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時間の流れにしみじみと……するにはまだ早い 7

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 夏樹の予想と言う物が当たると言うのは腹立たしい。
 バスの到着時間からここまで上がって来るまでの時間を逆算しても半端な時間に現れた三人と言うフェイントは俺を酷く動揺させた。
「ほんとに来たとか……」
 最後の記憶からやせ衰え、服装は何年も着古したようなよれよれの姿。身なりもあれだけきちんとしていたのに見る影もなく……
「ここは俺達の生家だ。どうして来て悪い」
 ずかずかと家の中に入りそうになるのを阻止する様に玄関に立てば
「何だ。叔父が来たと言うのに茶も出さないつもりか」
 そんな傲慢な言葉。
 あの日氷のような川に浸かって見上げた時に見返された視線と同じ視線に一瞬頭の中が真っ白になるも
「綾人、誰か来たのか?」
 内側から玄関を開けて出て来てくれたのは作業着を纏いノミを手にした長沢さんだった。
 俺以外に人がいるのが意外だったのか戸惑う叔父達を他所に
「あ、長沢さん。親父の弟の……」
「確か次男の啓治に三男の弘蔵、四男の勝司だったな。
 こうやって並ぶと一郎によく似てるわ」
 なんて言う割には獰猛な目つきで三人の姿を睨みつけていれば
「お久しぶりです。母のお葬式の時以来ですがお元気でしたでしょうか」
 そこは次男。啓治がまだきちんと社会に順応していた姿勢で頭を下げていた。
 何て取り繕ったような挨拶にはっ!と鼻で笑い
「お盆所か三回忌、七回忌にもやって来ない息子に母と呼ばれる弥生も哀れだな」
 思わずと言うように俺も頷いてしまう。
「わしらは見てたぞ。綾人が何度もお前達と連絡取ろうとして電話や手紙を書いていた事もな」
 そう言って家の中から出てきたのは鉄治さんだった。
「あ、内田さんまで……」
 ジイちゃんの友達と俺が懇意にしているとは思わなかったのだろう。さすがに相手が悪いと言うような顔をしたのも一瞬。夏樹の親だけあって体格のいい弘蔵が勝司に何か小声で言った言葉に二人はニヤニヤとしだしたのが気持ち悪くて眉をひそめてしまえば
「お久しぶりです。内田のおばさんもお元気ですか?」
 何て身体を張る様にして近づく様子はあからさまな体格の違いを見せつけるような物。二人を見た目通りの老人として力では叶わないだろうと言う様に下卑た笑いを零していた。
 だけど長沢さんも鉄治さんもそんな差程度でビビる御仁ではなく
「おう、客人なら早く家に上がってもらえ、鉄治よ」
 幸田さんも現れた。
「何だ。よく見たら啓治達じゃないか。そんな所で突っ立ってないではよ上がれ」
 と言うのは猟友会仲間の大矢さん。
 営業スマイルのはずなのに目がハンターの視線で俺の方が挙動不審になってしまう。
 そんな俺を無視して猟友会の下川さんもお玉を手に持ってやってきて
「おうおう、懐かしい顔じゃないか。
 今ちょうど駆除した鹿を捌いた所だから。鹿の心臓食べるだろう?ごま油をさっとつけて、懐かしいだろ」
 本業農家なのに猟友会ではほとんどの獲物を捌き、飯田さんをライバルとする人だが
「今猪汁も作ってるから上がって待ってろ。うちの婆さんの手作り味噌で作った奴だから美味いぞ」
「おう、下川の手作り味噌はほんと美味いからな」
 何てわいわい言いながら背中を押されるように家の中に案内された。
 さすがにこの人数では分が悪いと思ったのか嫌な笑みは潜めて戸惑う様に敷居をまたいでいた。
 家の中に入れたくなかったけどこうなったから仕方がない。
 その後は長沢さん達にまずは挨拶だと言われて親父の小さな遺影が飾られる仏壇に手を合わせさせられると言う姿にせせら笑った。

 どうやらこの夏の間ずっと活躍していた囲炉裏の傍に三人を座らせて既に出来上がったと言うようなチーム猟友会は叔父達にもお酒を進めて囲炉裏にかかる猪汁を取り分けてどんどん食べさせて呑ませていく。 
 叔父達も酔っ払いには勝てないらしく注がれるまま、そして器によそわれるままどんどん食べて飲んでいく。
 お酒も入って気も良くなり、程よく理性を手放す頃、俺も強制的に飲まされてぐるぐるとまわる世界の中の遠くで話しを聞いていた。

「それにしても久しぶりに帰って来て一郎達も喜んでるだろう」
「そういや子供達はどうした。大きくなって、勝司よ。お前の所に唯一の女の子、名前はなんだったか。奥さんに似て綺麗になっただろうな」
 鋭く鉄治さんが切り込んでいく。
 あの時は大変ご迷惑おかけしましたと半ば意識を飛ばしかけている所で
「ああ、アイツはダメだ。
 実は妻が俺に黙って借金を作りやがって離婚してやった代わりに香奈に家の事を任せたのに点でダメでな。
 甘やかせて育てたのか家事の事が一切できなくってな。吉野の女衆はみんな小さい頃から手伝って高校生になる頃には一通り何でもできたのにほんと愚図でな」
 気を悪くしたと言うように愚痴をこぼす様子に俺の意識は覚醒……しなかった……。


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