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ゼロとイチのパズル 1

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 選択なく連れてこられたカリフォルニアサイエンスセンターで大はしゃぎなのは俺だけだった。
 ここの関連会社で働いているエドワーズの生温かい目、この近くに住んでいる助教授さん、何度も来た事があると言うカーライル教授とカティの微笑ましそうな視線はシャットアウト。
 何度も宇宙に行ったスペースシャトルが目の前にあり
「俺も乗りたかった!」
 食い入るように見上げていれば
「そうだね。みんな乗りたかったんだよね」
 プログラマーで名をはせてもシャトルに乗れなかったエドワーズの視線ももう決別できた過去と言う様に穏やかな視線で機体を見上げていた。
「エンデバーと写真撮るからこっち向いて!」
 カティの声に俺は振り向くも自然とニヤけてしまう全開笑顔に撮った写真を皆で見て大笑いしていた。
「うわっ、俺こんなキャラじゃねーし!」
「アーヤートーかーわーいーいー!」
 永久保存と言ってカレッジの友達に送ると言う暴挙をしでかしてくれたカティのおかげでこの後メッセージがわんさかと届く罰ゲームに強制的にスマホには一時お休みしてもらった。
「お前ひっでーな!」
「ふふん。旅の思い出にはぴったりでしょ?」
「くそー、次は何があっても手伝てやらないからな!」
「さすがにあんな事は二度とならないようにこれからは細心の注意を払うよ」
「細心の注意を払った結果があれだから自分の首を絞めない程度にしてくれ」

 全員でまさかの学会で真っ白のモニター、真っ白の原稿を見るとは思わなかったビックリ出来事は過去もこの先もないだろう。ない事を願う大事故だが、それ以上に綾人が目立ってしまった。主役を奪うのはマナー違反と言うか発表する人が主役になれよと思うが仕方がないだろう。
 タイピングの速さは元より内容を多少スローダウンしてるとは言え話すより先に打ち込む為の記憶力と同時進行する図形作り。こちらはお粗末だったがそれでも証明する為の計算力は答えが分っていたとしても圧巻だった。本来なら計算式をはじき出した後のシュミレーションはスパコンを頼ったりもする。カティも天候の予測を入れた為に幾つかスパコンを使用していた。
 もちろん学会は発表の間誰もが大人しく座って聞いているわけではなく、たまに野次を飛ばして来たりする人もいる。
 もっともその野次を乗り越えてこそなのだが、そこにも綾人はカティが提案する計算式を使って展開式を一行だけ入れて答えを導き出し
「時間も迫っていますので詳細は各自お願いします」
 綾人の無機質な声でのアナウンスにはカティも一瞬言葉を忘れてしまうほどだった。
 多分本日一番のハイライトだっただろう。
 綾人的には忙しいのにめんどくさい事言いやがって程度だが普通は出来ない。
 暗算で答えれる問題じゃない。
 これは完全に綾人の失態。カティに友達辞められても仕方がない案件だったがどのみちもうすぐ卒業するから関係ないだろうと開き直れるのが綾人の悪い所でもある。
 
 そんな綾人のしでかしを棚の上に上げておいてカティを注意するので理不尽だと思われるのは当然で、このような仕打ちを返されても文句言えないのは当然だ。
 見学も夕方からのパーティに間に合う様に急ぎ足で回る事となり綾人としては不完全燃焼だったが
「またこればいいじゃないか。今度はじっくり案内するよ」
 エドワーズの優しさにもっとじっくり見学したかった綾人は
「次来る時はエドワーズの家にも泊まらせて!」
「よし来い!朝まで飲むから覚悟しとけよ!」
「俺お酒は好きだけど弱いからバケツも準備しておいてwww」
「バケツってなんなんだよwww」
「吐いても呑むからよろしくなwww」
 は?とフリーズするエドワーズと隣で聞いていた助教授だったが俺のアルコールの酔いやすさはそれなりに近しい人では有名な話しなのでカーライル教授もカティも当然知っているからこそそれでも呑むのかとどん引きしている。
 だけど差し迫る時間に
「じゃあ、期会が在ればまただ」
「こちらこそプロフェッサー・カーライルとお話が出来て光栄です」
 そんな大人の礼儀を交わし、俺達はホテルに一度戻って俗にいう打ち上げパーティに出る為に着替える事にした。

 そう、パーティに出席するはずだったのだ。

 この日の為にカティに教えてもらったテーラーでジャストサイズのスーツを作ってもらって同様にテーラーで勧められた靴屋で靴も作った。ロードもこれなら問題ないと太鼓判を押してくれた俺のおめかしセットを着ていたはずなのに……

「アヤト!時間がないから手伝える物は指示を出してくれ!」
「エドワーズ、だったらこれから言うプログラムを作って欲しい!」

 パーティで乾杯したあと知り合った人達と記念写真を取る事にした俺は昼間に電源を落していたスマホを思い出して電源を入れて……

 異常なほどの通知の数が上がっていた。
 しかもそれは一人の人物から。
 それは今も響いていて
「エドワーズ、ごめん電源落してたんだ」
「アヤト!やっと繋がった!!!
 悪いが今直ぐこっち来てくれないか?!」
 そんな悲鳴のような声に傍にいたカーライル教授が何事だと気づいて一緒にエドワーズの叫び声に耳を傾けてくれた。
「トラブルが発生だ!
 この前受け取った綾人のプログラムが内側からハッキングされて重大な事故が発生したんだ!」
 ぎょっとするのは俺か先生か。
 一応綾人とエドワーズとの関連はただのネッ友な関係と紹介していたのにビジネスの間柄だとはさすがに想像もした事がなかったのだろう。
「重要な事故って、どの程度の……」
 そこまで悪戯出来るようなソフトではないはずなのにと考えた所で
「このままでは人命の問題が発生する。
 詳しくはここでは言えないから、今会場の方に向かってるからどこかで落ち合えないか?」
 感情を押し殺したような悲鳴にそれだけの重大事故だと言う事は嫌ほど伝わって来たが、今ここでパーティ会場を抜け出していい物か。本当ならこの後の最終フライトでイギリスに帰る予定をカティが変えてしまったので問題はないと言うのは判るが、それでも今は個人単独で動けないと言おうとした所で
「エドワーズ君、明日の朝必ずアヤトをホテルまで送って来なさい。
 もし無理なら私に連絡を入れなさい」
 カーライル教授が俺の手を引っ張って会場をこっそり抜け出してくれた。
 通話は繋ぎっぱなしで教授の指示の下、数分待てば見覚えのある車が目の前に止まり
「ご協力感謝します」
「話は明日聞かせてもらうから、アヤト、エドワーズを手伝ってあげなさい」
「先生はカティをよろしくお願いします」
 お互い一つ頷いてから俺は車に乗るのだった。
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