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ゼロとイチのパズル 4

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 いや、これからが勝負どころなのだがとりあえず綾人は自分の仕事は終わったと思いたかった。
「エレガントな結末だ」
「いや、この場合自業自得って言うんでしょ」
 罠しかない施設の中に飛び込んで捕まるんだからホイホイに飛び込む奴らと同レベルだとしか思えない。
「何でそんなに自信満々に侵入したかなあ」
「そりゃ、まさか【MU-OEC】が他のシステムを操作するとは思わなかったからだろう」
 エドワーズと笑いながらも所長の視線が痛い。
「システムのハッキングに対するだけがシステムの防衛だけじゃないだろうって発想からの物であって、ハッキングするとなるとエドワーズから聞いていた専用施設で直接オリジナルに接続しないといけないと言う話しを聞いた時に組み込んだハッキング後の防御はお約束じゃん……」
「映画みたいなセキュリティがその辺にあってたまるか。しかも別系統のプログラムを支配して……
 この施設で命に係わるシステムがあってはいけないんだ」
と言う溜息をつく。
 まあ、人がどうこうなってしまった事故物件ならぬ事故施設で働くのはまずいよなと思いながら
「じゃあ、その辺の所もプログラムに書き加えよう。
 事件が起きて……十分後にはセキュリティは勿論救急車も万全の状態でスタンバイしてたからそれを目安に自動で解除する様にプログラムしておくねー」
 おくねー…… って、そんな軽いノリで採用するのかと思いながらも綾人は使用許可されたコンピュータに一つのプログラムを構築して【MU-OEC】にアクセスをする。
 既に用意してある物ではなくその場でプログラムを組み、実に簡単にあっさりとアクセスしてしまった。
 管理主任となるエドワーズも知らないプログラムを打ち込むのをそんなの知らないと悲鳴をあげそうになった所で二人の目の前にはきっと二人が知る【MU-OEC】の起動画面が浮かび上がった。
 え?何で?
 エドワーズに訴えられても俺だってそんなの知らんと身の潔白を訴える。
「エドワーズに渡したパスワードが家の玄関から入る暗号キーだとしたら、今俺がやってるのは裏口から入る暗号キーになるって想像してもらいたい。
 何かあった時の為に細工しておいたけど、普通にハッキングしても見つからないように隠してあるから今回みたいな非常時に使うといいよ」
 後で教えておくよと言う合間にもものすごいスピードでプログラムは次々に起動して項目が立ち上がっては流れて行く。幾つにも項目別に整理整頓されている中でやはり崩れたプログラムはレッドアラートと言う様に赤色になっていて、そこを中心に「とりあえず末端の修正をするねー」なんて気楽な声で修復して行く。俺達はその中身を知らないから見て行くだけだが打ち込むのも早いと思ったがそれを目視で確認するスピードの速さも舌を巻く。
 何でこんな逸材が山奥に引きこもっているのかそればかりが不思議だがきっとこのプログラム自体も綾人にとっては大したものではないと思えば納得はいく。嫉妬にまみれた俺はこの理不尽なまでの才能に納得できないが……
「さてと、折角だからまずはプログラムは元通りにしたらエドワーズ、使ってみて使いにくい所とか欲しい機能とか追加するからどんどん言って。
 折角だから時間まで大型アップデートするぞー」
 それから何の文字も浮き上がらないパスワードを求められるボックスが出てきて、綾人はやたらと長い長文を打ちこんだ。
 何かの詩集のようだが生憎エドワーズにも所長にも判らなかった。
 まさか綾人の産まれた国の歌の歌詞が打ち込まれているなんて誰も思わないだろうが、パスワードは長ければ長いほどいいと一般にはいう。ハッキングする専門職の人は機械任せだから意味がないのでこの時点は綾人は解読した人がこの事に気付いた時にブチ切れる事を想像して楽しむ事にしていた。
 仮令めんどくさくてもだ。
 そんな所もさらっと終えれば一つのプログラム画面が出てきた。
 真っ黒のウィンドウは馴染のあるコマンドプロンプトにも似たインターフェースだった。
 このソフトの中のいろいろなプログラムに命令を下す頭脳と言うべき文字と数字の羅列。このソフトの中枢とも言うべきメインプログラムは驚くほどのゲートの数にこうやって守られていたのかと感心しながらも
「そういや使い勝手どうだった?
 俺は俺が使いやすい様に組み立ててるから意見が聞けたらいいんだけど?」
「俺は使いやすい表側から使ってるから不便はないよ」
 リーヴスは寧ろあんなにも使いやすくて心配だったと言い
「もっとも組み込んで稼働するまでが大変だった。並列して稼働しているプログラムをことごとく悪意あるウィルス何て騒いで、一つ一つ認識させるのが面倒だった。
 と言うグラハムに
「俺と同じで人見知りしてるんだよ。まずは自己紹介と思えば妥当なもんだろ?」
 綾人のイメージ的な説明にグラハムはぶるっと体を震わせ
「つまり、出会って即バトルして支配下に置いたって言う分けか。かなり乱暴だなあ」
「子猫がじゃれ付いたって思えば可愛いじゃん」
 ありえねー何て全員で爆笑。
「さて、そろそろ追加したい物は決まったか?」
「そうだなあ。じゃあ、例えば……」
「となるとアクセスしやすいショートカットキーが存在するからそこから侵入しよう」
「侵入かよwww」
 笑うエドワーズに
 四人はまるで兄弟のようにまるでゲームでもするかのように楽しい笑い声をあげながらバージョンアップを始める背中を見れば所長はもう大丈夫だと安堵のため息をそっと零す。今はこの二人より確保された人物の方が重要懸案だと割り切って部屋を後にする事にした。
 だけどその前にだ。
「アヤト、前々から聞きたかったがこのプログラムの名前の【MU-OEC】ってどういう意味だい?何かの暗号のようだが、意味を聞いてみたかった」
 八つに切られたピザを見つけて一つ貰うよと齧り出す所長に綾人は渋面を作りながら
「適当につけた記号だから。折角だから新しく名前を付けても良いけど?」
 ふむと考える。
 意味の解らないコードより親しみやすい単語の方がいいだろうと考えれば思いついたのは凍え震える人物からの想像。
「だったらアイスウォールにしよう」
「氷壁ね。凍えて寒そうだったしね。だけどファイアーウォールに対して安直すぎじゃね?」
「そのシンプルさがいいんだよ」
 単純でも納得と笑う綾人は所長のそのセンスを褒め称えた。

 まさか適当に付けた【MU-OEC】の意味が深山(M)の烏骨鶏(U)はお(O)い(E)し(C)なんて頭文字と発音を掛け合わせてみた事を言うわけにはいかない。
「綾人、ネーミングセンスなさすぎだからって拗らせても面白くならないよー」
 こよなく俺の世話を対烏骨鶏レベルでこなしてくれる親友に送りつけるファイルの名前について毎度小言を言われていた事をふと思い出し、そっと視線を反らせた。
 これは墓場まで持って行く懸案だと言う事を所長を褒め称える笑顔で誤魔化すのだった。


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