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時間の流れにしみじみと……するにはまだ早い 3

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「アヤトに女が出来た。しかも人妻。更に偽装結婚で別居状態。表向き旦那は大学に残り、妻は学費を稼ぎに出稼ぎと……
 旦那に渡す対価はなんだ?」
「女は出来てません。郊外の家の管理人と言う条件で大学院卒業までの学費といずれ郊外の家を中身事押し付けようかと……」
「学費はともかく中身付きの家は迷惑意外じゃないのか?」
「ゴミにしかならない先生の家と違って中身はどれも転売が効く物で揃えてあるので二束三文でも老後の生活は固くお約束できます」
「綾人の言い方が酷い!」
 あらかじめ用意していたビールを開けて一息に半分ほど飲み
「で、どうするつもりだ?どう見てもアイヴィーはお前にかなり好意を持ってるぞ」
 はぐらかしてないでちゃんと言えと言うようにじっと俺を見つめるもビール髭が出来た状態ではしまりも欠片もなく肩をすくめて
「どうもこうもしないよ。
 先生だってなんとなく知ってるだろ?無理だって」
「まあな。死んでもお前に呪いを植え付けたお前の母親の手腕はほんと見事だ」
「死してなお悩まされるとは思わなかったよ」
 それが無ければきっちりあの日に決断をしてただろう。 
 だけど出た答えが絶対の拒絶。頭でも心でも受け入れる状態が出来ていたのに体が、精神が拒絶をした。
 見られなかったとはいえそれは相手を傷つける以外何もない姿だった事を思い出して
「でも、それを知らなくても周りの奴らがアイヴィーを助けてくれてよかったよ」
 その中に名乗りをあげれない俺を見てか俺事助けてくれるつもりの二人には感謝しかない。
「なぁ先生。
 人間ってなかなか成長できないもんだな」
 きっそそうなのだろう相手を守る所か未だに守られてる俺がいて……
「何でだろうな。
 欲しい物は大概手に入れられるって言うのに肝心の物は絶対に手に入らない。
 どうしてだろうな……」
 親からのごく普通の愛情と初めて心まで揺さぶられた人と縮められない距離。 
 思わずつぶやいてしまった情けない言葉に先生は俺の頭に手をポンと置き
「大概の人は肝心の物は手に入らないようになっている。現状を喜べ、なんて言わないがお前の場合欲しい物を手にする為に支払う対価が大きすぎる。手に入らなくても失わずに済む、そんな幸せもあると言う事も知っておいてもいいんじゃないか?」
 そもそも相手はまだ二十そこそこの小娘だ。もっと社会経験を積まさせてやれなんて真面目くさった顔で飯田さんが漬けた茗荷のみそ漬けをシャクシャクと食べてはビールを煽る。
 俺はそれに何も言えずにその場をたって部屋へと逃げ込んだ。
 先生の何とも言えない視線を最後まで背中に感じたが、最後まで気付かないふりをしてベットに潜り込む。
 支払う対価と言われてぱっと思いついたのがこの家。そしてこの家に纏わる人達。更にこの家が取り持った縁。縁から続いた縁、それは容赦なく続いて行き……
「どれ一つ取りこぼしたくない……」
 案外強欲なんだなと気が付いて、どれも失いたくないと叫ぶ心に先生の冷酷なまでの言葉にグッと息を飲み込んで一つの決断をした。
 共に居なくても思う心があればいい。
 まったく足りないけど、逃げるわけでもない。
 先生だってアイヴィーの長い人生を早々俺に縛り付けるなと言った所だろう。
「ほんと、こう言う時ばっかり嫌になるくらい先生だよな」
 いつもはどうしようもない先生なのに何でこう言う時急にかっこいいんだろうとまだまだ先生に頼りっぱなしの俺は酷く子供のように思えた。




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