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無垢なる綿に包まれて 9

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 目の前は一面真っ白の銀世界、と言うほどでもない。だけどたった一日京都に行ってただけでこうもなるか?いやなるのがこの家だ。
 出かける前も少し雪が積もっていたがしっかりと降り積もった雪は本日のお天気に早々に溶け出している始末。
 だからこそなおの事氷になる前に通路の雪はかき分けて道をキープしないととせっせと雪かきを始める。
 有り難い事に屋根の雪はまだ融け落ちてくれるので屋根に上るまでもないけどそれでも滑り落ちて来るので注意が必要。昨日から一晩ストーブの火を切らさなかったおかげで先ほど屋根の雪が半分以上は落ちたがまだ残っている。
 綺麗に落ちてくれないのもこの時期の雪の特徴だなと溜息を零しながら離れとウコハウスの道を作る事にする。後五右衛門風呂の道も作っておかないとな。五右衛門風呂が凍りつくと釜によくないから火を入れて温めて凍結だけはしないように注意している。まあ、吹雪いてなければ家とお風呂の間を駆け足で通り抜けると言う絶対転んじゃいけない危険な遊びはやめられないけど。
 寒くても五右衛門風呂で温まった体はそれぐらいへっちゃらだからこそやれる若気のいたりだ。今はアイヴィーが居るのでジェントルマンとして家風呂で我慢する事にしているが。
 まだ凍り付いてない雪は水気が多くて重い。
 軒先からはみでた屋根の雪から滴り落ちる水滴に当らないように注意して雪かきをする。
 除雪機を使うにはまだ量が少ないし、何よりうるさい。
 お母さんと楽しくおしゃべりをしてるアイヴィーの邪魔をしたくもないし、それ以上にまだ除雪機用の燃料を購入してないのだ。使うならちゃんと用意してからだよなとここ数年留守にしてただけで冬籠り用のアイテムの準備がおざなりになってたとはと反省してスマホを取り出して宮下に帰る時取りに行くからお願いと至急購入したい一覧を送っておく。
 雪に覆われた山の上とは言えスマホ対応の手袋じゃなかったから素手になったおかげであっという間に手はかじかんだ物の温かな陽光のおかげで身体はポカポカと温かい。油断すると風邪をひく事になるのだが、そうなったら合言葉は「みゃーちゃん助けてー!」のコール。ぷりぷりと怒りながら小言が止まらないけど甲斐甲斐しく看病してくれる姿は何度見ても面白い。いや、面倒見てもらって思う事じゃないけど何だかそれがこそばゆくてこの時間が好きだなと思ってる事は未だに言えない俺の秘密。
 まあ、言ったからって何も変わる事がないのが宮下なのだが、それでもこの時間を守りたいと思えば口に出さないで素直に感謝するのが正解だろう。
 はーっと指先を温めるように息を吹き付けていれば

「アヤトいたー!
 ごめんね。サナちゃんから浴衣の話しを聞いてたら面白かったから」
 うっとりと夢見心地の表情に本当に好きなんだなと感心しながら
「明日麓の呉服屋さんに行こう。着物を専門で扱ってる店だよ。
 ついでに知り合いの奥さんに着付けの仕方を教えてもらう約束してみたから覚えてみるといいよ」
「嬉しい!ほんとにいいの?!」
「この時期に浴衣があるかはわからないけどね」
「それでも嬉しい!私も自分の着物もてるんだね!」
「期待はするなよ。お母さんの着物は本当に良い物ばかりだから。あれを見た後だとどれも見劣りするのは仕方がないからな」
「ううん、それは当たり前だよ。
 それに着方も知らない私があんなにも立派な着物持ってても着こなせないんじゃ仕方がないわ」
 なんて恥ずかしげに俯きながら、でも自分の着物が手に入ると思ってか顔は嬉しそうに染めていれば

 とささささ……

 「きゃっ!」

 目の前で軒先の雪が落ちて、思いっきりアイヴィーの頭の上に落ちた。
 少し前にも落ちていたから凍ってはないから危険はないとは思うも
「大丈夫か……」
「やだっ!冷たいっ!!!」
 慌てて雪を払うも水気を含んだ雪は髪や肩に絡まる様に溶けて行き
「ああ、もう。タオル取りに行こう」
 らちが明かないと手を引いて家の中に入ろうと振り向いた所で濡れた所が光で反射をしていた。
 
 全身真白に包まれた姿を思い出した。
 柔らかな真綿で大切に包まれたようなその姿。
 もともと白い肌と相成って融けそうなくらいの存在感に見惚れたばかり。
 雪をかぶり、光を反射する姿がその姿と重なった。

「つめた……」
 散々な目に遭ったと思ったアイヴィーは手を引いてくれた綾人が立ち止った事にどうしたのかと視線を上げれば真っ直ぐに見つめられた視線に息が止まった。
 怖いとかじゃなくって、綾人の視線の中には自分しか映ってない事に気付いてしまったから。
 頭の中ではエドガーからの忠告が何度も繰り返している。だけど、それを綾人は視線で一蹴した。
 嬉しい、だけどどうすればいいのか判らない。
 綾人が初めてアイヴィーを、ただ一人の女性として見てくれている事を理解するには十分な熱を持っている事を知ってしまったのだから。
 そっと俯いてしまう。
 どうすればいいか判らなくって、逃げようとするも……

 影が落ちてきた。

 期待しても良いのだろうか?

 同時に綾人がまた苦しむのではないかと言う恐怖に駆られるも、そんな事を考えている間に頬に手を添えられた。
 上げられた視線の先には酷く真剣な、見た事もない位にかっこよく見えた綾人が居て


 ああ、やっぱりどれだけ我慢しても綾人の事大好きだよ。

 
 そっと目を閉じれば綾人の温もりに包まれて行った。


 
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