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小さな恋に花束を 1

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 アメリカ遠征の学会から季節は容赦なく流れる。卒業に関しては既に必須単位を会得し卒論も提出済みとなっている。三年間主席を取り続けた挙句にスキップまでして来たのだから今年卒業予定する学生たちはたまった物じゃない。
 特に今まで学年主席争いをしていた者達が横からあっさりと奪われた挙句に学内コンクールも綾人に奪われていくのだ。
 面白くない。
 何か嫌がらせをしたくなる。
 だけどそこは既に餌付けと言う手法で沢山の手し……友人を得た信頼と言う壁は簡単には崩せそうもない。何せその中には教授達も数に入っているのだ。
 触らぬ神に祟りなし。
 寝ている犬を起こすな。
 暇な綾人に喧嘩を売るな。
 一見喧嘩なんてしないし軽くスルータイプに見える綾人はしっかりと根に持つタイプだ。
 少し付き合えば判る事だが、ガッツリと嫌がらせはする。
 例えば学年主席となったり、ケンカ売った奴が挑戦するコンクールに出てみたり、就職活動をかぶせてみたり。時にはデートの約束を取り付けをしている時にパブで勉強会をしようかと聞こえる所で言ってみたりと討論の好きな学生が多いので十分に気を引いてデートの約束を断らせたりと直接ではないが地味に妨害をするのだった。
 確かに嫌われるな。
 なんとなく察した物の
「巻き込まれるのはごめんだ」
 と言うアレックスに
「心外だな。俺は何もしてない。ただちょっと俺の方がラッキーだっただけだよ」
 しれっと言う綾人にこう言う大人にはなりたくないと叶野はぼやくがお前も大人だろうと突っ込まれるだけだった。

 すっかり溜り場と化した綾人のアパートにはカティも来るようになった。
 卒論で手こずっているので協力してほしいと泣きついて入り浸るようになった。
 綾人に怒られながらひぃひぃ、言って泣きながら卒論を作るカティの様子に来年は俺達があんなふうになるのかと今からビビッている面々だがそれでも珍しく綾人が女の子の面倒をちゃんと見ていると言う珍しい光景に誰もがニヤニヤとして部屋を辞すると言う現象まで起こり始めていた。
 仕方がない。
 前に綾人に絡んできたのはあのフローラだったのだ。
 一般的なちょっと背伸びしたい女の子としては普通かもしれないが、とにかく綾人をイラつかせるのが上手だった。
 その点カティは綾人を絶叫させるのが上手だった……
 これ誉めて良いのか?
 見てる分にはアレックス達は楽しかった。
 お嬢様学校を卒業しているだけあってしゃべり方から立ち振る舞い一つとっても品があって一緒にいると居心地のいい女性だった。
 だけど綾人にとっては先の学会がトラウマでカティを見れば今度は何のトラブルを持って来たと戦々恐々としている。
 ねこが毛を逆立てて、なんて言う表現が合う様に
「アヤト、ちょっと意見を聞きたいんだけど……」
「いや、それは教授達に聞け。俺を巻きこむな!」
「違うの!この間の学会の時に使った方程式が……」
「学会の話はするなー!!!」
 何があったか大体の話しは聞いていたがそこまで逃げる事なのかと追いかけっこをして体力不足でカティが転んで終わる毎度のパターンは体の大きなフェイが回収する所までがお約束になってしまった。
「学会の話しもっと聞きたいのに……」
「今ならカティの学会の時のファイル見れるから見せてあげようか?」
「いや、見たいのはカティじゃなくてあの時起きていた事だよ。誰か録画してる人居なかったのかよ」
 あの学会は参加者たちからあっという間に話題になって教授達の知り合いから「彼は誰だ」という問い合わせが殺到した。
 もちろん綾人の発表を見た後なので同じ大学と言うのもあって誰だなんてその意味通りの答えを要求してはいない。
 それぐらいに綾人の経歴が真っ白なので好奇心を駆り立てられていると言う段階だ。
 仕方がない。
 綾人はどこの国のメンサにも所属してないし、IQテストも受けた事がない。
 高校時代まともに勉強してなかったので塾などで繋がりの出来る上位陣とも知り合いはいないし大学の進学の経歴もない。
 辛うじてカレッジに行く為に大学の入学証明書を会得すると言う程度の経歴ではどの程度かもわからない。少し大学生生活を体験しておこうと大学に通ってみたが、一般教養の授業ばかりなので速攻辞めたのは言うまでもない。
 こうなると綾人の両親の綾人に対する興味のなさが逆に綾人と言う人間の神秘性を上げているような気もするが、そこは知らんがねと言うだけの綾人だった。
 
 ケリーは外から綾人のアパートの部屋を見上げ、零れ落ちる灯を少し眩しく眺めながら
「やっとアヤトに似合う彼女が出来たんだね」
 その意見にはウィルも頷き
「アヤトを翻弄する事が出来るカティとなら上手くやっていけるよな」
 柊も「そうだね」と頷く。
「いつまでも綾人の部屋で騒げなくなるのは寂しいけどな」
 しっかりと綾人を兄のように懐いてしまった叶野の本音に
「だけどカティみたいな良い子は滅多に居ない」
「だな。話も合うようだし、良く二人でショッピングに出かけたりしてるぐらいプライベートも充実しているみたいだしな」
 アレックスとクリスも女運のない綾人にやっと巡って来た恋の予感に二人の仲を認めるように頷きあう。 
「そうなるとカティと結婚してアヤトがイギリス国籍になればいいのにって思うね」
 ウィルの小さな希望はそれだけお似合いだと言いたいのだが

「だけど綾人は日本に帰る。 
 あっちには綾人の生活の基盤があって、カティよりも大切な人達がたくさんいて……
 綾人はそっちを大切にする」

 俺達が幾ら望んでも綾人はここは譲らないだろうと言う事を釘を刺して、俺達の勝手な願いと思い込みで綾人を縛り付けるなと叶野は注意をすれば

「だよね。
 やっぱり綾人は帰っちゃうんだよね」

 しんみりとフェイは言葉を落すが

「なのでもう一年カレッジ生活が残ってるので後悔が無いようにお付き合いしましょう」

 常に手のかかる叶野の面倒を見ている柊は常に冷静で、何をもう卒業して居なくなる事を前提に話をしていると言う様に注意をすれば一瞬誰もが言葉を止めて、その後無理やり話を変えるかのように
「よし、この後ウィルの家で飲もう!」
「なんか食べる物買って来るよ!」
「でしたら簡単な物作りますのでリクエストしてください」
「あああ、最近すっかりウチが溜り場になってるよ……」
「御礼にウィルはお金出さなくていいからね」
 ジェムの言葉に苦笑してしまうウィルは
「だったらビールはしっかり買って来い!」
 料理よりもビールを頼む当たり将来を心配する柊だった。



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