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振り向いて立ち止まり 1

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 二人の様子がおかしい。
 いや、あの二人は何時もどこかおかしいけど?
 おかしいのは判ってる。
 じゃあ、何がおかしいって?
 あれが二人の通常だろ?
 いえ、確かにおかしいですね。

 聞こえそうで聞こえない、でもばっちり聞こえる俺の耳に苛立ちを覚えながら
「言いたい事があるならはっきり言え」
「あ、怒った。やっぱり何かあったんだ」
 フェイが呆れた様にやっと口を開いたかと溜息を零した。
「相談位のりますよ?」
 ウィルが不安げに言うが
「あえて言うなら何もなかった。 
 ただそれがお気に召さなかったと言うだけだ」
 言えばなんとなく何が起きたか全員が察した。
 カティの卒論再提出問題に綾人を巻きこむと息巻いていたのは知っていた。更に卒業に向け、次のステップの為に帰らずに論文を書く為に郊外の家に居残る事にしたと言っていたのは聞いていたので周囲が気を使って実家に帰る事にした。勿論一部はフランスの城でフランス語の会話なりマナーを学んだりと小遣いを稼ぎながら労働の楽しさを学んでいた。
 そう。
 みんな綾人がカティに落ちるのを楽しみにしていたのだ。
 カティとて黙って立っていれば育ちの良さがも滲み出る才女なのだ。
 男から言えば庇護欲を掻きたてられるか弱い所もあれば、時折凛とした態度も見せる美しさも持ち合わせている。
 美女と言うより可愛らしい。それが見た目の印象で、知り合えばその知識の深さにファンはそれなりに居ると言う。
 ただ、いつも背後に老齢の執事が共に行動しているので声をかけづらい。
 カティは慣れているけど、ひそかに友達が出来ない理由を馴染み過ぎた執事のせいだとは気付いていない残念仕様だった。
「あれだけ好意剥き出しだけどちゃんと常識的に段階ふんできたのに何で駄目なんだよ」
 アレックスは俺ならそこまでさせる前に俺から申し込むけどなと意外にも真摯な態度。とてもジェムにマウントを取っていたクズとは思えない紳士ぶりだ。
「まぁ、しいて言えばカティが悪い分けじゃない」
「まあね。カティが悪いっていうくらいなら何回もデートをしてるくせに何も発展させない綾人の方が悪いよな」
 フェイの言葉に何故か全員で頷かれてしまった。
「まぁ、単にタイプでもないと言うのなら何も言えませんが、少なくとも期待させるような真似をするのは大人としてどうかと思います」
 柊の手厳しい言葉にカレッジで一緒に勉強してる中だから忘れがちだけどここにいる奴全員歳下なんだよなとそっと視線を反らしながら
「まぁ、言う必要はないと思ってたんだけど」
 言うべきかどうするべきか悩んだが休み明けてからカレッジですれ違う事はあってもここに来る事が無くなったカティに少なくとも寂しく思っているのだろう。
「ものすごく個人的な事なんだが」
 立ち上がってドアの前に立ち
「俺、母親に精神的な虐待されながら育ってて、苦手なんだよ」
 そう言って逃げる様に自分の部屋から立ち去った。
 はずかしい。
 なさけない。
 いい歳して。
 言うべきじゃなかったと思いながらも言わなければ納得しない奴らに適当な事言って誤魔化す事は余計悪い方に進むと思って伝えたが敗走と言う様に部屋を逃げ出した時点でバカやったなーとスマホと財布はあるので近くのカフェに逃げ込んだ。
 
 綾人は逃げ出したが残された方は溜まった物じゃなかった。
 まさかの告白。しかも母親からの愛情を貰えずに育った子供が心に傷を負っていないわけがない。ましてやそれが
「私が癒してあげる」
 そんなお花畑咲き乱れる頭でどうこうできる物ではない事は確かだ。
 ただ綾人の学生生活の中での交流の範囲に複数の女性もあり、一緒に食事もしたりパブで討論したりもしている。
 強いて言えば、カティのように近しいと言う人物は居なかった。
 それを考えればカティが何かしたのだろうが、綾人がいうには何もしてないと言った。ひょっとしたらカティにしては積極的に迫ったのだろう。それが綾人が耐えれるボーダーラインを越えてしまったのだろう。
「ひょっとして最悪の事態とか?」
 クリフが顔を青ざめる中同じように顔を青ざめている人物もいた。
「なぁヒイラギ、カノウ。前にアヤトの家に遊びに行ったって言ったけど家族はどんな人だったんだ?」
 ケリーの質問に
「綾人の親父さんは亡くなってたな」
 そっと目を反らす叶野。
「それでもって、お母様もなくなっているらしいのですが、お父様と違って一切形跡がないのです」
 感じた違和感。
 父親の遺影は新しい物だったのに、普通なら並べておくだろう遺影はどこにもなかった。それどころか誰も綾人の両親の事を口にしなかった。祖父母の話はするのに誰もかたくなにしなかった事を思い出す。
「カティはこの事知ってるのか?」
「普通に考えれば知るわけないよな」
 ウィルのわかりきった疑問にアレックスは当然と答える。
「これってカティに伝えるべきことかな?」
 ジェムの不安げな声に
「これはアヤトの問題だから。アヤトがこの件を口に出すまで俺達が口を出すのは筋違いだし、アヤトが俺達にこうやっていえるようになったように時間をかけてアヤトからカティに言わすのが正しいと思う」
 フェイの言葉にかなり自分達がお節介をしている事に気付き、それがかなり間違った方向へ向かっていた事に気が付いた。
「カティみたいな何処か頼りない子だから俺達カティ寄りになってるけど、アヤトの事情を思えばカティを近くに寄せちゃいけないんだろうな。
 ほら、あの子結構距離感をちゃんと読んでくれるから。一緒に居て居心地がいいんだ。
 だからこそ休みの間にこんな事になるくらいの事件になっちゃうんだ」
 せっかくいい感じだったのに。
 少しだけ寂しく思うも綾人が敗走を選ぶくらいの出来事に危機感を覚えながらフェイはスマホを取り出して綾人にメッセージを送った。

「悪かったから。俺達もう帰るから安心して帰ってきて」
 
 声を出しながら文字を打ち込んで送信。
「じゃ、今日はもう帰ろう」
 立ち上がったフェイに誰ともなく帰り支度をしてなんとなく重い足取りで言葉も少なくカレッジの寮へと帰った。







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