった。
 そこまで上がらないけど裏は山を切り崩した崖があり、トタン屋根の家は辛うじて形を保っている程度。倉庫と離れがあって、雪の重みで歪んだ家の玄関は辛うじて開いた空間に身体を潜り込ませるようにしてお邪魔をした。
 カビと獣臭の満ちた家の中は薄暗く、手慣れた様に直ぐに香奈が雨戸を開けてくれた。
  大黒柱に近い場所のドアが開いてくれたからそこだけ開ければ暗い家の中に光が差し込む。
 畳は湿気で波打っていて、破れた襖や残された家財は爪痕や歯形がたくさん残っていた。
 なにより湿気を含んだ布団はぺしゃんこで、屋根から雨漏りも酷く廊下の痛みは悲劇と言うしかない。
 床板を踏み抜かないように注意しながら二階へと向かう。二階に行くと地面からの湿気はまだ気にしない程度だが
「雨漏り酷いね」
「空家故の逃げられない問題だろ。だけどここは眺めがいいな」
 先生の家とは違う街を一望する景色。
 周囲の木々がその景色を半分以上隠すけど正面の山と空が広がる宮下の家と変わらない景色。いや、空が小さく向かいの景色が近いのもあるが、おおむね何ら変わらない。
 二階は二部屋だけど一階は珍しく田の字型の間取りではない。
 家の入口に近い方に玄関があって広すぎる土間から家の真ん中に廊下が走って部屋が四つある。勿論縁側もあるがこれはこれで面白い間取りだ。ちなみに玄関から奥側に台所がある。この景色が見えない所に台所とは残念と思うのは俺だけでなく
「折角建て替えるならこっちを台所にして日当たりがよくって見晴らしのいい場所にあると良いよね」
 どうやら宮下の心が揺れたようだ。
「確かに素敵だけど……」
 ひょっとしてここを気に入ったのかというような香奈の視線を気にする事が出来ないのが宮下のちょっと問題な所。好きな事に没頭しすぎる傾向はこう言う所にも表れてしまう。
「お風呂場も台所に近くにしよう。そうだね。この間取りは崖側が暗くて使い勝手が悪いから大きな一部屋にしたいけど、そうなると暖房効率悪くなるからちょっと考えないとね」
 宮下の中でどんどん世界が作られていく。
 そして香奈も好きだから、ではなくこうなったら無理だと言う事を理解する様に苦笑をする様子に俺も苦笑い。
「よし、一応俺もアイディア出してみるよそこから考えてみようか」
「うん。じゃあ、香奈ちゃんが使いやすいような家をリクエストするね!」
「了解」
 どうやらここで決まるようだった。
「香奈も良いのか?」
 聞けば柔らかな笑みを浮かべ
「翔ちゃんがここが良いって言うのなら私は何所だっていいよ」
 なんという聖母のような優しさだろう。
 いや、篠田さん兄弟は基本優しいけど。
 散々迷惑をかけている俺としては何も言えない中
「じゃあ、この家に決めたのならもうちょっと詳しく説明するな」
 
 帰り道は沢村さんの事務所に戻って家の売買契約をする。
 上げると言った手前だけど、無償と言う物ほど高い物はないので一円でも価値を付けておく方がいいと言われたので
「だったら五円でお願いします」
 宮下が財布から五円玉を取り出した。
 ちらっと見れば財布の中に一円玉が無かったのが原因だろう。
「まぁ、縁起も良い数字だし?」
 思わずついた言葉に沢村さんも香奈も笑うなんとなくほっこりしてしまうのは宮下の人徳だろう。


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