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ルーツを思う 1

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 何度一緒に飲んでも猟友会の皆様はザルの集団だった。
  ジジイ自重しろ、そう言いたくなるくらいのザル集団だった。
 その中で俺は一番弱く、なるべくアルコール度数の弱いビールで凌いでいたのにも拘らずいつの間にか日本酒に変えられてあっという間に潰されてしまった。 
 うん。いつもの事……
 年を取ったら何てことないと思っていたのに全然成長(?)する事無く弱いままと言う残念仕様。
 成長したかった……ゲ〇ではなく口から涎を垂らしながら半分意識を飛ばしながら身動きを取れず辛うじて意識を繋ぎとめていた間に聞こえた声は
「何だ、綾人と違ってお前達は飲めるのか!良いぞ!飲め飲め!
 久しぶりの帰郷なら楽しく飲まないとな!」
 幸田さんの楽しそうな声が響いていた。
 だけど散々俺だって長くはないがフランスの城に滞在している時にマイヤーに鍛えられてきたのだ。
 この声は楽しいではなく緊張を誤魔化す為に明るくふるまっているだけだと。
 頼むから変な事はしないでくれ、変な事ってなんだ?
 そういや何でみんな叔父達が来る事を知っていたのだろうか。と言うかこのメンツが猟の季節以外に集まるなんて珍しいよな。鉄治さんと長沢さんまで一緒にいるのはと浮かぶ疑問が止められなかったけど、その前に俺の意識を保つのはここまでだった。
「ほら吉野の、このまま寝ると風邪ひくぞ」
 長沢さんの声とふわりとかかる温かい毛布。
 寝るしかないじゃん。
 枕まで用意してもらった物に居心地の良い場所を求めてしまった俺はこれを習性というのだろうと身を持って理解した瞬間意識は完全に閉ざされた。

「やっと寝おったか」
 
 そんなため息交じりの長沢さんの声はもう聞こえない。
 ただ朝になって目が覚めた時は囲炉裏の周りを囲むように設置された宴会場は総て綺麗に片づけられていた。
 頭も重くて起き上がれずに居れば
「綾人目が覚めた?」
 よく耳に馴染んだ宮下の声だった。
「あー……」
 頭がまだ回らんと言う様に何やらパタパタと台所と囲炉裏の部屋を行き来する宮下の様子を見ていれば朝ごはんの準備をしてくれているようだった。
「長沢さんから電話があって、二日酔いで潰れているから介抱してやれって電話が来てさ。
 それより俺これでも怒ってるんだよ?」
 ぷりぷりとほっぺを膨らましながらご飯を用意する手つきは何処か荒い。
「うん。ごめんなさい。あとウコ達は?」
「もう出勤してるよ。朝から頑張って雑草食べてくれてるよ」
「そうか、そうか。働き者だな」
 何て布団から出た所で
「まずは白湯。少し体を温めてからご飯にしようね」
「シジミのお味噌汁がありがたや~」
 とりあえず白湯を一口飲んでからすぐにシジミのお味噌汁に手を伸ばす。
「ご飯はおかゆさんにしたから。飯田さんが作ってくれた茗荷の味噌漬けで食べてね」
「飲んだ次の日に優しいメニューサイコー!」
「バカ言ってないで食べるの!」
 これ以上怒らせないようにとテレビをつけてニュースを聞きながら黙って食べ終えた所で
「所でみんなは?」
「なんか松茸狩りに出掛けたよ。ほら、例の親戚達が来てるでしょ?何か話の流れで採りに行こうって言う感じで出かけて来るから綾人の世話をしてやれってさ」
 と言ったのはきっと長沢さんだろう。宮下ならその言葉の裏に潜む意味を理解できないからこその言葉。
「ふーん。じゃあ長沢さん達が知ってるのって……」
「綾人の従弟が内田さんに連絡入れたみたいでさ。そこから数をそろえれば問題ないって何か急に張り切りだしてね」
 呆れたように、そして疲れたと言う様に笑う宮下はきっとその場にいたのだろう。
 困った爺さん達だと思いながらもシジミ汁をもう一杯貰ってゆっくりと啜る。
 さてどうなる事やらと思っているうちに天気が悪くなりだして雲の中の雨は音もなく降り始めるのだった。
「あー、やっぱり降り出したか。ウコ達小屋に入れて来るから。綾人も気分悪かったら薬飲んで横になってて。寒くないようにちゃんと布団被ってるんだよ!」
「何所のオカンだ」
 何て相変わらず面倒見の良い姿が勢いよく外に飛び出していくのを見送り、俺は盛大な溜息を落した。
 この山の人間なら空を見れば天気が崩れるのは判っているだろうにと、何を思ってか想像が付く思惑に俺は知らねと言う様に布団をかぶるのだった。
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